『性格診断ブームを問う』
2025年4月,岩波書店よりブックレットとして『性格診断ブームを問う──心理学からの警鐘』が刊行されました。今回は,この本の紹介です。
MBTI???
最近,特に若い世代の間で,「MBTI」と呼ばれる「性格検査」が流行しています。しかし実はこれは本物の「MBTI」ではなく,「MBTI的な何か」と言った方が良いものです(16 Personalitiesと呼ばれています)。
本物のMBTI©️というのは,Myers-Briggs Type Indicatorと呼ばれるもので,一般には性格検査として知られているかと思うのですが,実際にはアンケートに答えた後で専門家(認定ユーザー)が振り返るセッションを行い,結果に従って自分自身のことを解釈していく(その中で結果として出されたタイプから変わっても良い,とされる),いわば「自己分析ツールと自己分析セッションの一連のセット」のようなものを指します。
オンラインで質問項目に答えて「あなたは◎◎タイプ」と出力されるだけのものは,本物のMBTIではありません。そもそも無料で提供されるものでもないのです。自己分析というのは自分と向き合う辛いことにもなりかねないので専門家と一緒に行うべきですし,日本では18歳以上にしか提供しない,とされているようです。
検査なのか?
こういった手続きで提供されるものは「性格検査」「パーソナリティ検査」といったものでもなく,「一連の自己分析セッション」と言ってもいいものです。多くの人がオンラインで質問に答えて,「ああ私は◎◎タイプなんだ」というものは,そもそもMBTIが目指す思想からも大きく逸脱しているのです。
病院や臨床現場,教育場面などで用いられる「性格検査」も存在しています。そこで用いられるのは「検査」や「診断」であり,特定の疾患や能力やパーソナリティ状態を「測定」して「判定」するものです。しかもそこでも,専門家が実施します。自分だけで判定することはありません。大変な結果が出るかもしれないのですから,専門家が判断するべきです。
ネットの無料性格診断は,MBTI的な判定を利用しつつ「検査的」な結果を提供する(しかも正式にMBTI的な診断をすると認められたものでもない)ものだとも言えます。
なぜこういうものが突然流行ってしまったのか,いろいろと理由は考えられるかとは思いますが,事前に予測することは困難です。バズるのにそれほど明確な理由がないのは,ネット上の情報と同じでしょう。たまたまタイミングが良かったのだろうと思います。
楽しいのか
さて,ネット上の「MBTIもどき」は,「楽しい」のでしょうか。楽しいのであれば,どうして楽しいのでしょうか。また,楽しいのだから構わない,という理屈はそれでいいのだろうか,そんなことをいくつかの観点から考えていくことも,本書の目的です。
アメリカのパーソナリティ心理学者の本では,昔からよく本物のMBTIも批判の対象になってきました。それは,アメリカでは本物のMBTIがメジャーなもので,企業研修などでもよく用いられており,あまりに流行することに研究者が釘を刺すという流れでもあります。
日本の場合は流行しているものがそもそもMBTIですらなく,批判しても矛先がバラバラになりそうです。本物のMBTIを提供する側からしたら,今回の流行はとばっちり以外の何物でもないだろうなあ,と想像してしまいます。
そのあたりの情報整理も,この本のひとつの目的です。
目次
本書の目次は以下のとおりです。薄い本ですので,手に取って時間のあるときにぱらぱらと読んでいただければ幸いです。
なお,本書の執筆に際しては,日本MBTI協会の方々からもご協力をいただきました。深く御礼申し上げます。
Ⅰ インターネットの性格診断は信用できるのか?
突然の〈MBTI?〉の流行
MBTIとは
MBTIの略史とその理論のオリジナル性
日本とのかかわり
パーソナリティ心理学
無料の検査?
MBTIに対する批判について
「◯◯に向いている」かどうか
相性の問題
もしも事実が違っていたら
自分に当てはまることは全体にも当てはまるのか
さまざまな検査
Ⅱ 楽しさの背後にあるもの
浸透する〈MBTI?〉
自分を知りたい
当たっているところがある
信じさせるテクニック
社会的つながりをもちたい
つながりが感じられる
やっぱりそうなると思った
性格がシンプルに理解できると思う
Ⅲ 楽しければいいのか
同意から楽しさが生み出される
信じたいものを信じる
良し悪し
偏見と差別と人権侵害
差別なんて思っていない
機会の損失
努力の喪失
タイパやコスパを求める
診断に従って行動を変えてしまう
完璧な性格診断はあるのか
性格検査はなんのため
注意すべきこと
最後に
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