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【60代・元メーカー部長がFPに相談】「介入したのに、なぜまた円安?」政府が円安を"容認"していると読める3つの根拠

記事要約

過去最大の11兆円超の為替介入から3か月。ドル円は163円台と介入前を上回り、1986年以来の水準に達した。政府は本当に円安を止める気があるのか。積極財政、日銀への牽制、外為特会——市場が「容認」と読む3つの根拠を整理し、介入が方向転換ではなく時間稼ぎである理由を解説する。円で持ち続けることもまた為替の賭けであると気づいた元資材調達部長との対話。
https://youtu.be/ie3Jipf-zWg

登場人物

森田 隆之さん(63歳) 元大手電機メーカー・資材調達部門 部長。57歳で早期退職し、現在は中小メーカーの顧問(週3日)。横浜在住、妻と2人暮らし。金融資産 約1億3,000万円(うち円預金 約8,500万円、日本株 約2,500万円、投資信託 約1,500万円ほか)。

FPたいらく 富裕層向けの資産防衛を専門とするファイナンシャルプランナー。


1.「介入があったのに、なぜまた円安なのか」——3か月で戻ってきた163円

森田さん:先生、ようやく順番が回ってきました。3か月待ちましたよ。

FPたいらく:お待たせしました。ご予約をいただいたのが4月末でしたね。ちょうど政府・日銀が円買い介入に踏み切った直後です。

森田さん:そう、まさにあのタイミングです。あのときは正直、ほっとしたんです。1ドル160円台の後半まで行って、これは大変だと思っていたら、夕方に一気に155円台まで戻った。ああ、政府はちゃんと止める気があるんだな、と。

FPたいらく:多くの方がそう受け取られました。

森田さん:ところが、です。今週は163円台。一時は163円76銭をつけたと聞きました。1986年以来の水準だそうですね。私が入社して数年目の頃ですよ。

FPたいらく:3か月で、介入前の水準を3円ほど上抜けたことになります。

森田さん:これはどういうことなんでしょうか。介入したのに、なぜまた円安なんですか。……いや、本当に聞きたいのはそこではないのかもしれません。政府は本気で円安を止める気があるのか。それを知りたいんです。

FPたいらく:非常に本質的なご質問です。今日はその一点を、順を追って整理していきましょう。結論から申し上げると、「止める気がない」わけではありません。ただし「止められる手段を持っていない」ことと、「止めることが政策全体の目的と矛盾している」ことが、同時に起きています。

2.11兆7,349億円が示した「限界」と、その後のゼロ

FPたいらく:まず事実関係を押さえましょう。財務省の公表によれば、4月28日から5月27日までの1か月間に実施された円買い・ドル売り介入は、合計で11兆7,349億円でした。

森田さん:11兆……。ちょっと想像がつかない金額です。

FPたいらく:月次ベースでは過去最大の規模です。日本の通貨当局として、これ以上ない本気度を示した数字だとお考えいただいて構いません。

森田さん:それだけ使って、3か月で戻ってしまったと。

FPたいらく:そこが重要です。さらに申し上げると、続く5月28日から6月26日までの1か月間、介入額はゼロでした。その間、円は一時161円台まで下げています。

森田さん:えっ、介入前の水準を割り込んだのに、何もしなかったんですか。

FPたいらく:はい。ここに、政府のスタンスがかなり明確に現れています。

森田さん:どういう意味でしょう。

FPたいらく:為替介入には建前上の条件があります。「過度な変動」や「投機的な動き」があるときに限って行う、というものです。裏を返せば、水準そのものは介入の理由にならない。ゆっくり円安が進む分には、当局は動きません。

森田さん:……つまり、160円だろうが170円だろうが、じわじわ進む限りは放置される、と。

FPたいらく:制度の建前としては、そうなります。急落したら止めるが、着実に下がっていく分には止めない。これが介入という道具の性質です。

3.政府が円安を"容認"していると読める3つの根拠

森田さん:先生、はっきり伺います。政府は円安を容認しているんですか。

FPたいらく:公式には、どの政権も「容認」とは決して言いません。ただ、市場が「容認しているのではないか」と読み取っている材料は、少なくとも3つあります。

森田さん:聞かせてください。

FPたいらく:1つ目は、政策の優先順位です。現政権は「責任ある積極財政」を掲げ、2040年度までに戦略17分野へ370兆円を超える官民投資を進める方針を示しました。財政を拡張し、成長によって税収を取り戻すという設計です。

森田さん:それと円安がどう結びつくんですか。

FPたいらく:財政拡張は、国債の増発観測を通じて長期金利を押し上げます。同時に、財政の持続性に対する市場の疑念は通貨の売り材料になります。つまり、この政策パッケージは構造的に円安圧力を内包しているのです。政府がそれを承知で進めているのであれば、円安は「副作用」ではなく「前提」ということになります。

森田さん:……なるほど。

FPたいらく:2つ目は、金融政策への姿勢です。今月閣議決定された基本方針は、その原案が報じられた段階で、日銀の利上げを牽制していると読める文言を含んでいました。市場はこれを「利上げが遅れる」と解釈し、長期金利は一時2.9%近くまで上昇、円も大きく売られました。いわゆる「骨太ショック」です。

森田さん:政府が日銀を抑えようとしている、と受け取られたわけですね。

FPたいらく:最終的には、日銀法第3条に基づき金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられる、という趣旨の注記が加えられ、修正されました。しかし、一度出た原案は消えません。市場は「政府の本音はこちらだ」と記憶します。

森田さん:確かに、私が現役で調達をやっていた頃も、取引先が一度口を滑らせた本音のほうを覚えているものでした。

FPたいらく:まさにその感覚です。そして3つ目は、円安の受益者が政府自身でもあるという構造です。

森田さん:政府が、ですか。

FPたいらく:外国為替資金特別会計は、多額の外貨資産を保有しています。円安が進めば、円換算での評価額や運用収益は膨らみます。今年初めには、首相自身が円安について輸出産業にとっての好機であるという趣旨の発言をし、外貨の運用状況にも言及して、のちに釈明する場面もありました。

森田さん:……本音が出てしまった、ということですか。

FPたいらく:私はそう断定はしません。ただ、市場参加者の多くがそう受け止めたことは事実です。そして為替市場では、事実そのものよりも「どう受け止められたか」のほうが値動きを決めます。

4.「介入警戒」という言葉の正体

森田さん:とはいえ、財務大臣は繰り返し、必要があればいつでも断固たる対応を取る、とおっしゃっていますよね。今週もそう発言されたと報じられていました。

FPたいらく:はい。これはいわゆる「口先介入」と呼ばれるもので、実弾を使わずに投機的な円売りの勢いを削ぐことを狙った手法です。

森田さん:効き目はあるんですか。

FPたいらく:短期的にはあります。市場も無視はできません。ただし、繰り返されるほど効果は逓減します。今の相場を見ればお分かりのとおり、警戒感がありながら約40年ぶりの水準まで進んでいる。これは、市場が「言葉」と「行動」の距離を測り終えたということです。

森田さん:測り終えた……。

FPたいらく:投資家は常に、当局がどこで本気を出すかを探っています。4月末の大規模介入と、その後1か月の不介入。この2つの事実の組み合わせから、市場は「急がなければ怒られない」という線引きを学習しました。

森田さん:それは、こちらの立場からすると、心もとない話ですね。

5.介入は「方向転換」ではなく「時間稼ぎ」

FPたいらく:ここで、介入という手段の性質そのものを整理しておきましょう。円買い介入は、手元の外貨を売って円を買う操作です。当然ながら、外貨準備という有限の弾薬に制約されます。

森田さん:撃てる玉に限りがある、と。

FPたいらく:そのとおりです。一方、円売りの側は理論上無限です。世界中の投資家が、日本と海外の金利差という合理的な理由に基づいて円を売っている。有限の資金で無限の流れをせき止めることはできません。

森田さん:ただ先生、日銀は6月に利上げをしましたよね。政策金利が1.0%になった。31年ぶりだと報道されていました。金利を上げれば円高になるはずでは。

FPたいらく:教科書的にはそのとおりです。ただ、為替は水準ではなく差で動きます。日本が1.0%に上げても、米国の政策金利は3.5〜3.75%の水準にあります。しかも足元では、原油高を背景に米国がさらに利上げする可能性まで議論されている状況です。

森田さん:差が縮まるどころか、広がる可能性もあると。

FPたいらく:はい。加えて申し上げると、日本の長期金利は約30年ぶりの水準まで上がっているのに、円は買われていません。通常、金利が上がれば通貨は買われるはずです。それが起きていないということは、市場が金利差以外の要因——たとえば財政への懸念——を見ている可能性を示します。

森田さん:金利が上がっているのに、通貨が売られる。

FPたいらく:これは本来、新興国でしばしば見られる現象です。日本がそうだと申し上げるつもりはありませんが、以前とは違う力学が働き始めていることは意識しておくべきでしょう。

森田さん:では、介入には意味がないんでしょうか。

FPたいらく:意味はあります。ただし目的が違うのです。介入の目的は、円安のトレンドを反転させることではなく、変動のスピードを落とすことです。急激な動きは企業の経営計画を狂わせ、輸入物価を一気に押し上げます。それを避けるための時間稼ぎ。これが本来の役割です。

森田さん:……つまり、方向は変えない。速度だけ調整する。

FPたいらく:はい。そして時間稼ぎである以上、その時間を使って何をするかが問われます。企業であれば、調達先の分散や価格転嫁を進める。個人であれば、資産構成を見直す。稼いでもらった時間を使わずに「いずれ戻る」と待つのは、時間を捨てているのと同じです。

森田さん:……耳が痛いですね。私はまさに、4月末の介入を見て「待てばいい」と判断した人間です。

FPたいらく:多くの方が同じ判断をされました。責められる話ではありません。ただ、その判断の前提が正しかったかどうかは、いま検証すべきだと思います。

6.「円で持ち続ける」という選択も、為替の賭けである

森田さん:先生、私は資材調達を30年やってきました。円高になれば仕入れが楽になり、円安になれば原価が跳ね上がる。為替の怖さは、現場で嫌というほど見てきたつもりです。

FPたいらく:であればこそ、お伺いしたいことがあります。会社では為替リスクを管理されていましたね。予約取引や通貨の分散はされていましたか。

森田さん:もちろんです。為替予約なしで大口の輸入契約を結ぶなど、考えられません。

FPたいらく:では、ご自身の資産についてはいかがでしょう。金融資産1億3,000万円のうち、8,500万円が円預金と伺っています。

森田さん:……。

FPたいらく:会社の資材調達では当然のようにリスクを分散されていたのに、ご自身の資産では、ほぼ全額を円という1つの通貨に置いておられる。

森田さん:言われてみれば、まったくそのとおりです。なぜ気づかなかったんだろう。

FPたいらく:円預金は「何もしていない状態」に見えます。ここに落とし穴があります。実際には、円という通貨を全力で買い持ちしている状態です。円が対ドルで下がれば、その分だけ購買力が目減りする。金額が減らないので気づきにくいだけです。

森田さん:数字が動かないから、損をした感覚がない。

FPたいらく:そのとおりです。仮に1ドル140円の時代に8,500万円をお持ちだったとします。ドル換算でおよそ60万ドルです。同じ8,500万円が、1ドル163円ではおよそ52万ドルになります。日本国内で暮らす分には見えませんが、海外の資産や商品と交換する力は確実に落ちています。

森田さん:……8万ドル分、消えている。

FPたいらく:はい。そして重要なのは、これが「何もしなかった結果」だということです。何もしないことは、中立ではありません。「円はこれ以上下がらない」という方向に賭けた結果なのです。

7.政府の判断を待たずに、自分で決められること

森田さん:では、私はどうすればいいでしょうか。今から動くのは、高いところで買うことになりませんか。

FPたいらく:非常に良いご質問です。3点に分けてお答えします。

1点目は、目的を分けることです。資産を「土台」「コア」「保険」の3層に分けて考えてください。土台は、生活費の2年分程度を円の預金で確保する部分。これは為替を考える対象ではありません。生活は円で回るからです。

森田さん:わが家なら、2,000万円弱でしょうか。

FPたいらく:妥当な水準だと思います。2点目は、コアの部分をどう配分するかです。ここで重要なのは、「円安になると思うから外貨を持つ」のではないという点です。予想を当てにいくのではなく、どちらに転んでも致命傷を負わない構成にする。それが分散の本来の目的です。

森田さん:当てにいかない、ですか。

FPたいらく:はい。もし円高に戻れば、円建て資産の価値は相対的に上がります。外貨部分は目減りしますが、全体としては痛手になりません。逆に円安が進めば、外貨部分が家計を守ります。どちらでも生き残る。これが資産防衛の基本的な考え方です。

森田さん:高値づかみの心配は。

FPたいらく:それが3点目、時間の分散です。一度にまとめて動かす必要はありません。たとえば12か月から24か月に分けて、機械的に一定額ずつ移していく。相場観を挟まないことが、この方法の最大の利点です。今日の163円が高いか安いかは、5年後にしか分かりません。分からないことを前提に設計するのが実務です。

森田さん:機械的に、ですね。……ずっと相場を見て、いつが底かと考えていました。それ自体が判断を止めていたのかもしれません。

FPたいらく:多くの方がそこで止まります。最後に1点だけ申し上げます。今日お話ししたことは、政府を批判するためのものではありません。政府には政府の制約があり、日銀には日銀の判断があります。ただ、その判断の結果を引き受けるのは、最終的にご自身の家計です。

森田さん:政府が円安を容認しているかどうかは、結局、私には決められない。

FPたいらく:そのとおりです。決められないことを待ち続けるより、決められることから着手する。円安が続くかどうかを当てる必要はありません。「どちらに転んでも困らない形」を作れば、答えを待つ必要そのものがなくなります。

森田さん:……3か月待った甲斐がありました。帰って、口座の内訳を全部書き出してみます。

FPたいらく:それが第一歩です。ご自身の資産が、いまどの通貨に、どれだけ賭けているのか。それを把握するところから始めましょう。

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