M&A実務|アーンアウトがある場合のマルチプル分析
M&AにおけるEnterprise Value(EV)の妥当性を検証する際、ディールマルチプル(エントリーマルチプル)分析は必須の作業である。
しかし、対象会社の将来業績に不確実性がある場合、売り手と買い手の間で価格のギャップが生じることがある。このギャップを埋めるために活用されるのがアーンアウト(Earnout)条項である。
アーンアウトが含まれる案件では、「払った値段はいくらか」という問いへの答えが単純ではなくなり、いつの時点のEVを分母に使うかによって、エントリーのEBITDAマルチプルが変わる。この点を正確に理解していないと、買い手・売り手のどちらの立場においても、誤った意思決定につながるリスクがある。
本稿では、アーンアウトがある場合のエントリーマルチプル分析の実務的な考え方と計算方法をサンプルとなるモデルを用いて解説する(単位は億円)
1. アーンアウトとは
アーンアウトとは、M&Aのクロージング後に、対象会社が一定の業績目標を達成した場合に追加で支払われる対価である。
典型的な構造は以下のとおり。
【Earn Out :EOのイメージ】
クロージング時 EV=Upfront= 50億円 ← まずこれを支払う
FY2026達成条件を満たした場合 EO = 30億円 ← 追加支払
FY2027達成条件を満たした場合 = 15億円 EO ← 追加支払②
最大支払額(Full Earnout)= 50 + 30 + 15 = 95億円
売り手にとっては「将来業績が良ければより高い値段で売れる」、買い手にとっては「業績が伸びた場合のみ追加支払いが発生するため、リスクを軽減できる」という構造である。
アーンアウトがない通常の案件では、EVは固定値である。
しかし、アーンアウトがある案件では、EVがアーンアウトの支払タイミングに応じて変化する。
つまり、「どの時点のEVとどの時点のEBITDAを組み合わせるか」によって、計算されるマルチプルが異なる値になる。これがアーンアウト案件のマルチプル分析の本質的な難しさでもある。
マルチプル分析の設計
実務では、以下の2軸を整理したうえで、各時点のマルチプルを計算する。
横軸(時点):
FY2024(直近実績)
LTM (クロージング予定時点のLTM)
FY2026(アーンアウト①の支払対象年度)
FY2027(アーンアウト②の支払対象年度)
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