記録という贈り物
タイシャさんは81 歳です。
背は高くなく、華奢な体つきで、大きな眼鏡をかけています。
そして……巨大なバイクに乗っています。
それも、週末だけ趣味で走るタイプではありません。
平日はスーツ姿の会社員、週末だけ革ジャンのバイカー、という日本によくあるスタイルとも違います。
バイクは彼にとって「趣味」ではなく、車であり、移動手段であり、生き方そのものです。
かつてタイシャさんは、私たちの地域ではよく知られているお茶のブランド「美老園」の店舗ディレクターを務めていました。
そして現在は、写真家であり、旅人です。


タイシャさんの作品は日本各地で展示され、県立美術館でも紹介されてきました。
写真コンテストの受賞歴も少なくありません。
2024年にはクルーズ船で世界一周の旅に出て、その「海の上の世界」でも、オーロラを撮影した作品が最優秀賞を受賞しました。


また、北海道の自然をテーマにした彼の写真展は、NHKでも紹介されました。
その展示に、私も思いがけず関わることになりました。
オープニングでヴァイオリンを演奏し、その様子もレポートの中で放送されたのです。


私から見ると、まさに「スター」と言えるような写真家としての経歴を持ちながら、タイシャさんは決して注目を浴びようとする人ではありません。
私たちが出会ったのは、私が日本で行った初期の頃のコンサートの時でした。
タイシャさんの友人宅での、家族的な小さな集まりでの演奏会です。
タイシャさんは、その場にただヴァイオリンを聴きに来たわけではありませんでした。
私を撮影するためにも、特別に招かれていたのです。
そのとき撮ってくださった写真の一枚を、私は後に雑誌『Altyn Art』の「編集長から」のページで使用しました。

でも、写真だけではありませんでした。
タイシャさんはその演奏を、ビデオカメラでも撮影してくれていたのです。
数日後、郵便でDVDが届きました。
美しい写真が表紙に使われた、自分の演奏の記録でした。
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それ以来、彼は私のコンサートを50回以上、映像として記録してくれました。
神社での奉納演奏、街のイベントの小さなステージ、屋外の広場、ホール——
ときには遠くから、巨大なバイクに乗って現れ、
カメラを設置し、静かに撮影する。
そしてある日、彼がぽつりとこう言ったのです。
その言葉は、今でも私の中に強く残っています。
「一番良かったのは、指宿の新しいコンサートホールだった」。
あのとき、私はクラシックのプログラムを演奏していました。
新しく整った本格的なホール、澄んだ響き、きちんと設計された音響。
そこで彼は、初めて「音」と「姿」を同時に、はっきりと感じたと言いました。
音が自然に広がり、
舞台の空間に身体が収まり、
演奏する姿そのものが、とても美しく見えた、と。
そして少し真剣な表情で、こう続けました。
「あなたは、本当はこういう舞台で演奏する人だ。
街の小さな仮設ステージではなく、
きちんとした音響のある、プロフェッショナルな空間で」。
それは評価というより、
長く見続けてきた人だからこそ出てきた、静かな実感のような言葉でした。
その後もタイシャさんは、巨大なバイクで現れては、
カメラを設置し、静かに撮影し、また去っていきました。
こちらからお願いしたのは、ここ最近の数回だけで、
それ以外は、事前の約束も条件もなく、自然に続いていたことでした。
こうして、彼が記録してくれたDVDは50枚を超えています。
編集され、丁寧に仕上げられ、完成したものはいつも贈り物として届けられました。

今、私の家には、そのディスクが静かに並んでいます。
それは単なるコンサートのアーカイブではありません。
誰かが「残す価値がある」と思ってくれた、時間の断片であり、
人生の一部です。
会うたびに、私は必ず感謝を伝えます。
時間を割いてくれたこと、
注意深く見守ってくれたこと、
言葉を必要としない、あの稀有な関わり方に対して。
私たちの仕事において、
本当に価値のあるものは、
必ずしも舞台や拍手ではありません。

ある日、誰かが
「あなたの仕事、あなたの道、あなたの瞬間は、残すに値する」
そう決めてくれた、その存在こそが、
何よりも大切なことなのだと思います。
@アシェル🇯🇵💗
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