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同窓会で再会した元アイドルの元カノともう一度付き合う話

【久保史緒里 短編物語】

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年末年始という言葉は、いつだって都合のいい言い訳になる。

帰省ラッシュに揉まれながら新幹線の指定席に腰を下ろした〇〇は、窓に映る自分の顔をぼんやりと眺めていた。



東京での生活にすっかり馴染んだはずの姿が、なぜか今日は少しだけよそよそしい。


それは帰省ではない、本当の目的のせい。



高校の同窓会。

それも、高校を卒業してから初めて顔を出す。


何度も案内は届いていた。


けれど、返信はいつも曖昧なまま、もしくは欠席。



理由を問われれば仕事だの予定だのと適当な言葉を並べたが、胸の奥に引っかかっていたのは、ただ一人の存在だった。



新幹線の車内で、ふとスマホであけたYouTubeに映る久保史緒里の姿。



幼馴染で、

高校の同級生で、

今や誰もが知る乃木坂を卒業した元アイドルで、


そして




元カノ




彼女が同窓会に来たことは一度もないらしい。


天下の乃木坂46。


その名前があるだけで、おいそれと来るはずがないと分かっている。


それでも「もしかしたら」という根拠のない可能性が、〇〇の足を重くしていた。



それでも、今回参加することにしたのは当時の学友たちからの猛烈なプッシュがあったから。



「25歳の節目の歳なんだから、絶対に来いよ!」


電話越しにそう言い切った友人の声を思い出す。


節目かどうかは分からない。


ただ、このまま避け続けていても何も変わらないことだけは、いい加減理解していた。



新幹線がトンネルを抜け、見慣れた景色が広がる。


胸の奥が、わずかにざわついた。






地元は、思ったほど変わっていなかった。

コンビニが新しくなり、昔よく通ったラーメン屋は別の店に変わっていたが、駅前のロータリーも、少し錆びた時計台も、記憶の中とほとんど同じだった。


実家に荷物を置き、両親と最低限の言葉を交わしてから、〇〇は会場へと向かう。



小さめで、どこか背伸びしたような洒落た店。


貸し切りにされたフロアは立食形式で、グラスの触れ合う音と笑い声が絶えず漂っていた。


「おー! ちゃんと来たな!」


入口で幹事を務める友人に肩を叩かれ、〇〇は曖昧に笑う。


一歩足を踏み入れると、懐かしい顔ぶれが視界に飛び込んできた。


面影はそのままに、どこか大人びた表情。


変わったやつも、変わらないやつもいる。


その中で、自分はどう見えているのだろうか。


そんなことを考えている自分に、少しだけ苦笑する。




そのときだった。





「史緒里! 久しぶり!」



女性の弾んだ声が、ざわめきの中で妙にはっきりと耳に届いた。

心臓が、ひとつ跳ねる。


考えるより先に、身体が反応していた。


〇〇は反射的に声のした方へ視線を向ける。



そこに、史緒里の姿があった。


一瞬、時間が止まったように感じた。


テレビで、雑誌で、そして誰にも言わずに足を運んだライブで見てきた姿。


そのどれとも違う、生身の史緒里。


肩まで伸びた髪、控えめな微笑み、けれど確かに人の視線を惹きつけて離さない佇まい。



来るはずがない。


会うはずがない。


そう思い込んできた虚構が、音を立てて崩れていく。



胸の奥にしまい込んだはずの感情が、一気に表に押し寄せる。


懐かしさ、戸惑い、そして今もなお消えていなかった想い。



史緒里は、同級生たちに囲まれながら、どこか少しだけ照れたように笑っていた。



その姿は、アイドルとしての輝きと、かつて知っていた幼馴染の面影が、不思議なほど自然に重なって見えた。


こうして見る彼女は、何倍も、何千倍も眩しかった。



それは光というより、胸の奥を静かに焼くような熱だった。




逃げ続けてきた理由が、はっきりと形を持って、今、目の前に立っている。


〇〇はグラスを持つ手に、わずかな震えを感じながら、ただその場に立ち尽くしていた。



しかし、視線というものは、意思とは関係なく交わってしまうものらしい。



史緒里と、目が合った。



ほんの一瞬。



けれど、その一瞬で、心臓の鼓動が一段階跳ね上がるのが分かった。




条件反射のように、〇〇は目を逸らしていた。


逃げるように視線を外し、手近にいた人物へと身体の向きを変える。


〇〇「あ、えっと……久しぶりだな」


声をかけた相手は、名前もフルネームでは思い出せない、かつての男子生徒だった。


相手も一瞬「?」という顔をしたが、同窓会という魔法の空間では、多少の違和感は酒と笑顔で簡単に流される。


その場しのぎの会話。


中身のない相槌。



〇〇の意識は、ほとんど別のところにあった。





会が本格的に始まると、予想通り史緒里の周りには自然と人だかりができた。


男女問わず、途切れることなく声をかけられている。



──そりゃそうだよな。


心の中でそう呟く。


身近なところから、しかも同じ高校から、天下の乃木坂46のアイドルが出たのだ。


盛り上がらない方が不思議だ。




ただ、〇〇にとっては、それが救いだった。



どう声をかければいいのか分からない。


どんな顔をすればいいのかも分からない。


今さら「久しぶり」なんて、軽すぎる。


かといって、何年も会っていなかった理由を語るほどの勇気もない。


捕まっていてくれ。

今はそれでいい。



適当に時間が過ぎれば、それでいい。


そう心に決めた、そのときだった。



「久しぶり。〇〇くんだよね?」


聞き慣れない柔らかな声に振り向くと、そこには見覚えのある女性が立っていた。


一瞬、脳内の記憶フォルダを必死に漁る。


〇〇「あ……久しぶり」


名前は喉まで出かかって、結局出てこなかった。

相手は気にする様子もなく、にこりと微笑む。


「〇〇くん、全然同窓会来ないからさ。今回も来ないかと思ってたけど……来てくれたんだね。嬉しい」


そう言われて、少しだけ胸がちくりとした。

彼女は、いわゆる“普通に美人”という言葉がよく似合うタイプだった。


高校時代は、クラスの中心にいるような存在で、男子の視線を集めていた記憶がある。


今になって思い出すあたり、当時の〇〇がどれだけ視野狭窄だったかがよく分かる。


史緒里と付き合って、別れて、その余韻の中で、他のものが目に入る余地なんてなかった。



周囲から、じっとりとした視線を感じる。


──あ、これ、たぶんあとでイジられるやつだな。


遅れてやってきた自覚に、内心で苦笑した。



彼女との会話は、驚くほど自然だった。


高校時代のくだらない話。

文化祭での失敗。

教師の悪口。

地元の店が潰れた話。


酒の力もあって、〇〇は久しぶりに声を出して笑った。


こんなふうに、何も考えずに笑ったのは、いつ以来だろう。



「あ、飲み物取ってくるね」



そう言って彼女が席を外す。

一人残された〇〇は、ふっと肩の力を抜いた。



──つかの間の休息。



心のどこかで、そう思った瞬間だった。




史緒里「ずいぶん楽しそうですね」



背後。

しかも、やけに近い距離。



〇〇「ッ!?」


情けないほど間抜けな声が、喉の奥で詰まった。



反射的に振り返ると、そこにいたのは史緒里だった。


至近距離。



テレビ越しでは絶対に感じない、


生身の存在感。


ほのかに香る香水。



昔と少し違う、大人の匂い。



〇〇「え、あ……し、史緒里……久しぶり……」



自分でも驚くほど、声が裏返った。

史緒里はそんな〇〇を見て、ムスッとした表情を浮かべる。


それが彼女が機嫌が悪いときの感じが、昔と変わらなくて、胸がぎゅっと締め付けられる。



史緒里「さっき、目反らしたでしょ?」



ギクッとした。


〇〇「なんのこと…?」


再び目をそらす。


次の瞬間、彼女は何も言わずに〇〇の袖をくいっと引いた。


史緒里「こっち、来て」


有無を言わせない力ではない。


けれど、断るという選択肢が頭から消える、不思議な引力。


〇〇はされるがまま、史緒里に引っ張られていく。




ざわめきから離れた、少し静かな別の部屋。


ドアが閉まった瞬間、世界が切り替わったように音が遠のく。



──逃げ切ったと思ったのに。

──いや、どこかで、こうなることを期待してたんじゃないか。


心の中で、二つの声がせめぎ合う。

目の前に立つ史緒里を直視できないまま、〇〇はただ、次に何が起きるのかを待つしかなかった。



扉一枚隔てただけなのに、空気がまるで違った。


同窓会のざわめきは遠く、ここには二人分の呼吸音だけが残っている。


史緒里は一度、小さく息を整えるようにしてから、ゆっくりと顔を上げた。


その瞳が、まっすぐに〇〇を射抜く。


恐ろしく整った、そして不思議なくらい透き通ったその瞳に見つめられるだけで、何も悪いことをしていないはずなのに、心臓が落ち着く気配を見せない。


史緒里「ずいぶん楽しそうだったじゃない、〇〇」


責めるような口調。

けれど、その声色はどこか柔らかくて、昔と変わらない。


久しぶりに、自分の名前を呼ばれた。

それだけで、胸の奥がきゅっと音を立てた気がした。


〇〇「い、いやいや……普通に話してただけだって」


平静を装う。

必死に大人の男を演じる。


内心では、心拍数がスプリント状態なのに。


史緒里「へー、そうかなー?」


史緒里は首を傾げ、唇の端を少しだけ上げる。


史緒里「ニヤニヤ鼻の下伸ばしてたし、耳たぶ触ってたよ」


〇〇「に、ニヤニヤなんてしてねーし! てか、耳たぶってなんだよそれ!」


思わず声が大きくなる。

反論したいポイントが多すぎて、どこから手をつけていいか分からない。


しかし、史緒里は少しだけ呆れたように言う。


史緒里「〇〇、照れたりすると無意識に耳たぶ触る癖。気づいてなかったの?」


さらっと言われて、言葉に詰まる。

知らない。


そんなの、無自覚だ。



いや、待て。


記憶を遡る。

緊張したとき、焦ったとき、無意識に手が顔の方へ行っていたような……。


〇〇「……」


自分でも分かるほど、気まずい沈黙。


〇〇は短く息を吐き、観念したように史緒里の横へ移動すると、壁に背中を預けた。


〇〇「……本当になんもないって。ぶっちゃけ、名前すらうろ覚えなんだし」


少しだけ自嘲気味に言ってから、史緒里は少し息を吐いてから続ける。


史緒里「まぁ、そういうことにしておいてあげる」


〇〇「てかさ、史緒里こそこんなとこにいていいのかよ。人気者なんだから」


史緒里も同じように壁に寄りかかる。


肩と肩が触れそうで触れない、微妙な距離。


史緒里「ちょっと休憩」


そう言ってから、ちらりと〇〇を見る。


史緒里「それに……〇〇と話したかったし」


その一言で、胸の奥が静かに揺れた。

思わず視線を向けると、再び目が合う。




〇〇「こうやって話すの……久しぶりだよな」




絞り出すような言葉。



史緒里「ね」



史緒里は小さく頷く。


史緒里「私が乃木坂入って以来だから……十年ぶりくらい?」


〇〇「もう、そんなになるんだな」


時間の流れを数字で突きつけられると、妙な現実味があった。



史緒里「〇〇さ」


史緒里は少しだけ唇を尖らせる。


史緒里「LINEも変えちゃうし、一人暮らししちゃうしで……全然連絡つかなかったもんね」



恨めしそうな視線。


言葉よりも、その表情が胸に刺さる。



〇〇「いやいや」


慌てて首を振る。


〇〇「さすがにさ、乃木坂のメンバーが元カレと連絡取り合ってたらマズイだろ」


冗談めかして言ったつもりだった。

空気を軽くしたかっただけだった。


けれど。


史緒里「……ごめんね」



史緒里の声が、すっとトーンを落とした。


その一言で、胸の奥に沈めていた感情が、ゆっくりと浮かび上がる。

謝られる筋合いなんて、どこにもない。


彼女は何も悪くない。

史緒里を応援しようと決めたのも〇〇自身だったのだから。


それでも、彼女が背負ってきたものを想像してしまう。


沈黙が落ちる。

気まずいはずなのに、どこか懐かしい。


〇〇は、壁に寄りかかりながら、心の中で小さく苦笑した。




重くなりかけた空気を、〇〇は無理やり持ち上げるように口を開いた。



〇〇「……そういえばさ。卒業、おめでとう」



場違いなくらい素朴な言葉だったが、史緒里は一瞬きょとんとしたあと、ふっと小さく笑った。



史緒里「…〇〇さ、卒コン来てくれてたでしょ?」


思いがけない一言に、〇〇の思考が完全に停止する。


〇〇「え!? なんで知ってるの!?」


声が裏返った自覚はあったが、今さら取り繕えない。

史緒里は悪戯っぽく目を細める。


史緒里「アリーナ席の中にいる〇〇が、見えちゃったんだよね」


〇〇「マジで? 視力どうなってんだよ……」


史緒里「目あったの気づかなかった?」


〇〇「いや、それどころじゃなかったっつーか…」


半分涙目でよく見えていなかったのは内緒。


〇〇「よくあの超満員のなかで見つけられたね」

半ば冗談のつもりで言ったその言葉に、史緒里は少しだけ首を傾げた。


史緒里「…〇〇だから、かな」


〇〇「……え?」


胸の奥が、嫌な音を立てて跳ねる。


史緒里「〇〇だから、見つけちゃったんだと思う」


言い直すように、ゆっくりと。

〇〇の心臓は、もう完全に制御不能だった。


〇〇「それって……どういう……」


歯切れの悪い声。

自分が今、何を期待しているのかがはっきり分かってしまって、怖くなる。


史緒里は一歩、距離を詰めて〇〇の正面に立った。


史緒里「もう」


少し拗ねたように眉を寄せて、でもその瞳は真剣で。


史緒里「好きな人のことはさ、どんなに離れてても、どんなに人が多くても……自然と目が行っちゃうんだよ!」


胸を打たれた、という表現がこれほどしっくり来る瞬間はなかった。

言葉が、まっすぐに心臓へ落ちてくる。


〇〇「……史緒里……」


名前を呼ぶだけで精一杯だった。


史緒里は、ふっと視線を落とす。

しばらく沈黙が流れたあと、ぽつりぽつりと、言葉を選ぶように話し始める。


史緒里「……あの時、〇〇と別れたのは、間違ってなかったと思ってる」


胸が締め付けられる。

それでも史緒里の言葉を静かに聞く


史緒里「あの頃の私は弱くて、不器用で……集中しないと、何もできなかったと思うから」


自分に言い聞かせるような声。

〇〇は何も言えず、ただ聞くことしかできなかった。


史緒里「でもね…」


史緒里は顔を上げ、まっすぐに〇〇を見る。


史緒里「〇〇のこと、忘れた日なんて一日もなかったよ」


その言葉に、息を呑む。


史緒里「幸せな時も、楽しい時も……辛い時も。〇〇と一緒だったらなって、ずっと思ってた」


胸の奥に積もっていた感情が、一気に溶け出す感覚。


史緒里「卒業コンサートで〇〇を見つけて……改めて思ったの」


史緒里の瞳が、少しだけ潤む。


史緒里「やっぱり〇〇と一緒にいたい。〇〇のことが、今でも変わらず好きなんだって」


世界が、静かに反転した気がした。

自分だけが過去に縛られていると思っていた。

未練を引きずっているのは自分だけだと。


違った。


同じだった。


史緒里「史緒里……俺も、史緒里のこと……」


声が震える。

その先を言おうとした瞬間だった。


史緒里の人差し指が、そっと〇〇の唇に触れた。


史緒里「待って」


柔らかく、けれど意志のこもった声。


史緒里「あの時、私からお別れしちゃったから……」


一度、深く息を吸う。

そして、まっすぐに。




史緒里「私から、もう一回言わせて」




数秒の沈黙が、永遠のように長く感じられた。






史緒里「〇〇のことが、今でも…ううん、前よりもずっとずっと好きです」



飾り気のない、真っ直ぐな告白。


胸の奥が熱くなり、視界が滲む。

〇〇は何も言えず、ただ静かに史緒里を抱き寄せた。


言葉の代わりに、ゆっくりと首を縦に振る。

それだけで、十分だった。


史緒里も、〇〇の背中にそっと腕を回す。


互いの鼓動が、重なって聞こえる。



止まっていた時間が、ようやく動き出す。

遠回りをして、すれ違って、それでもまた巡り合った二人の時間が。


この瞬間だけは、世界が祝福しているような気がした。







おわり
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。

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