あの魔法使いが世界を染めたなら__後__よもすがら
ーーたっぷり愛情が込められた黄色い学習机と椅子のセット。
勿論、祖父に飛び付いて喜んだ。大好きなおじいちゃんは魔法が使える。思い返してみれば祖父母宅の家具は殆ど手作り、憧れてやまなかった。
ちなみに机の上では不思議と宿題、或いは苦手な算数の勉強が捗る。とはいえ実力ではなく、そこ以外でやると効果が出ないので成績は並であった。
加えて、遊びに来た友人は必ずと言ってよいほど珍しい(真っ黄)色に触れ、祖父の手作りと知るなり、目をまん丸くさせ、興奮気味に褒める。
「景都が羨ましい」「宝物だね」「おじいちゃんと仲良しなのいいな」
小学生の僕にとっては速く走れる靴や流行りのゲームより大切で、たったひとつ自慢できるもの。
終には夏休みに作文を書き、コンクールで賞までとった。よって魔法のかかった学習机と椅子はもっと有名に、話題を集めた祖父がFAXを寄越す。
『おめでとう。けいとのおかげでおじいちゃんはしあわせです。いま、つぎになにをつくろうか、なやんでいます。たからばこはどうかな?』
今度は財宝がぎっしり詰まっているような、少年の心を掴んで離さぬアイデアに熱狂する。
僕が思い描いた宝箱を祖父はぱっと作り上げ、やはり物をどれだけ入れても大丈夫といった、謎に満ちていた。
もしかしたら、彼が生み出す物は皆、何らかの力を持っていて、フィクションさながらの世界は意外と身近に存在したのかも知れない。

しかし、僕は順調に歳を重ね、進学に伴って寮生活を始める。
そうすれば当然、小学生から使い続けて受験も乗り越えた学習机と椅子とはお別れになって、捨てるには勿体無いと祖父が素材の再利用を試みた。
黄色いタンスの誕生、おまけにいつしかベッドの下で埃をかぶった宝箱も引き取る。
これ以降は祖父母宅に足を運ぶ機会さえ減り、最後に会ったのは締め切りに追われる仕事の影響で何と5年前の正月。
以上が今までの話で、ぽつりぽつりと思い出と感謝を祖父に伝えても、相槌のタイミングがズレて、残った(どうも眠いと思われる)。
「けーくん、そろそろお茶にしましょう。おじいちゃんはお昼寝の時間だわ」
見兼ねた祖母が割って入る。そーっと隣に視線を移すと、祖父は大欠伸をして、しわしわの目に涙を浮かべていた。
祖父が寝てしまい、代わりに祖母の愚痴を延々と聞き、すっかり日が暮れる。
帰り掛けに彼女は貰い物の菓子やら野菜やらのついでに
「そうそう。こないだ、物置から出てきたのよぉ。元はあなたのでしょ」
まるで昔話のよう、宝箱を僕に持たせた。
開けたらもわっと白い煙が出て来て、なんて、想像に過ぎない。中に入っていたのは僕をはじめとする孫が書いた手紙、似顔絵、送ったFAXの紙が山ほど、色褪せた写真、あとは四季を感じさせるドングリ等で(そういえば近所の公園で一緒に拾ったっけ)懐かしかった。
「いつまでも電話にこだわっちゃう理由は、多分ねぇ。おじいちゃん、けーくんたちのFAXと、お母さんからの連絡をこっそり楽しみに待ってたの」
祖母の意見が頭をよぎる。
寡黙な祖父の考えは読めず、差し当たり、奇天烈な学習机と椅子及び宝箱の仕掛けについても首を捻るばかりだ。
けれども、僕は確実に愛を注がれ、魔法使いが染めた家具と共に成長して、現在はそれこそ本当に創作を仕事にしている。
きっと、おじいちゃんがフィクションみたいな世界に連れて行ってくれたから、どうにか小説家の夢を叶えられた。
次は僕が、手探りで家族を支える番。
全ての人に当て嵌まる訳ではないが、寧ろ昔のことは信じ難いくらい覚えていると噂に聞く。
でも、いずれ忘れ去られるとしたって、僕は必ず祖父母の最期を見届けると今日、心に誓った。
