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20年で584万円の差。保険で「殖やす」のをやめた日に、私が計算した数字

記事要約

海外株式で運用する生命保険を契約し、後に「殖やすなら運用と分けるべきだった」と気づいたFP自身の失敗談から始めます。金融庁データが示す平均コスト年1.4%と、低コストインデックスの年0.08%。同じ相場でも20年で584万円の差が生まれる構造を検証し、保険にしかできない三つの機能と、解約を即断しないための3ステップを整理しました。

【登場人物】

桑原 達也さん(58歳):精密機器メーカー勤務、開発部門の部長職。金融資産は約6,800万円。うち約4,900万円が円建ての預金と国内債券。
桑原 美佐子さん(55歳):達也さんの妻。パート勤務。家計と保険の管理を担当している。
FPたいらく:海外口座・通貨分散に特化した独立系FP。自身の運用実績を9年間公開している。

※事例は複数の相談内容をもとに再構成した架空の人物です


1.「殖える保険」に入った日のことを、私も覚えています

桑原(達): 先生、予約してから3週間、ようやくお会いできました。妻も一緒で構いませんか。

FPたいらく: もちろんです。お待たせしてしまい申し訳ありません。今日はどんなことが気にかかっていますか。

桑原(美): 10年ほど前に契約した保険のことです。海外の株式で運用するタイプで、担当の方から「従来の貯蓄型と比べてこれだけ殖えます」という比較の資料を見せられて。実際、いま解約したらいくらになるか聞いたら、確かに払った分より増えていました。

桑原(達): ただ、最近になって引っかかっているんです。同じ期間、普通にインデックスファンドで運用していたらどうだったのかと。

FPたいらく: その引っかかりは、正しい感覚だと思います。実は私自身、まったく同じ経験をしています。

桑原(美): 先生もですか。

FPたいらく: ええ。海外株式の運用を組み込んだ生命保険を契約したことがあります。従来型の保険と並べた比較表を見せられ、確かに大きく殖える設計になっていました。当時の私は、それを「良い商品を見つけた」と受け取りました。

桑原(達): その後、何があったんですか。

FPたいらく: 冷静になって、目的から考え直したんです。私は何がしたかったのか。殖やしたかったのなら、殖やすための道具を使えばよかった。保険という器の中で運用する必然性が、どこにもなかったことに気づきました。

2.保険の中で運用すると、コストは「二階建て」になる

桑原(達): 器の中で運用する、という言い方が気になります。

FPたいらく: 変額保険や外貨建ての貯蓄性保険は、保障と運用が一つの契約に同居しています。ですから、かかる費用も二階建てになります。

一階が「保険関係費用」。死亡保障の原資、契約の管理費、募集にかかる費用などです。二階が「運用関係費用」。特別勘定、つまり保険会社が用意した運用の箱にかかる費用で、投資信託でいう信託報酬に当たります。さらに一定期間内に解約すると「解約控除」が差し引かれます。

桑原(美): 設計書には、そういう数字は書いてありましたか……。

FPたいらく: 記載はあります。ただ、多くの場合はパンフレットの後半、細かい文字の欄です。そして重要なのは、示された運用実績のグラフが「特別勘定の成績」であって、費用を引いた後の手取りとは限らない、という点です。

桑原(達): 増えたグラフを見せられて、費用は別ページ、ということですか。

FPたいらく: 意図的に隠しているというより、商品の構造がそうなっているのです。だからこそ、契約する側が「この契約は年間で何%の費用を負担しているのか」を自分で確認する必要があります。

3.年1.4%という数字。金融庁のデータが示す水準

桑原(達): 実際のところ、どれくらいかかるものなんでしょう。

FPたいらく: 公的なデータがあります。金融庁が公表している外貨建保険の共通KPIです。2025年3月末を基準にした分析では、5年以上保有している契約の平均コストは年率1.4%、平均リターンは年率7.5%でした。

桑原(美): 1.4%。思っていたより高いです。

FPたいらく: さらに申し上げると、この1.4%は「販売会社が受け取る手数料」を年率に直したものです。保険関係費用や特別勘定の運用費用は、この数字には含まれていません。つまり、実際の総コストはこれより厚くなります。

桑原(達): 見えている部分だけで1.4%、ということですか。

FPたいらく: そう理解していただいて差し支えありません。同じ資料では、運用損益がプラスになっている契約者の割合が全業態平均で65.4%でした。前年の77.4%から下がっています。理由は主に為替です。円換算の評価額が動いた結果で、商品が悪いという話ではありませんが、「保険なのに評価がマイナスの人が3人に1人いる」という事実は知っておくべきです。

桑原(美): 保険という言葉から受ける安心感と、実際の数字は別なんですね。

FPたいらく: そこが、この商品群のいちばん難しいところです。外貨建ての一時払い終身保険については、以前に判断基準を整理した記事があります。契約中の方はこちらも参考になさってください。


4.20年で584万円。同じ相場でも、結果は変わります

桑原(達): 数字で見せていただけますか。

FPたいらく: 単純化した試算をします。1,000万円を20年間、費用を引く前の運用成績が年5%だったと仮定します。税金と保障のコストは考慮しません。

費用が年0.08%の場合、20年後は約2,613万円。費用が年1.4%の場合、約2,029万円。差は約584万円です。

桑原(美): 584万円……。同じ相場でですか。

FPたいらく: 同じ相場で、です。市場が何%上がったかは、私たちには決められません。しかし費用が何%かは、契約する前に決められます。決められる方を放置して、決められない方を心配している——これが「どっちつかず」の正体だと私は考えています。

桑原(達): 0.08%というのは。

FPたいらく: 全世界株式に連動する低コストのインデックスファンドの水準です。信託報酬は年0.05775%、売買委託手数料などを含めた実質的な経費率でも年0.1%前後です。購入時手数料はかかりません。

桑原(美): 1.4%と0.08%。並べると、ずいぶん違いますね。

FPたいらく: 差は年1.3%程度に見えますが、20年複利で効いてくると584万円になります。コストは、相場と違って必ず発生する確定した損失です。

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5.では保険は不要か——「保険は保険」と割り切る判断軸

桑原(達): 話を聞いていると、保険そのものが悪いように思えてきます。

FPたいらく: いいえ、そこは切り分けてください。保険には、運用商品では代替できない機能が三つあります。

一つ目は、支払いの即時性と確実性です。契約した翌日に万一があっても、保険金は約束された額が出ます。運用でこれはできません。

二つ目は、受取人を指定できることです。生命保険金は受取人固有の財産として扱われ、遺産分割協議を経ずに渡ります。相続で最も揉めるのは現金の流動性ですから、これは大きな価値です。

三つ目は、相続税の非課税枠です。死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。ご夫婦とお子さん2人なら1,500万円。これは運用商品にはない優遇です。

桑原(美): つまり、保険は「守る」ためのものだと。

FPたいらく: はい。保険は保障と相続の道具、運用は殖やす道具。目的を分けたほうが、どちらも効率が上がります。私が自分の失敗から学んだのは、この一点に尽きます。

桑原(達): 私たちの場合、資産の7割以上が円建てなんですが。

FPたいらく: そこはまた別の論点です。日本円だけで持つという判断も、実は「円が強くなる方に賭けている」という一つのポジションです。ドル円が157円台で推移し、政府・日銀の介入が意識される局面ですが、介入は水準を動かしても流れそのものは変えません。資産の置き場所と通貨の話は、次のように整理しています。


6.2026年6月の法改正で、私たちが確認しやすくなったこと

桑原(美): これから保険を見直すとき、気をつけることはありますか。

FPたいらく: 追い風があります。改正保険業法が2026年6月1日に施行されました。柱は、乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保、特別な利益提供に対する規制の厳格化、大規模な代理店に対する体制整備義務の強化などです。

桑原(達): 販売する側の話ですよね。

FPたいらく: 制度としてはそうです。ただ、相談する側にとっては「聞いてよいことが増えた」という意味を持ちます。なぜこの商品を勧めるのか。比較した候補は何だったのか。他社商品を推奨しなかった理由は何か。こうした問いに、記録として答えられる体制が求められるようになりました。

桑原(美): 遠慮せずに聞いていい、ということですか。

FPたいらく: 遠慮する必要はまったくありません。むしろ、その質問に淀みなく答えられるかどうかが、相手を見極める材料になります。

7.どっちつかずを解く3ステップと、自己診断チェックリスト

桑原(達): 私たちは、まず何から手をつければいいでしょう。

FPたいらく: 3つの順番でお願いします。

ステップ1:目的で仕分ける。 いま持っている契約を「保障のため」「殖やすため」「通貨を分けるため」の3つに分類します。2つ以上に当てはまる契約が、どっちつかずの候補です。

ステップ2:数字を取り寄せる。 保険会社に、現在の契約者価額と、これまでに差し引かれた諸費用の内訳を照会してください。契約者には知る権利があります。

ステップ3:解約は即断しない。 ここが大事です。解約控除の残り期間、健康状態によっては保障を取り直せない可能性、解約時の税務。この3点を確認せずに解約すると、損を確定させるだけになりかねません。

桑原(美): 「やめる」判断も、慎重にということですね。

FPたいらく: はい。入るときと同じくらい、出るときも設計が要ります。

【自己診断チェックリスト】

□ 保険で「殖やす」ことを目的にした契約がある □ その契約の年間コストを、%の数字で答えられない □ 保障と運用を、同じ一つの契約でまとめて持っている □ 円建て資産が、金融資産全体の7割以上を占めている □ 資産をどの国・どの通貨で持つかを、意識して決めていない □ 相続や事業承継の際、誰がどう受け取るかが決まっていない

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まとめ

桑原(達): 今日いちばん残ったのは、584万円という数字より、「決められる方を決めていなかった」という言葉です。

FPたいらく: 相場は誰にも読めません。為替も同じです。けれど費用と、資産をどの通貨・どの国に置くかは、自分で決められます。決められることから決めていく。それが、遠回りに見えていちばん確実な道だと考えています。

桑原(美): まずは、契約の数字を取り寄せてみます。

FPたいらく: それで十分です。数字が出そろえば、判断は自然と決まります。

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