🌿50メートル先のセミに謝った夜
最近、昼間は暑すぎる。
だから私は、日が落ちてからいつもの公園を歩くことにしている。
10年通っている私には、
『またこの季節がきたな。』
というくらい、平常運転。
最初は、虫を見るだけで
驚いていたものだ。
昨日は家のことをあれこれしていたら、
出発が少し遅くなった。
公園はもう閉園時間を過ぎているけれど、
ウォーキングコースには街灯があって歩きやすい。
それでも汗ばむくらいの暑さ。
歩いたり、走ったりしている人がちらほらいる。
そういう時は、ちょっと心拍を上げて歩いてみる。
腕も回したりしながら、少し早足で歩いていた。
この時期の公園は、虫たちの楽園だ。
カブトムシ、ゴキブリ、そしてセミ。
町育ちの夫は、
デパートの屋上に買いに行かなくても
歩いているカブトムシを捕まえて
大喜びする。
私は、カブトムシもゴキブリもクワガタも、
ぱっと見ではよく分からない(笑)。
特に、寿命が近づいたセミは
ウォーキングコースによく転がっている。
見た目は動いていなくても、近づくと突然、
「ギャーーー!!」
と鳴いて飛び上がる。
何度も経験しているので、いつもは避けて歩く。
でも昨日は違った。
早足で歩いていた私は、暗さもあって気づかずに——
コツン。
「あ、蹴ってもーた。」
そう思った瞬間。
真夏の夜の禁忌「セミファイナル」が発動した。
「プギャーーーー!!
キーーー!!
ジジッ! プギャーーー!!」
……始まった。
「すまんよ・・。」
心の中でそう思いながら、そのまま歩き続けた。
ところが。
10メートル。
20メートル。
30メートル。
・・・・・・
まだ聞こえる。
プギャーーー!!
キーーー!!
プゲェーー!!
え。まだそんなに鳴くん?
そんなに痛かった?
気になって振り返る。
もうセミとは思えない鳴き方をしている。
プギッ
ジギーー
ギャーーーギゴッ
遠くのセミは、まだ全力で抗議していた。
セミからしたら、人間なんて超大型巨人みたいなものだ。
思わず私は、小さくつぶやいた。
「……ごめん。」
反省しつつも、生きてくれててありがとう。
そしてまた前を向いて
颯爽と歩き始めた。
その瞬間、自分を客観視してしまった。
夜の公園。
誰もいない。
50メートル先で鳴き叫ぶセミに向かって、
本気で「ごめん」と謝っている女。
その光景がおかしくて、おかしくて。
一人で
「ブハッ」
と思わず吹き出した。
帰ってすぐ、忘れないようにスマホのメモを開いた。
笑いって、時間が経つと細かいところを忘れるから。
そこに残したのは、たったこれだけ。
「セミ蹴ってギャーー ごめん笑」
今朝そのメモを見返して、
もう一回笑った。
……いや、でも。
あの鳴き方は反則でしょ。
