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4.3 「仕事」日本の大企業信仰を捨てる──【イベリコ豚の国で迷子になって】

和田のように「大転換」をするには、相当の勇気と覚悟がいる。現在は変わりつつあるとはいえ、日本ではいまだに大企業信仰は根強く残っている。

大企業は潰れない、大企業なら定年まで安定、大企業ならボーナスもいい、大企業なら社会からの信頼も厚い、などなど。今の時代、この先何十年後どうなっているかはわからないとはいえ、しばらくのあいだ安定した生活を送ることができるのは間違いないだろう。

クビになることもないので、私が以前勤めていた会社では、たいした仕事もせずに居続けるおじさんたちは「ウィンドウズ2000」と呼ばれていた(ウインドウズの古いOSにかけて、またそれにもかかわらず2000万円近い年収をもらっているから)。今でこそ、転職したり起業したりする人が増えているが、会社員から職人になろうとは(しかも異国で)、なかなか思わないはずだ。

和田の場合「フリーランスで働くことが普通」という修復師の世界で、安定した収入を得られるようになるのは、並大抵のことではない。

プラド美術館の場合、過去代々の修復師の手によりベラスケスやゴヤ、エル・グレコなどの「第1級作品」は、すでに修復が済んでいるため、緊急で修復師が必要なわけでもない。そのため、文部省の国家試験と同様に、毎年公募があるわけではない。

繰り返し彼女が口にしていたのは、「プラドの修復師は、圧倒的に技術レベルが高い」ということだ。そうであるがゆえに、プレッシャーを感じることもある。ときには、背中に冷や汗をかきながら取り組むような作品もあるという。

「将来、修復にチャレンジしてみたい作品はあるか、と訊かれることがありますが、『日々の積み重ね』としか答えられません。20より100の作品を修復しているほうが、知識もあるし、技術も勝る。実践で覚えていくことばかりです」

けれど、もしかしたら私たちは気付かぬうちに自身にリミットを設け、自ら選択肢を狭めてしまっているのかもしれない。

「人間は、自分の限界を超えたときに初めて、信じられないような力を発揮するのだと思います。日本では『もう若くないし』と年齢を気にしがちですが、スペインでは、“新米”が40歳だって気にしない。歳は関係ありません」

これからも、ずっとこの仕事をしていきたいと思うか。最後にそう尋ねてみた。

「それはもう、定年を迎える67歳まで」

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