LDは学びの多様性
新年度あけましておめでとうございます。
皆さんはいかがお過ごしでしょうか。春から進学や就職、異動などで環境がガラリと変わり、新生活がスタートした方も多いかと思います。
繁忙期を終え、漸く落ち着いてきたので、2か月ぶりにnoteを再開します。
LDといえばディスレクシア、映画「TOP-GUN」(1986)で一世を風靡し、有名になったハリウッドスター、トム・クルーズを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
本題に入る前に、基本的な定義と概念から確認しましょう。
LD/SLDの定義と概念
学習障害とは、基本的に全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/002.htm
「学習障害」(Learning Disability)とは、1963年にKirk, S.により提唱された教育的用語でした。今は既に死語となっていますが、かつては言語性LD(聴覚性言語の欠陥,読みの障害,書き言葉 の障害,算数の障害)と非言語性LD(身振り, 身体像,空間知覚,左右知覚,社会性知覚などに困難が生じやすい)に大別されていました。しかし、非言語性LDについてはアスペルガー症候群(現在の自閉スペクトラム症:ASD)との類似性が指摘され、後に区別されています。
一方、医学領域では1950年代から60年代にかけて微細脳機能障害(MBD)という概念が登場し注目されましたが、やがて学力を中心とする学習の特異な困難と多動等の行動的な困難さを特徴とするADHDとを分離して診断するようになりました。DSM-5では学力の三要素、読字・書字・計算の特異な困難を総称して限局性学習症(Specific Learning Disorder)という診断名が用いられています。
DSM-5では、以下の症状のうち少なくとも1つが存在すること、としている。(1)(2)が読字障害、(3)(4)が書字表出障害、(5)(6)が算数障害であり、複数の症状がある場合は併記する。
(1) 不的確又は速度が遅く、努力を要する読字。
(2) 読んでいるものの意味を理解することの困難さ。
(3) 綴字の困難さ。
(4) 書字表出(文章を書くこと)の困難さ。
(5) 数字の概念、数値、計算を習得することの困難さ。
(6) 数学的概論(問題を解くために数学的な概念・事実・方法を適用すること)の困難さ。
LDとSLDは学習上の障害という点では共通しているものの、前者は教育現場から生まれた用語で、後者は医学上の概念です。両者の違いが分かりにくい人のために図を作成してみました。

LDは先ほどの文科省の定義にあった通り、「聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力」と学力の三要素以外も含まれているのに対し、SLDは頭文字のSがspecificであることからも分かるように読字・書字・計算に限定されています。
LD/SLDはなぜ学習障害なのでしょうか。
その謎を解くカギがワーキングメモリー(Working Memory:作動記憶)です。読み書きや計算といった学力と関係があり、慣れを積み重ねて処理を自動化する上でも重要な機能です。

広義の学習障害は,読み書き算数だけではなく日常生活や社会生活において慣れや技能の習得が積み上がらないということ。
— 辺境の魔道士@ギフトミンタラ (@jnkun2015) January 19, 2025
学習能力(学ぶ能力)の障害と言えるか。
学習をどう捉えるかで学習障害の意味が
— 辺境の魔道士@ギフトミンタラ (@jnkun2015) July 9, 2024
読み書き障害,計算障害そして推論障害
推論は算数だけではなく広範囲な学習の習得に欠かせない
WISC-Ⅴでワーキングメモリーが大幅に改訂されたことでWMIが,知的ギフテッド群ではFSIQを押し上げ,読字・書字障害表出障害群では押しさげた。
— 辺境の魔道士@ギフトミンタラ (@jnkun2015) March 17, 2023
学習にとってよりワーキングメモリーが重要かと。
また、オランダのアムステルダム自由大学(Vrije Universiteit Amsterdam)の研究によると、ADHD・読字障害・算数障害に共通遺伝子がある可能性が認められました。ADHDを持つ子どものうち、約半数近くが読み書きや算数の困難も抱えているという報告があります。
読み書きや算数の能力の習得に難があると、当然に学業や仕事にも影響が生じます。発達障害者向けに就労サポートや人材紹介をしているベンチャー企業で有名な株式会社Kaienが実施した「発達障害就業実態調査 2023年度版」では、LD/SLDの診断のある人は(以下、一部引用)
・「障害者手帳」の所持者の割合が多い
・「大卒以上」では少なく、短大や高等専門学校、専門学校など「大学以外の高等教育機関」を卒業した割合が多い
・デザイナー、通訳、編集者など「法務・ 経営・文化・芸術等の専門的職業」に就く割合が多い
などといった結果が調査で判明しています。
リンク先に分析結果をまとめたPDFとYoutubeの解説動画がありますので、理解を深めたい方は一度ご覧下さい。
読み書きや計算に困難のある人やLD/SLDの診断がある人は、決して大学を卒業できないわけでも就労できないわけではありません。こうした困難を少しでも回避しワーキングメモリーの負荷を減らすべく、デザイン系や法務系など事務職ほど読み書きを必要としない職種に就いたり、チャットやメールを活用してやりとりしたり、仕事の役割分担などで合理的配慮を受けながら工夫を凝らして対処している人もいます。
トム・クルーズが得意な視空間認知や身体能力を活かして、俳優として活躍しているように、読み書きや計算の困難を強みやgiftednessでカバーできる可能性もあるのです。
もちろんLD/SLDもASDやADHD等と同様に個人差があり、読み書きや計算の困難の度合いも一人ひとり違いがあるのは当然です。中にはギフテッドでありながら読み書きや計算の困難を伴うケースも存在し、知的能力の高低にかかわらず学習面において何らかの課題がある場合もあります。
だからこそ、「障害」として捉えるのではなく、Learning Diversityの一つとして考えることが重要であると私は思っています。
LDは学びの多様性を広げるための概念ということです。
参考文献一覧
・室橋春光(2016).「学習障害」概念の再検討. 北海道大学大学院教育学研究院紀要, p13
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/60998/4/AA12219452_124%20(5).pdf
・一般社団法人 日本LD学会. 「LD等の用語解説」. 日本LD学会
https://www.jald.or.jp/info/glossary/#glo-id(参照 2025-04-06)
・川崎聡大(2024). 『ディスレクシア・ディスグラフィアの理解と支援: 読み書き困難のある子どもへの対応』. 学苑社. p7
