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【60代・元銀行員がFPに相談】「骨太の方針」に日銀の独立性明記へ――それでも円安が終わらない3つの理由

記事要約

7月21日に閣議決定される見通しの「骨太の方針」に、日銀の独立性を尊重する文言が明記されます。利上げけん制と受け取られた原案からの大きな軌道修正ですが、為替は1ドル162円台のまま。政府が「折れた」のに、なぜ円安は止まらないのか。元銀行員の岡本さんの疑問に、FPが文言修正の裏にある長期金利の事情と、変わらない円安の構造を解説。円のまま待つことの意味を問い直します。
https://youtu.be/Bmu9tUhg-RQ


1.「骨太ショック」――原案が市場に与えた衝撃

FP:本日はよろしくお願いします。岡本さんは長く地方銀行にお勤めだったそうですね。

岡本さん:ええ、38年勤めて3年前に退職しました。退職金を含めて金融資産は6,000万円ほどありますが、ほぼすべて円建てです。定期預金と国内債券の投信、あとは少し日本株。銀行員でしたから、堅実といえば堅実な構成です。

FP:今日のご相談は「骨太の方針」に関することだと伺いました。

岡本さん:はい。6月末に政府が公表した骨太の方針の原案が、市場で「骨太ショック」と呼ばれる騒ぎになったでしょう。原案には「強い経済」の実現には日銀の適切な金融政策運営が非常に重要だ、と書かれていて、さらに日銀法第4条や政府・日銀の共同声明に沿って政府と緊密に連携せよ、という趣旨の記述まであった。あれを読んだとき、現役時代の感覚で「これは日銀への利上げけん制だ」と直感しました。

FP:市場も同じ読み方をしました。政府が金融政策に手を突っ込む姿勢を明文化したと受け止められ、長期金利は上昇を続けました。財政拡張と金融緩和の組み合わせは、通貨と国債の両方にとって重い材料ですから。

岡本さん:ところが、です。報道によれば、政府はわずか2週間ほどで方針を修正した。今度は日銀の「独立性」や「自主性の尊重」を明記する方向だと。7月21日にも閣議決定される見通しだそうですね。この変わり身の早さに、正直、驚いています。

2.わずか2週間の軌道修正――「独立性明記」に至った経緯

FP:経緯を整理しましょう。6月末の原案公表後、市場の動揺を受けて与党内からも「日銀の独立性に配慮した記述を」という声が上がりました。当初7月中旬とされた閣議決定は一度先送りされ、最終案では第1章の脚注に日銀法第3条――「日銀の通貨及び金融調節における自主性は、尊重されなければならない」――を引用し、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられる、という考え方を示す形に落ち着きました。

岡本さん:本文ではなく、脚注ですか。

FP:そこが今回の核心です。本文の「適切な金融政策運営が非常に重要」という記述は残したまま、脚注で独立性に触れる。政権の看板である「強い経済」路線は降ろさず、しかし市場が最も嫌がった「政府による金融政策への介入」という解釈だけを打ち消す。政治的には巧みなバランスですが、裏を返せば、これは市場に追い込まれた末の修正だということです。

岡本さん:追い込まれた、というのは長期金利ですか。

FP:そうです。原案公表後、長期金利の上昇が止まらなかった。国債を大量に発行しながら積極財政を進めたい政権にとって、金利上昇は財政コストの増大に直結します。つまり今回の軟化は、円を守るためではなく、国債市場をなだめるための修正だった。この動機の違いが、これからお話しする「円安が終わらない理由」につながっていきます。

3.岡本さんの疑問「政府が折れたなら、円高になるのでは?」

岡本さん:先生、そこがまさに聞きたかった点です。銀行員の頭で考えると、こういう理屈になるんです。政府が日銀の独立性を認めた。ならば日銀は政府に気兼ねなく利上げできる。利上げが進めば日米の金利差は縮まり、円は買い戻される。だから今は円のまま待つのが正解ではないか、と。

FP:非常に筋の通った推論です。実際、独立性明記の報道が出た局面では、利上げ期待から円が買われる場面もありました。

岡本さん:ところが現実の為替を見ると、ドル円は162円台のままです。政府が折れたのに、なぜ円は戻らないのでしょうか。私の理屈のどこが間違っているのか、それが分からない。

FP:岡本さんの理屈は間違っていません。ただ、前提が三つ抜けています。一つずつ見ていきましょう。

4.文言修正が変えたもの――止めたかったのは円安ではなく金利上昇

FP:まず一つ目。先ほど申し上げたとおり、今回の修正の狙いは長期金利の沈静化であって、円安の是正ではありません。政府が最も恐れているのは、国債の信認が揺らいで金利が制御不能に上がることです。円安は輸入物価を通じて家計に痛みを与えますが、政権の経済運営そのものを直撃するのは金利のほうです。

岡本さん:つまり政府の優先順位では、国債市場が先で、為替は後だと。

FP:そう考えると辻褄が合います。そして二つ目の前提。「独立性の尊重」と「利上げの実行」は別物だということです。脚注に日銀法第3条が引用されても、日銀が利上げのペースを速める保証はどこにもありません。日銀は日銀で、景気や賃金動向を見ながら慎重に判断します。市場が織り込んでいるのは、あくまで緩やかな正常化のペースです。

岡本さん:独立性を認められた日銀が、独立した判断として「急がない」を選ぶ可能性もあるわけですね。

FP:その通りです。しかも米国側では、連邦準備制度の高官からタカ派的な発言が続き、米金利が高止まりする観測が根強い。日本がわずかに利上げしても、海の向こうで金利が下がらなければ、金利差の縮小は限定的です。為替は二国間の相対で決まりますから。

5.文言修正が変えないもの――実質金利のマイナスという土台

FP:そして三つ目、これが最も重要です。名目の政策金利がどうであれ、物価上昇率を差し引いた実質金利で見ると、日本は依然として深いマイナス圏にあります。円預金は名目上は目減りしませんが、購買力では毎年着実に削られている。この土台は、骨太の方針の文言が本文だろうと脚注だろうと、一文字も変わりません。

岡本さん:実質金利……現役時代、お客様に説明する側だったのに、自分の資産では直視してきませんでした。

FP:さらに構造要因もあります。デジタル関連の支払いなどで生じる貿易・サービス収支の恒常的な円売り、新NISA経由の家計による外国株投資、企業の対外投資。これらは金融政策の文言とは無関係に、毎日淡々と円を売り続けるフローです。脚注の一行では、この流れは止まりません。

岡本さん:だから政府が折れても162円のままなのですね。市場は文言ではなく、実質金利とフローを見ている。

FP:ええ。もちろん、この先に日銀の利上げが進み、一時的に円高へ振れる局面は十分あり得ます。ただそれは「円安トレンドの終わり」ではなく「トレンドの中の揺り戻し」である可能性が高い。土台が変わっていないからです。

6.円のまま「待つ」ことは中立ではない

岡本さん:耳の痛い話ですが、私は「円高になってから外貨を考えよう」と3年間言い続けて、その間にドル円は130円台から162円まで来てしまいました。

FP:岡本さんのように「待つ」を選んでいる方は非常に多い。ですが、資産のほぼ全額を円に置いて待つことは、中立ではありません。それは「これから円が回復する」という方向に、全財産を賭けているのと同じです。

岡本さん:全財産を、片方に賭けている……。

FP:しかも今回のように、政府の姿勢軟化という「円高材料」が出ても為替が動かない現実を、私たちは目の当たりにしました。賭けの根拠が一つ崩れたと考えるべき局面です。逆に伺いますが、もし岡本さんが現役の銀行員として、6,000万円全額を一つの通貨に集中させているお客様を見たら、何と助言しますか。

岡本さん:……「分散をご検討ください」と言いますね。間違いなく。

7.FPの提案――脚注一行に賭けない資産の置き方

FP:最後に、具体的な考え方を整理します。私がお勧めしているのは、資産を三つの層で捉える方法です。第一の層は、生活防衛資金。数年分の生活費は流動性の高い円で確保します。ここは為替を考える場所ではありません。

岡本さん:土台の部分ですね。

FP:第二の層は、資産の中核です。ここに通貨分散を導入します。米ドルを中心とした外貨建て資産を段階的に組み入れる。重要なのは一度に動かさないことです。時間を分けて淡々と移すことで、「今日の162円が高いのか安いのか」という答えの出ない問いから自由になれます。

岡本さん:一時的な円高の揺り戻しが来ても、時間分散なら、むしろ取得単価を下げる機会になるわけですか。

FP:その通りです。そして第三の層が、保険としての実物資産。金などの現物価値を持つ資産を一部組み入れ、通貨制度そのものへの備えとします。骨太の方針をめぐる今回の一連の騒動が示したのは、日本の金融政策が政治との緊張関係の中で揺れ動くという現実です。脚注の一行に自分の老後を委ねるのではなく、どちらに転んでも耐えられる構造を先に作っておく。それが資産防衛の本質だと私は考えています。

岡本さん:38年間、円を扱う側にいた人間として、円と少し距離を置く勇気が要りますが……今日の話で、待つことのリスクがようやく腹に落ちました。まず中核部分の一部から、時間をかけて始めてみます。

FP:それが現実的な一歩です。7月21日の閣議決定は一つの節目ですが、文言よりも構造を見る。その視点を持ち帰っていただければ、今日の対談は成功です。

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