オリジナルチキン3ピースセット

ブンゲイファイトクラブ2落選作

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「ヒャッハー! 俺はタンジロー! 水の呼吸、壱の型! なんちゃら斬りィィィ!」
「で、用件は?」
「緊急事態だ。金貸してくれ、大野」
「それはこっちの台詞だ」
「電車代だけでも、どうにかなんない?」
「え、お前どっか行くの?」
「学会」
「理解した。今どこ?」
「下宿」
 通話を切って時間を確認すると、深夜零時過ぎ。
 コートを羽織って底冷えした夜道に出る。保坂のアパートまでは、歩いて十分。
 保坂の部屋に入ると、既に小寺が三本目の缶ビールに手をつけていた。
「いらっしゃーい! ゆっくりしてって」
「お前は部屋の主じゃないだろ」
 一方、部屋の主は、頭を抱えて椅子から立ち上がったところだった。
「終わった……」
「どうした?」
「ポスターの準備忘れてた」
「え? 学会っていつ?」
「今日」
「プレゼン資料をA4に印刷して、テープでくっつけるしかなくね?」
「研究室のプリンターなら金かからんな」
 そう言うや否や、保坂はUSBメモリを引っ掴んで外へ飛び出していった。俺は酔っている小寺を叩き起こして後を追う。
 保坂は悪態をつきながら信号待ちしていたので、どうにか追いつくことができた。膝に手をついて息を整えていると、近くのベンチの上に火が付いたままの煙草が捨てられているのが目に入った。こんなところにベンチがあったことに、まず驚く。そして俺の視線は、暗闇の中に淡く灯った赤い炎に釘付けになった。木製のベンチに燻ぶった種火がたちまち燃え広がり、全体を覆いつくして消し炭にしてしまう姿が目に浮かんだ。
 しかしそれに気付いた保坂が、煙草を指で摘まんで火を消してしまった。俺の妄想は夜風に消えていった。
「行っくぞー!」
 青信号。酔った小寺を先頭にして、ビートルズみたいに横断歩道を縦に並んで渡る。人数が足りないが、不祥事でメンバーが欠けるのが最近のトレンドだから気にしない。
 不意に俺は背中に温かいものを感じて、何気なく振り返った。保坂の指から、炎が弾けて渦を巻いていた。蛇みたいにうねりながら鎌首をもたげており、今にも飛びついてきそうだ。
「おい、危ないぞ!」
「ん? どうかしたか?」
「火、出てる!」
「だから?」
 保坂は何もおかしくはないという顔をしている。
「いや、近付けないだろ」
 もっと正しい言い方があるはずだが、そんな言葉しか出てこなかった。
 しかし保坂は燃え盛る掌を開いて、黒焦げになったUSBメモリを俺に見せつける。
「今はポスターを印刷する方が大事だ」
「お、おう」
 先を急ぐ保坂に置いて行かれた俺は、渋々後を追いながら、小寺に小声で尋ねる。
「俺、おかしくないよな?」
「酔っている拙者には保坂の手から火が出ているようにしか見えないから、拙者を当てにしない方が良い」
「いや、助かった。俺は泥酔してるんだという自覚が足りなかった」
 しかし一体何が原因なのだろう。まさかあの煙草の火のせいなのだろうか。
「せっかくだから、儂は口から電撃とか出して欲しいですなぁ」
「電気ネズミかよ」
 その時、道の先で閃光が瞬いたかと思うと、間髪入れずに雷鳴が轟いた。互いに目を見合わせた俺達は、恐る恐る闇に包まれた道の先を覗く。そこには保坂が立っていて、電気ショックで気絶したネズミを丸呑みにするところだった。
「小腹が減ったんだ。大野も食うか?」
「今はポスターを印刷する方が大事だ」
「そうだな。行こう」
 腹を満たして元気良く走る保坂の背中を追いながら、俺達は相談をする。
「警察に電話するか?」
「君は警察に親友を突き出すというのかね」
「じゃあ自衛隊だ。あんなの人間じゃ止められんぞ」
「だがしかし、例え彼が妖怪やプラズマの類に成り果てようとも、友達であることに変わりはあるまい?」
「それはそうだが――」
 と言いかけたところで、前を全力で走る保坂の体が白熱電球のように強い光を放ち始めた。やがてそれは火の玉のような光る物体となって夜の住宅街に舞い上がり、死ぬ間際の蝉みたいに飛び回った。
「小寺、これはお前の言霊ってやつか?」
「じゃあ大野君もプラズマになってみよう!」
 俺は咄嗟に身構えたが、体がタンパク質の塊から変性することはなかった。
「どうやら余は神になれなかったらしい」
「そもそもお前は貧乏神だろ」
 するとプラズマ保坂が、俺達のところへ舞い降りてきた。
「やべぇ。向こうのアパートにラブドールがいたから中に入ってみたんだけどさぁ! 俺の初めて、おっさんに奪われちまった!」
 やっぱりこの馬鹿は、俺の親友だった。

<了>

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