『完結』【勇者一行の”聴き“壁役やらせてもらってます。 〜壁役の私は、話を聴くたびに最強の盾を得る〜】最終話 灯火は煌々と燃ゆる #創作大賞2025
乗り合い馬車ではないしっかりとした作りの馬車には初めて乗った。儀装馬車と言う名らしい。飾りなどが多い煌びやかな馬車で、ひと目でお偉いさんが乗っていると分かる馬車であった。語彙力無いのか?
向かう場所は妖精の森。アルベドが母を帰し、古くに居た聖女を住まわせた森であった。馬車は広く、私とアルベド、水戸場とアガタが乗り合わせていたがそれでも広いものであった。後わたあめが私の膝の上で丸くなっているが揺れも気にしないのか、ふこふこと私の膝の上は暑いくらいだった。
車窓から外を眺める。一面が森であり変わり映えのしない景色が続く。街から離れていっているのだから当たり前ではあったが、味気ないものだなと考える。
水戸場とアルベドの話に耳を傾ける。
「古くに聖女が居た、とのことですが、やはりその方も白で?」
「ああ、妖精の血を引く女だった。今も森に住っているはずだ」
「ご存命なのですか……。妖精は寿命は如何程あるものなのです?」
「その妖精により差はあるが、二百は生きる。僕は混血児だが竜の妖精だ。千年は生きるだろうな。そもそも混血児は寿命が通常の妖精よりも長くなる傾向にある。聖女もまだ歳若い見目のままやもしれないな」
「……人間の我らからすれば、気の遠くなるような話ですね」
ねえ、早池さん。と水戸場に話を振られる。んー、と気のない返事を返し、話を受け止めた。
「私は普通の人間と変わらない寿命だろうけれど、アルベドは良かったの。私は後精々六十年生きるかどうかだけれど」
「人間は儚いものだな。しかし、その命を爆ぜさせるような刹那の輝きは眩いものだろう」
それを近くで見られるのならば、構わない。そうアルベドは言う。車窓からアルベドに目を向ける。少年の姿の彼は、私を見上げ私の片手を握って、笑みを浮かべていた。
「人間と言うよりは、マコトが愛おしいと思っている……と言うことなのだろうが」
「人間のことも好きになっていただけると嬉しいんすけどねえ」
「ミトバのことは僕は好ましく思っているぞ?」
「それ水戸場が母親に似てるからでしょ」
ふふ、とアルベドの母の肖像画を思い出す。今思い出してもそっくりだったので笑いが漏れる。水戸場を見ると白けた目で私を見ていた。
「僕も似たくて似たわけではないのですが」
「でもその見目で得はしているでしょう」
「それはそうですが……」
「まあ王の寵愛を受けるのは私だけれど、水戸場もオキニだからいいんじゃない? これからきっと重用されますよ」
「その立場はアガタさんに譲ります」
「お、俺か!?」
話を聞いているだけであったアガタだったが、突然話を振られて動揺していた。
「僕はアガタにも信頼を置いているぞ」
「有り難きお言葉です!」
「僕はアガタさんに騎士となれと扱かれていますけど、実力も品位も申し分ない方でしょう。僕よりも使えますよ」
「いや、ミトバ。お前は他の騎士たちが足元に及ばないほどの実力を持っている。お前こそ王に相応しいだろう」
「別に謙遜したんじゃなくて、面倒だからあなたに押し付けようとしていたの、察してくれませんか?」
水戸場の正直すぎる発言にアルベドが声をあげて笑っていた。水戸場は正直向上心はある人間だとは思うのだが、自身の興味のない分野に対してはそうではないのかも知れない。しかしこれから騎士として生きねばならないのに、このやる気のなさはどうなのだろうか。
「まあアルベドが使ってくれなくても、私が遊んであげるからさ」
「あなたの玩具になるのもっと嫌です」
「んなこと言うなよお、水戸場ァ」
「ダル絡みやめてくださいよ」
などなど我々が雑談に興じていると馬車が緩やかに減速していく。そうして完全に止まると御者が扉を開けた。
「到着しました。どうぞ外へ」
アガタ、水戸場、アルベド、私の順に外へと降りてゆく。ここは妖精の森の入り口に相当する場所らしく、アガタの先導で森へと入ってゆく。
「アガタはここの森の出身なのだ。森のことならばアガタに聞くといい」
人の往来があるからだろう。道ができている。歩きにくいこともなく、森の深くへと進んでゆく。小さな羽根の生えた妖精がくすくすと笑いながら、アガタに声をかけた。他にも小さな妖精たちが現れてはアガタに何かを囁いて去ってゆく。あれは何をしているのかと問うと、おかえりと言っているのだとアルベドが教えてくれた。
徐々に森が開けてくると、妖精たちの住まう家々が見え始めた。木造の可愛らしいものが多く、人間とさして変わりのない妖精が行き来している。ひとりの妖精がアガタを認めると近づいてきた。
「アガタ! 久しいねえ。王もお久しゅうございます。……ああ、その鳥、選ばれた方ですか」
「ああ、僕の妃だ」
「それはそれは。ようございました。母君の墓前に?」
「そのつもりだ」
「ミシャが今日も手入れをしています。どうぞ、母君と語らいくださいませ……」
礼をするとその妖精は去っていった。アルベドの母の墓前に向かう道をアガタが案内してくれる。妖精たちはアガタやアルベドに礼や歓迎の言葉を投げかける。二人はそれに応えつつ、森の深くへと向かう。
ちょちょちょ、と目の前に鳥が出てきた。ちょうどうずらくらい。わたあめと同じくらいの大きさの鳥で桜文鳥によく似た柄をしている。
「マコト、見ろ。あれはわたあめと同種の鳥だ」
「え!? あれが!?」
わたあめの見目は白文鳥だが、一般的な同種の鳥は桜文鳥と似た見目をしているらしい。そりゃ確かに真っ白いわたあめは神鳥と言われるか。と腕の中のわたあめを見た。
「群れに帰しても虐められるかもしれないね」
「いや、あまり強い上下関係を持たない群れだ。帰しても自然と受け入れられるだろう。ただわたあめが、マコトの側に居ることを望んでいるだけだ」
「……わたあめむちょむちょ」
「なんで突然わたあめにキスし出すんですか?」
水戸場にうわ、とでも言いそうな顔で突っ込まれる。だって愛おしかったのだもの。と言えば、そうですか……と目を逸らされた。
ちょこちょこと桜文鳥のような鳥が増え始める。なんと言う名の鳥なのかと問うと、妖精の森にはこの鳥しか居ないから鳥でしかない。とのことだった。だったら大文鳥って勝手に呼ぼう。
森の中を進んでゆくと大きな泉が現れた。泉の向こうにひとり妖精の姿があった。泉の側を迂回しつつ、そこを目指せば、女性の姿に、墓が建っていた。
「母上」
「アガタ、久しぶりですね。王もお久しゅうございます」
「ああ、ミシャ。息災か?」
「おかげさまで」
ミシャと呼ばれた女性は白い髪を持つ美しい妖精だった。アガタに母上と呼ばれていた。アガタと見比べるがあまり似てはいない。
「ミシャ、彼女はマコト。僕の妃だ」
「まあ、おめでとうございます」
「マコト、彼女は古い話にあった聖女だ」
「え!? じゃ、じゃあアガタって」
「ミシャと騎士の子だ。騎士は既に没しては居るが、アガタの他にも子はいる」
あ、アガタのやつ、聖女と騎士の子供だったのか……。古い話だと思っていたが、当事者は生きているし、子供は居るしで少々混乱した。
「歴史の生き証人というやつですか。ミシャさん。僕は水戸場翼と申します」
「あ、私は早池誠と」
「ミトバさんにハヤチさんね。初めまして」
「僕と早池さんは、あなた方の後発ですが、イルガル国からメルクト国へと王を尋ねてやってきた人間なのですが、古く、あなた方が旅をしていた話を後で聞いても?」
「ええ、構いませんよ。ああ、その前に」
ミシャが墓前から立ち上がってアルベドに墓前へと行くように促した。アルベドは墓前に向かいしゃがみ込む。手のひらの中で光が散ったと思うと、薔薇の花束が現れた。それを墓前に置くと、私を呼んだ。
「母上、僕に愛する者が出来ました。……あなたには少し申し訳ないが、人間です。しかし、心優しく、僕を目覚めさせてくれた勇気ある人間だ」
「お母様、早池誠と申します。この度、ご挨拶遅くなってしまい申し訳ありません。……アルベドを支え歩んでゆくと誓います。例え、短い生であっても彼と共に。良き人間としてあろうと尽くしてゆきます。この国ために。妖精のために。人間のために……」
思わず手を合わせた。祈りがどうか届いて欲しいと願いながら、言葉を口にした。目を開けてアルベドと共に立ち上がった。ミシャが家へと招いてくれると言うのでそれに従う。
「……ここには他に墓はないのですね」
「墓の下に遺体はないのです。純血の妖精は死ぬと遺体を残さず消える。あれは、私たちの憐れみの形です。……夫の遺体は別の場所にありますが、アルベド王の母君は特別にこの泉の近くに造られました」
「生前、この森に住っていた時、母はこの泉が好きだったそうだ。だからこうして形だけでもと妖精たちが造ってくれたのだ」
人間の真似事だな。とアルベドが呟く。ぽこんと頭上から飴玉が降ってきた。飴玉を拾い、振り向いて墓を見れば、小さな妖精たちが薔薇の花を泉に流していた。赤い薔薇は透明な泉を漂う。あの花がアルベドの母の元へと届くことを願った。例えもうこの世に居らずとも、アルベドの愛した母なのだ。人間を憎んでいた元凶だったとしても、私には憐れみの人だった。
ミシャの家へとゆく道すがら、わらわらと大文鳥たちが群れていた。腕の中に居たわたあめは興味を示していたが降りようとはしなかった。足元をちょこちょこと歩いてる大文鳥も同様にわたあめに興味を示してはいた。一度立ち止まってしゃがみ込む。一羽の大文鳥がわたあめの羽繕いをしたが、きゃん、と鳴くとダンスを始め、歌を歌い出した。
求愛の歌だったがわたあめは興味を示すことはなく、私の頭によじ登ってきた。あんまりに数が多いものだから驚いているのかもしれない。
その後ミシャの家へと着いた。アガタの生家でもあるだろう。家へと招かれ席へと着いて、アガタが茶を淹れてきた。茶をもらい飲むとハーブティーにようだった。アルベドはソファに深く腰掛け、ふう、と深く息を吐いた。
「……この森に来るのは久しいな」
「そうですね。私がこの森へ住まえるよう取り計らってもらった時以来でしょう」
「そんなに前か……母にも、それほど会っては居なかったのだな」
「寂しがっていたかもしれませんね。王を愛していらっしゃったのですもの」
「……その愛も、今は本物か分からなくなってしまったがな」
アルベドとミシャの話を黙って聞いていた。王は母に愛されていたのは確かだろう。しかしそこに憎しみが無かったかと言われると首を傾げる。愛憎含めての愛だったのだろうとは、今はアルベドも思っていることであろう。
母の愛を疑わせる結果としたのは、私の言葉が原因だ。それに関しては申し訳ないことをしたと思っている。けれどアルベドを目覚めさせるにはそうするしか無かったのだと、自分に言い訳をした。
ミシャがアルベドに語りかける。
「愛していらっしゃいましたよ。王のことを」
「何故そう思う」
「昔、話してくださったことがありましたね。王が城下へと抜け出して大事になった時のことです」
「やんちゃしてたんだな」
「う」
「勝手に抜け出して、心配させて、それでも母君は笑ってあなたを迎えたそうではありませんか。私も母となったから分かりますよ。心配させて怒って、なんて簡単です。けれど、母君はそうはなさらなかった。王が楽しかったのだと。その想いを汲んで、あなた様を笑って出迎えてくださったのです。小さな冒険を、喜んでくださった。それを愛と言わずになんと言うのですか?」
ミシャは目を伏せながら笑ってそう言った。私だったなら子供が無茶な冒険に出たのならば、叱ってしまうかもしれない。けれどアルベドの母はそうはしなかった。息子の成長なのだと、笑って出迎えた。心配だっただろう。不安だっただろう。誰かに殺されやしないか、攫われやしないかと不安もあっただろう。けれどそれでもアルベドの気持ちを汲んで、笑っていたのだろう。
確かにそれは愛と言えるだろう。何者にも覆せない。私の言葉なんかでは否定することなんてできない愛そのものだった。
アルベドはちゃんと愛されていたのだ。アルベドにとって城とは負の象徴だった。母を閉じ込める牢獄だった。自分を縛り付ける枷だった。黒として産まれても、白として産まれてもそれは変わることはなく、その事実だけはそこに深く鎮座していた。
「アルベド」
「……なんだ」
「母君は可哀想だとか、自分は不幸だとか言っていた割には、子供時代やんちゃはしていたんじゃん。言ってないこと多すぎ」
「ぐ」
「これから長い付き合いになるんだし、たまに昔のことを聴かせてよ。幸せだったと思ったことをさ」
「ああ、そうだな……」
茶を口に運びながらアルベドは苦笑した。アルベドはちゃんと望まれて産まれてきた子供だった。愛を受け、愛を返すことが出来る妖精だった。それは今の私が一番知っている。人間でも私を望んでくれた。わたあめに選ばれただけが理由ではない。私を見て、惹かれたのだと以前言ってくれた。
それだけで、私は今とても幸せな人間だと言えるだろう。
「ミシャさん、古くに聖女だった時の話をお聞かせ願えませんか?」
水戸場の問いにミシャは穏やかな笑みを浮かべて肯定した。
四人でミシャの話を聴きながら過ごし、私の上に食物が降り注ぐ現象の説明をミシャにして、ミシャはその見目にそぐわぬ豪快な笑いを見せて私を驚かせた。アガタは呆れてはいたが笑っていた。母になると言うのはこう言うことなのかもな。と少し考えた。
その後、私たちは森を後にし馬車で王都へと戻る。馬車の中で皆無言ではあったが、気まずくはなかった。
ぼそり、と水戸場が呟いた。
「あの美しい森は、これからも営み続けていくのですね。妖精の手によって」
「……あの森を愛する妖精たちが居続ける限り、無くなることはない。例え戦火に飲まれようとも、妖精たちは再びあの森を作り上げるだろう」
「わたあめの実家だからまた行こうねアルベド」
「……そう言えばなんですが」
「何」
「これ、どうしたらいいですか」
水戸場が来ている外套のフードから大文鳥が一羽現れた。
「えええ、何連れてきてんだよ! 鳥獣保護法に違反するぞ!」
「放しても放しても潜り込んできてたんです。結局連れてきてしまいました」
「あっはっはっはっは! ミトバは面白いやつだな!」
結局、途中の道に放すわけにもゆかず、城に連れ帰り水戸場が飼うこととなった。が、いつに間にかわたあめと番ったのか卵を産み、雛が生まれ城の中にはちょこちょことそこらを歩く大文鳥が見られるようになったのであった。
城の者には大層可愛がられるようになった。わたあめも寂しくはないだろう。と子供たちと戯れるわたあめを見ながら、自身の大きくなった腹を撫で、アルベドと共にそれを見守るのだった。
いつもの日常が突然ひっくり返るようなことは、滅多に起こらない。平和な世とも言い難い。けれど何が起きても誰かと協力すればどうにかなる。いつもの日常がひっくり返ってしまった人間としてではあるが、前を向くことをやめなければ、誰かを救うことが出来ることはある。
これは私の話ではあったが、水戸場の話でもある。どれだけ小さな灯火であっても、誰かにとっては輝く月のように明るく優しいものだ。アルベドの人間への期待は小さな消えいるような灯火だったが、今や煌々と燃え盛る希望へと姿を変えた。
この灯火をこの先絶えることなく繋いでゆく。私の人生をもって、必ず。
前の話(第二十二話)
