小説「葬送の旅」(10/10話) #創作大賞2024
【第10話】
翌日、亡き瑞帆さんは、洸平さんと希実ちゃん、瑞帆さんのご両親と妹さん、洸平さんのご両親に見送られ、ご収骨まで無事に済んだ。
長い一日を終えた洸平さんに、お疲れ様でございました、と声を掛けると、洸平さんが私に向かって御礼を言って下さった。
「山中さん、昨日今日と大変お世話になりました。山中さんのお陰で、妻の亡骸にちゃんとありがとうを伝える事が出来ました。妻と、そして自分の気持ちに向き合うきっかけを作って下さり本当に感謝してます。ありがとうございました」
「とんでもございません。微力ながらお力になれた事、光栄に存じます」
お互いお辞儀をし合った。
顔を上げると、白戸さんの肩越しにみかみんの顔が見えた。
口の動きで、良かったなと言ってるのが分かった。
熱いものが込上がってくるのを感じて、それを必死に抑えながら、お気をつけてと白戸家の皆様をエントランスまでお送りした。
その後事務所に戻ると、沢木社長、渡辺さん、梓さん、みかみんが一斉に立ち上がり、口々に一か月間お疲れ様でした、と言ってくれた。
みんなと別れるのが名残惜しい。
「皆さん、一か月間本当にお世話になりました!皆さんのお陰で、そして担当させて頂いたお客様のお陰で、色んな気づきがありました。人の数だけ人生があって、葬送の向き合い方も人それぞれ、正解も不正解もない。私の寄り添うという仕事が見えてきたような気がします」
「山中さんならきっとこれからも、様々な人の心に寄り添えるはずだよ。行ってらっしゃい。また迷うような事があったらいつでも戻っておいで。歓迎するよ。」
沢木社長の黒く澄んだ目に真っ直ぐ見つめられても、私はもう平気だった。
何故だか、アップルティーを飲むおじいちゃんの姿を思い出す。
これを飲むとほっとできる、そんな風に言っていたような気がする。
ひょっとしておじいちゃんも、今の自分と同じように悩んでいた時間があったのかもしれない。
愛する人、身近な人の喪失を前に、これまでの人生を振り返り、これからの人生をあゆんで行かれる様々な人達の、それぞれの葬送。
葬儀業界を変えた後も、葬送に携わる者として、これでいいのかと考え続けていたのだろうか。
今となってはもう分からない。
けれど答えは返って来なくてもいい。
折りに触れて、亡き人を思い出し、自分なりの答えを見つけてそれを胸に、明日へと歩を進めてゆく。
私はこの過程を大切にしていきたい。
さぁ帰ったら忙しくなるぞ、何から始めようか。
途端に面倒くさそうにする柳木の顔が浮かんできた。
くすっと笑いながら、鞄の中のタイムリープのリモコンを取り出す。
消えゆく目の前の景色の中、ハナミズキが揺れていた。
〈了〉
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