紙の本が恋しくて🥰
創作大賞2026に応募すると決めたその日から、ひたすら画面に向かってキーボードを叩いたり、スマホのページをめくったりしている。
そろそろ紙の肌触りや、ページをめくる感触が恋しくなってきた。
ふと本棚を見ると、一冊の文庫本と目が合った。
かつて僕の部屋は、本棚から床まで本で溢れかえっていた。
けれど、数年前に「夏の断捨離」と称してメルカリで売りまくったせいで、今の本棚はどこか寂しげだ。
本を売りまくると言っても、無作為に売るわけではない。
もう一度読もうと思った本は残しておいたのだ。
手元に残した本には、それなりの理由がある。
怪奇小説という題名の怪奇小説
(都筑道夫著)
いつ読んだのか、自分で買った本なのか、記憶が定かではない。
だけどページを開いてすぐに、僕はこの本を処分しなかった理由を思い出した。
「私はなにを書くか、迷いに迷って、題名もつけられない。」
物語は、締め切りに追われる作家の愚痴のような言葉から始まる。
「私は長編小説を書く約束をした。二百枚から三百枚はあるものを、七章から九章ぐらいにわけて、書いていかなければならないのだ。」
作家は締め切りに追われ、過去に読んだ海外の未訳小説を盗作しようと企むなど、序盤はユーモラスな日常のエッセイだと思って読み進めていた。
だが、作家が気晴らしに出かけた街で、三十年前に死んだはずの従姉にそっくりな女性と出会うあたりから、空気は狂い始める。

いま読んでいるのは、作家の頭の中のプロットなのか、それとも作中の現実なのか。
境界線がじわじわと滲み、混ざり合っていく。
本を開いているはずの自分まで、誰かが書いている物語の中に閉じ込められてしまったような、出口のない恐怖。
僕がこの本を手放せなかったのは、あの薄気味悪い快感が忘れられなかったからだ。
パタン、と本を閉じる。
切なくも唐突な幕切れで、異界の入り口に置き去りにされたような気分になり、自分の部屋の不自然な静けさに、思わず背筋が寒くなった。
めくっていた紙の重みすら、どこか異世界の入口のように思えてくる。
自分が立っている現実の床が、かすかに揺れているようなめまいがしてきた。

僕は、創作大賞2026の締め切りが迫るある夜、夢を見た。
夢の中で僕は、以前noteに書いた記事を物語っていた。
暗闇の中で相手の顔は見えない。
語れば語るほど僕の影は薄くなり、気がつけば僕は、物語の中の「登場人物」として呼吸していた。
そのまま寝てしまえば、「変な夢をみたな」で終わっていただろう。
しかしそのとき、僕は何者かに肩を揺すられたような気がして、ハッと目が覚めた。
頭の中は創作大賞の構想で一杯一杯だった。
夢うつつのまま起き上がり、パソコンを開く。
今見た悪夢の感触が消えないうちに、メモ帳へ勢いよく打ち込んでいた。
翌朝。
その日は休みだったので、僕はそのプロットを元に短編ホラーを描いて、創作大賞2026に応募していた。
画面に浮かぶ完成した原稿を読み返してみると、どうしても、それが自分が書いたものとは思えなかった。
僕は今、現実に戻ってきているのだろうか。それとも、あの夢が描いた物語の中で呼吸しているのだろうか。
あの日、久しぶりに開いたあの本
『怪奇小説という題名の怪奇小説』
が、この悪夢を呼び寄せたのかもしれない。
