キリング・ミー・ソフトリー【小説】02_Two Little "Friends"
4月から通う大学では、経済やら経営だとかそういった〈就職に有利っぽい〉学部を選ぶ。
別段やりたいこともなく就職予定だったが、両親からお兄ちゃんのように関東の大学へ行かなくても視野が広がるともっともな台詞を並べて説得された(そんな本人達は在学中に結婚している。はっきり言って、できちゃった結婚)。
昔はギタリストになりたいと宣っていたが、成長と共に夢を失う。
さておき、ひとりの変わり者が高校はおろか大学の同じ学部にまで着いてくるつもりなのには呆れる。
「ちー、聞いてなくね?」
昼過ぎの混み合ったファストフード店。
図々しくこちらのポテトをつまみ食いする、知成(ともなり)がまさにその人物だ。
たまたま行きたいところが一緒で偶然と強調したが高校受験でも似た理由を挙げており……二度も重なるものか。
小学3年生の時に引っ越してきた彼は、誰にでも気さくに話しかける優しさと、常におしゃれで幼いながらに確固たる世界観を築き上げ、独特の外見を持ち、あっという間に人気者となった。
彼はどこにいても目立つが小学校ではずっと違うクラスで、教室の隅にて仲間と笑う自分との世界線が交わる訳もなかったのに、中学へ入ると事件が起きる。
「調子乗ってるよな?」
ひそひそ声が耳障りな自習時間。
新緑の季節、やや開いた窓から吹き抜ける風でカーテンが旗めく。
「小野寺先輩も2組の志帆ちゃんも、あいつのファンだとよ。」
「ぶっちゃけ、あれイケメンか?みんなにいい顔しやがって。」
「明らかにセンセーも贔屓してるしな。」
話題の中心は風邪を引いて学校を休んだ知成であり、ちらっと振り返ればモテない男連中による執念が渦巻き、醜さに反吐が出た。
「なあ。チアキちゃんも思うだろ?」
運動神経が良いくらいで異性に憧れられた過去の栄光に縋り付くガキ大将が語りかける。毎度お馴染み、悪ふざけの一環。
「ちょっと。さっきからなんなの。」
正義感の強い女生徒が平和を守るべく口を挟むも、腑が煮え繰り返り、
「妬んでもお前はあいつにはなれないし、絶対敵わないよ。そんな暇があったら勉強しとけば?せめて成績は勝てたらいいね。」
とバッサリ切った。
反撃を喰らわせた途端、賑やかな箱庭が静寂に包まれる。
翌日、友人に一部始終を聞いたとみえる知成は元気いっぱい登校し、にこやかにこちらの席へ駆け寄り
「広瀬くん、俺と友達になってくれない?」
などと述べた。
結果的にあの場を諌めた自分が、彼にとってヒーローの如く映ったという。
一瞬で教室中に衝撃が走る。
自然と人の輪に潜り込み一定のグループには所属せず、交際の申し出も悉く断る知成がこんな提案をするのは前代未聞で、それがまさか自分とは信じ難い出来事だった。
今や出身中学の伝説である。
加えて知成は早々にガキ大将と子分をも味方に回す。
あの人気者から強烈に好かれた広瀬千暁とは何なのか、いつの間にか噂に尾ひれがついて、陰口を叩いた奴等を全員倒し知成が跪き忠誠を誓ったとあらぬ方向に誤解され、中学3年間恋人は出来ずじまい。
もし知成が異性ならば、どれ程ドラマチックなラブストーリーだろうと幾度となく考えても現実は覆らず虚しい。
高校でやっと解放されると思いきや、ちゃっかりくっついてきて、彼は自分がすぐ辞めた軽音楽部で校内一ヴィジュアルの整ったバンドのボーカルを務める。
延々と続く交流、どういった繋がりか問われるのはうんざりを通り越すが、知成だけは一度たりとも千暁と呼ばない。
可愛らしい名前がコンプレックスである旨を充分理解した上で、あだ名をつける。
知成のおかげで様々な友人に囲まれ数えきれない程、楽しい時間を過ごせた為、感謝してもしきれない。
されど、こんなにも懐かれるとは予想だにしていなかったが。
