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「公爵様に無礼を働いた結果、嫁ぐことになりました」第5話 #エンタメ原作部門

〇クロフォードの屋敷【クロフォードの部屋(夜)】
モモエリア「わたしを自室に招いておきながらなにもしない、なんてことはありえませんよね公爵様?」

 クロフォードの部屋をノックするモモエリア。
クロフォード「入れ」
モモエリア「し、失礼します……」
 はじめてクロフォードの部屋に足を踏み入れるモモエリア。
 金髪をおろしたクロフォードが、メガネをかけて書物を読んでいる。
クロフォード「悪いな、夜遅くに」
モモエリア「いやいや、まだ夜遅くってほどの時間じゃないわよ」
モモエリア(M)「使用人時代はあと二時間働いていたし」
 メガネを外して席を立ち、ベッドに座る。
クロフォード「そんなところに立っていないで隣に座れ」
モモエリア「あ、うん」
モモエリア(M)「こ、これはもうまちがいなくアレする流れよね」
モモエリア(M)「わちゃめちゃスクランブル待ったなしだわ!」
 長く沈黙が満ちる。
 ちらちらとモモエリアが目を配るも、クロフォードは正面を見つめたまま。
モモエリア(M)「これは……わたしから襲いにかかれってこと?」
モモエリア(M)「うさぎさんが、ライオンさんを食べろってこと?」
クロフォード「すまない」
モモエリア「なにに対しての謝罪かしら?」
クロフォード「なぜお前を選んだのか、打ち明けるのに三日も要してしまった件に対する謝罪だ」
 やっぱり正面を見つめたまま、クロフォードは話を続ける。
クロフォード「俺は〝獅子王〟と呼ばれ皆に恐れ慄かれている。道を歩けばなにか言わずと勝手に中央の道が開けるし、俺が議会で一言発せばそれが鶴の一声となり議会が終了する。正しいか間違っているかなど関係なくな」
クロフォード「公爵という地位は先の戦争の戦果により得たものだ。武力こそ卓越していると自負しているが、政治についての知識は浅い。俺は勘違いされてばかりだ。魔法も生まれつき使えないしな」
モモエリア「えっ、魔法使えないんですか!?」
クロフォード「あぁ、お前と同じだな。口外厳禁で頼む。一級魔法使いだと勘違いされている現状は割と役に立っているからな」
モモエリア「……いいの? そんな大切な話をわたしにしてしまって」
クロフォード「あぁ、構わんさ。口外しないようにと口止めすれば、お前は絶対に秘密を拡散したりはしない。この一週間、お前の近くにいて俺はそれを確信した」
モモエリア「まぁ実際その通りだけど……わたし、そこまでクロフォードの信頼を勝ち取るようなことをしたかしら?」
クロフォード「あぁ、したよ。今もしている」
 ようやくモモエリアに目をやるクロフォード。
 まっすぐに自分を見つめるモモエリアを見て、クロフォードは頬をほころばせる。
クロフォード「お前の瞳には一切の濁りがない。これまでの俺の人生において、ここまで美しい瞳を見たのははじめてだ」
クロフォード「俺と対峙した男と女は決まって目を逸らす。そして同調に徹する。目を見つめ、異見し、対等に接してくれるのはカルデスくらいだった」
クロフォード「そんな中で、俺に無礼を働き、あろうことか子猫の命を優先するピンク髪の不思議な女と出逢った。俺のことをクロフォードと呼び捨てする異性はお前がはじめてだ」
クロフォード「前置きが長くなったが、なぜお前を選んだのか打ち明けよう」
クロフォード「そのまっすぐな瞳と、直向きな人となりに、俺の心は射抜かれてしまったんだ」
 顔を真っ赤にし、目を逸らすモモエリア。
モモエリア「そ、そうだったのね!」
クロフォード「あぁ、俺に一切敬語を使わない点も高評価すべき点だ」
モモエリア(M)「ごめんなさい、敬語はただ失念していただけですぅ~」
クロフォード「こちらを見ろ。その綺麗な瞳をもっと見せてくれ」
 モモエリアの顎を掴み、無理やり瞳を交わらせるクロフォード。
 この後の流れを悟り、そっと目を閉じるモモエリア。
モモエリア(M)「はじめはこの婚約を快く思っていなかった」
モモエリア(M)「けど今は、この人に嫁げて良かったと思えている」
モモエリア(M)「これまでの人生の中で、ここまで優しい瞳をしてわたしを見つめてくれた異性は彼がはじめてだ」
モモエリア(M)「この人になら、わたしのすべてを捧げてもいい」
 いつまでもキスの感触が訪れず怪訝に思うモモエリア。
 目を開くと、クロフォードが顔を真っ赤にして口を押えている。
モモエリア「……嘔吐しそうなほどわたしの待ち顔がひどかった?」
クロフォード「いや違う! 断じて違う!」
クロフォード「その……わからないんだ」
モモエリア(M)「なんだか不慣れなことをする前の子どもみたいだわ」
クロフォード「き、キスだけじゃなく、恋とか、結婚とか。そういうのはぜんぶ無縁だったから。戦に全部を捧げてきたから。……わからないんだ。その……モモエリア、とお前の名前を呼ぶだけで胸がひどく痛む」
モモエリア「……まさか獅子王のくせに、うさぎの一匹も食べたことないの?」
クロフォード「な、なんて破廉恥な表現をするのだ! ……大鷲や大蛇なら容易く狩れるが、この鼓動の高鳴りとはどう向き合えばいいのかわからない。お前は知っているか?」
モモエリア「……」
モモエリア(M)「え、めっちゃ初心なんだけどこの公爵様」
モモエリア(M)「その名を聞けば誰もが震えあがるあの獅子王様が、わたしとのキスに――恋愛感情の処理にあぐねて瞳を潤ませているなんて……」
モモエリア「……ふふ、可愛いおひと」
 クロフォードの頬を指先でなぞるモモエリア。
クロフォード「な、なんだそのいやらしい手つきは!」
モモエリア「クロフォード、わたしね、恋愛作品が好きでよく書庫で読みふけっていたの。夜通し読み続けたこともあったわ」
モモエリア「だから、こと恋愛の知識においてはわたしに優位があると思うの。恋愛という畑ならわたしが獅子王よ!」
クロフォード「え、俺と婚約する以前に付き合っていた男がいたのか?」
モモエリア「え、いないわよ?」
クロフォード「あ、そうか。……ならよかった」
モモエリア「ふふ、嫉妬してるの?」
 クロフォードに詰め寄るモモエリア。
モモエリア「わたしを自室に招いておきながらなにもしない、なんてことはありえませんよね公爵様?」
 ぷるぷるするクロフォードの頬に唇を押し当てるモモエリア。
 人差し指を唇に当てて、片目を閉じる。
モモエリア「わたしがみっちり恋を教えてあげるから安心なさい。あなたの妻になったことを、わたしは少しも後悔していないわよ」
クロフォード「……そうか。そう言ってもらえて少し気が楽になった」
 モモエリアの頬に手を添え、唇を重ねるクロフォード。
 モモエリアは顔を真っ赤にし、クロフォードは目を逸らす。
クロフォード「……妻に常に優位に立たれていては、夫として立つ瀬がないからな」
クロフォード「……その、はじめてだが、うまくできていたか?」
モモエリア「……か」
モモエリア(M)「かわいいなぁこの獅子王様!」

モモエリア(M)
「こうして公爵様に無礼を働いてしまったわたしがなんだかんだあって公爵様に嫁ぎイチャイチャする物語の幕が開けたのでした」
「……まぁイチャイチャできるかは、わたしがどこまで余裕なふりができるかにかかってるんだけどね」
「やばい初キス超緊張して心臓爆発しそう!」

第5話 ーFINー




 


 


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