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外貨40%のつもりが、実は9%でした|【FPが解説】外貨比率の分母を間違えている人が9割

記事要約

「外貨は資産の40%あります」。そうおっしゃる方に分母を尋ねると、ほぼ全員が金融資産だけで計算されています。ですが個人のバランスシートには、自宅、退職金、企業年金、そして人的資本と公的年金受給権という巨大な円建て資産が載っている。すべて書き出した57歳・大和田さんの外貨比率は、40%ではなく9%でした。分母の直し方と、そこから導かれる意外な結論を整理します。

登場人物

大和田 隆一さん(57歳):都内の精密機器メーカー勤務、部長職。年収1,450万円。妻(54歳・パート勤務)と二人暮らし。金融資産は約6,000万円。
FPたいらく:海外口座・通貨分散を専門とする独立系FP。

※事例は複数の相談内容をもとに再構成した架空の人物です


1.「外貨は40%あります」——その40%は、何を分母にした数字ですか

大和田:先生、1か月お待ちしました。今日は相談というより、答え合わせのつもりで来ました。自分ではかなりうまくやっているほうだと思っているので。

FPたいらく:お待たせしました。まず、現状をうかがえますか。

大和田:金融資産が約6,000万円です。内訳は、円預金が2,500万円、国内の株式と投資信託が1,100万円、そして外貨建てが2,400万円。ドルMMFと外国株の投資信託が中心です。**外貨比率でちょうど40%**になります。

FPたいらく:きれいに管理されていますね。ご自身で計算されたのですか。

大和田:ええ。四半期に一度、エクセルで更新しています。同世代でここまでやっている人は少ないと思いますよ。だから正直、今日は「よくできています」と言われて終わるかと思っていました。

FPたいらく:管理そのものは、上位数%の水準だと思います。そのうえで、ひとつだけ確認させてください。その40%は、何を分母にした数字ですか。

大和田:分母、ですか。金融資産6,000万円ですが。

FPたいらく:そこです。今日はその一点だけをお話しします。実は先日、ブログの読者の方から「長期の分散で、どの指標を一番重視していますか」というご質問をいただきました。私の答えは「新しい指標を足すことではなく、今使っている指標の分母を直すこと」でした。大和田さんのケースは、まさにその典型です。

大和田:……分母を直す、というのは。

FPたいらく:紙を1枚使いましょう。金融資産以外も含めて、大和田さんが持っているものを、全部書き出してみます。

2.大和田さんのバランスシートを、全部書き出してみました

FPたいらく:まず、ご自宅は。

大和田:都内のマンションです。買ったときは5,800万円でしたが、今の相場だと7,200万円くらいだと思います。住宅ローンの残りが1,300万円です。

FPたいらく:では純資産で5,900万円ですね。次に、退職金の見込み額は。

大和田:規程だと2,200万円ほどです。

FPたいらく:それとは別に、企業型の確定拠出年金がありますね。

大和田:あります。1,500万円くらい……あ、そういえばこれ、比率の計算に入れていませんでした。中身も、たしか円建てのバランス型のままです。入社時に選んだきりで。

FPたいらく:多くの方がそうです。次に、保険はいかがですか。

大和田:円建ての終身保険と個人年金を、40代のときに。解約返戻金ベースで1,100万円くらいでしょうか。

FPたいらく:ここまでで、金融資産の外にすでに1億700万円の円建て資産があります。まだ2つ残っています。

大和田:まだあるんですか。

FPたいらく:ひとつは、大和田さんご自身です。 これから65歳まで働いて受け取る収入の総額を、現在価値に直したもの。専門的には人的資本といいます。手取りベースで積み上げて、割り引くとおよそ4,300万円です。

大和田:……自分が、資産。

FPたいらく:はい。しかも大和田さんの給与は、100%円建てです。もうひとつは、公的年金の受給権です。ねんきん定期便では、ご夫婦合わせて月28万円ほどでしょうか。

大和田:だいたいそのくらいです。

FPたいらく:年間336万円を65歳から90歳まで25年間。単純合計で8,400万円、これを現在価値に割り引くと、およそ5,600万円の資産です。これも当然、円建てです。

大和田:……年金を「資産」として計算したことは、一度もありませんでした。

3.40%が9%になった瞬間

FPたいらく:では、合計します。

【金融資産】6,000万円 ・円預金 2,500万円 ・国内株式・投資信託 1,100万円 ・外貨建て資産 2,400万円

【金融資産の外にある資産】2億600万円 ・自宅(時価7,200万円−ローン1,300万円)5,900万円 ・退職金見込み額 2,200万円 ・企業型DC(円建て中心)1,500万円 ・円建て終身保険・個人年金 1,100万円 ・人的資本(65歳までの収入の現在価値)4,300万円 ・公的年金受給権の現在価値 5,600万円

【資産合計】2億6,600万円

FPたいらく:このうち外貨建ては、2,400万円です。

大和田:……えっと、2,400割る2億6,600で……

FPたいらく:9%です。

大和田:9%。40%だと思っていたものが、9%。

FPたいらく:言い換えれば、大和田さんは資産全体の91%を円建てで保有していることになります。しかも、そのうちのかなりの部分は、ご自身では「資産」だと認識すらしていなかったものです。

大和田:先生、これは……気づいていなかったことが問題なんでしょうか。それとも、9%という数字そのものが問題なんでしょうか。

FPたいらく:いい質問です。答えは前者です。9%という数字自体は、実は問題ではないかもしれません。 ただし「40%だと思っていた」ことは、確実に問題です。

大和田:どういうことでしょう。

FPたいらく:もうひとつ計算してみましょう。仮に大和田さんが今日、金融資産6,000万円の全額を外貨に替えたとします。 それでも全体の外貨比率は、6,000割る2億6,600で**23%**にしかなりません。

大和田:……全部替えても、23%。

FPたいらく:ええ。つまり**「全体で40%」という目標は、大和田さんには物理的に達成不可能**なんです。ところが分母を間違えたまま管理していると、「もう40%あるから十分だ」という誤った安心か、あるいは「40%を目指そう」という達成不可能な目標か、そのどちらかに向かうことになります。どちらの道も、正しい判断にはたどり着きません。

4.「年金や自宅を資産に入れるのはおかしい」への回答

大和田:先生、少し反論させてください。年金も自宅も、売って現金にできるものではありません。それを資産に含めて比率を出すのは、無理があるのではないですか。

FPたいらく:もっともなご指摘です。そして、私の答えははっきりしています。売れるかどうかは、この計算の論点ではありません。

大和田:では、何が論点なのですか。

FPたいらく:**「円の価値が下がったとき、それも一緒に目減りするかどうか」**です。それだけです。

大和田:……ああ。

FPたいらく:通貨分散の目的は、換金の自由度を確保することではありません。円という一つの通貨が弱くなったときに、資産全体が同時に沈まないようにすることです。ですから「同時に沈むかどうか」だけを基準に分類すべきなんです。給与は円建てです。年金の受給額も円建てで決まります。退職金も、企業型DCの中身も、円建ての保険も同じです。これらは全部、同じ船に乗っています。

大和田:たしかに、そう言われると。

FPたいらく:ただし、公平を期すために申し上げておきます。この分類は、完全に正確というわけではありません。

大和田:といいますと。

FPたいらく:公的年金には、物価や賃金の変動に応じて受給額を調整する仕組みがあります。ですから、額面が完全に固定されているわけではありません。ただし——この仕組みは、調整の幅を物価上昇率よりわざと小さくする設計になっています。財政を持たせるための仕組みですから、当然です。つまり緩衝材にはなりますが、防具にはなりません。

大和田:追いつかないようにできている、と。

FPたいらく:そういう設計です。ご自宅も同じです。実物資産ですから、インフレにある程度は追随します。ただし、円安と国内経済の停滞が同時に進む局面で、すべての不動産が均等に追随するかというと、それは立地によります。ですから正確には「91%がすべて同じ性質の円建て資産」ではなく、**「91%が、円の弱さに対して無防備か、あるいは部分的にしか防げない」**という表現になります。

大和田:……それでも、結論は大きく変わりませんね。

FPたいらく:変わりません。人的資本の4,300万円という数字にしても、割引率の置き方でいくらでも動きます。仮に半分の2,000万円と見積もっても、外貨比率は9%が10%になるだけです。この計算の値打ちは、精度ではなく桁にあります。

5.【自己判定チェックリスト】あなたの分母は、どこまで含まれていますか

FPたいらく:ご自身で確認できるように、項目にしておきましょう。当てはまるものを数えてみてください。

□ 1. 外貨比率を、金融資産だけで計算している
□ 2. 自宅の現在の時価とローン残高を、直近1年以内に確認していない
□ 3. 公的年金の見込み受給額を、金額で言えない
□ 4. 企業型DC・iDeCoの中身の通貨構成を把握していない
□ 5. 退職金の見込み額を確認していない
□ 6. 加入中の円建て保険の解約返戻金額を把握していない
□ 7. 「外貨比率◯%が適正」の◯に入る数字を、根拠を持って説明できない

【判定】

0〜1個 … 分母が正しく設定されています。あとは維持と定期更新だけです。

2〜4個 … 一般的な水準です。ただし、比率という数字を根拠に判断している以上、その数字が数倍ずれていることの影響は小さくありません。 一度、全項目を書き出す価値があります。

5個以上 … 大和田さんと同じ状態です。 ご自身が思っている外貨比率と、実際の比率が4倍以上開いている可能性があります。優先すべきは商品選びではなく、まず全体像を1枚の紙にすることです。

大和田:7個中、5個です。1番と3番と4番は、完全に見落としていました。

FPたいらく:3番と4番は、今日中に確認できます。ねんきんネットと、DCの運営管理機関のサイトです。それだけで、分母の精度はかなり上がります。

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6.逆の結論も出ます——9%だから焦れ、という話ではありません

大和田:先生、率直にうかがいます。これは結局、「もっと外貨を買え」という話なのでしょうか。

FPたいらく:いいえ。同じ計算から、まったく逆の結論が出る方も、実際にいらっしゃいます。

大和田:逆の結論、ですか。

FPたいらく:たとえば公務員の方や、企業年金が手厚い方です。この計算をすると、資産の大半が「円建てだが、生涯にわたって支払いが約束されている」性質のものだと分かる。これは、非常に強固な土台です。 すると導かれる結論は、こうなります。「土台がこれだけ厚いのだから、金融資産の部分は、今よりもっとリスクを取れる」。

大和田:……守りではなく、攻めの結論になる。

FPたいらく:そうです。分母を正しく取ると、リスクを減らすべき人と、むしろ増やせる人が、はっきり分かれます。 ところが金融資産だけを見ていると、この2つが区別できません。だから世の中の一般論は「50代なら安定重視で」といった、年齢だけの粗い基準になってしまうんです。

大和田:私の場合は、どちらでしょうか。

FPたいらく:大和田さんは、中間です。年金と退職金という土台はしっかりしています。一方で、人的資本は残り8年で減っていきます。ここが重要な点です。人的資本は、毎年目減りする資産です。

大和田:……たしかに、来年には4,300万円ではなくなる。

FPたいらく:そして人的資本が減るということは、分母のうち「円建てだが安定している部分」が減るということです。つまり、放っておいても大和田さんのバランスシートは、年々リスクに対して脆くなっていきます。何もしないことが、静かに配分を変えていくんです。

大和田:今のままでいれば現状維持、というわけではないと。

FPたいらく:現状維持という選択肢は、そもそも存在しません。

7.分母を直したあとに、実際に何を変えるのか

大和田:では、明日から何をすればいいでしょうか。

FPたいらく:3つです。ひとつ目は、今日書いた紙を完成させること。 ねんきんネットで年金見込額、DCの残高と資産構成、保険の解約返戻金。この3つを実額で埋めてください。推定値のままでは、判断の材料になりません。

大和田:これは今週中にできます。

FPたいらく:ふたつ目は、企業型DCの中身です。 1,500万円が円建てのバランス型のまま20年以上放置されている。これは新しくお金を出す必要がなく、中身を組み替えるだけで通貨構成が変わる部分です。手をつける順番としては、最も効率がいい。

大和田:新規の資金を出さなくていいのは、ありがたいですね。

FPたいらく:三つ目は、目標比率を再設定することです。 ここで大事なのは、いきなり全体の目標を立てないことです。全体では23%が上限なのですから、40%という数字は捨てなければなりません。その代わりに、資産を3つの層に分けます。5年以内に使うお金は円のまま動かさない土台。10年以上動かさない中核。そして万一に備える保険の層。 通貨分散をかけるのは中核と保険の層だけで、土台には手をつけません。

大和田:層ごとに、別の基準で考える。

FPたいらく:そうです。そして層ごとに分けたうえで、保管する場所も分けられているかを確認します。国内の銀行にあるドル預金は、通貨は分散されていても、保管地は分散されていません。ここは分母の話とは別の論点ですが、いずれ向き合うことになります。

大和田:……今日は答え合わせのつもりで来たのですが。

FPたいらく:40%という数字が間違っていたことより、四半期ごとに更新する習慣をお持ちだったことのほうが、はるかに価値があります。 習慣がある方は、分母を直せばその日から精度が上がります。習慣がない方は、正しい分母を教えても、そもそも計算しません。

大和田:救われました。まずは紙を完成させます。

FPたいらく:最後にひとつだけ。比率という数字は、判断の役に立つ道具です。ただし、分母が違えば、同じ道具が判断を誤らせます。 40%と9%では、打つ手がまったく変わります。ご自身の数字が、どちらなのか。まずはそこからです。

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