年齢って…
美容院で、髪をカットしてもらいながら、いつもの雑談が始まった。
「娘さんって、今おいくつなんですか?」
来た。
この質問、地味に困る。
とっさに口から出たのは、なぜか自信のない数字だった。
「……30位かなぁ」
言った瞬間、自分の中で警報が鳴る。
30“位”って何。だいたいの年齢って、「充電あと30」みたいに言うものだっけ。
でも、言い訳も用意してある。
うちには娘が三人いて、だいたい二歳ずつ離れている。年齢って毎年変わる。三人分。しかも私、自分の年も忘れる。忘れるどころか、夫婦そろって忘れたことがある。
学校の書類に、なぜか「42歳」と二年書き続けた。
二年、42歳。時が止まった夫婦。どんな夫婦だ。
だから私は、必死に取り繕った。
「いやいや、年齢って毎年変わるじゃないですか。覚えてられないんですよね」
ちょっと微妙な間が生まれる。
美容師さんの表情が、ほんのり“保留”になった気がした。
あ、やばい。
ここで笑いに変えないと、私は“娘の年齢もわからない母”として仕上がってしまう。
そこで、つい本音が飛び出した。
「興味ないしね、娘に」
言った瞬間、終わったと思った。
墓穴を掘るときって、スコップを止められない。掘れば掘るほど、手応えだけが増えていく。
ところが、美容師さんは爆笑した。
救われたのか、確定したのか、どっちなのかわからない。たぶん両方だ。
私の中で、結論は出ている。
歳を忘れるのは、都合が悪いからでも、愛が薄いからでもなく、単純に「関心がないことは脳が保存しない」だけ。
私のちっちゃい脳のキャパは、必要なものにだけ割り振られている。
家族の年齢は、重要そうで重要じゃない。
だって、有難くも毎日いつもどおりに生きてるし、年齢の数字だけが、毎年律儀に更新されていくのが悪い。
……というわけで、私は今日も堂々と、だいたいで生きている。
皆さん、成人した子どもの“毎年変わる年齢”、ちゃんと覚えてますか?
私はたぶん来年も「30位」と言う気がする。
