小説「葬送の旅」(7/10話) #創作大賞2024
【第7話】
野原家から、キミコさんが亡くなったと連絡が来たのは、それから十日後の事だった。
その日は遅めの時間帯に一件出棺があり、
それと丁度重なるタイミングで、野原家からの依頼が入った。
つむぎ葬祭は、少人数で幾つもの業務を行っている。
三上は霊柩車の運転をして火葬場にも同行するし、梓さんは式場の片付けや火葬場から戻ってきた際のお出迎えと、その他の業務があるので、
私が社長と一緒に野原家の故人様のお迎えなどをする事になった。
「山中さん、頼むね」
「先日、事前相談も担当させていただきましたし、野原家様のご意向は理解しているつもりです。しっかり努めます」
「まぁそう固くならずに。事前に相談して準備していたとはいえ、大切な人の死だ。野原さん御家族に余計な緊張感や不安を与えてしまわないように、リラックスだよ、山中さん」
社長の穏やかな空気が伝わってきて気持ちが和む。
大きく深呼吸をしてから、社長と一緒に事務所を出た。
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十日ぶりにお会いした陽子さん、朝陽さんは、お世話になりますよろしくお願い致します、と相変わらず深々と丁寧に挨拶をして下さった。
初めてお会いすることとなった三女の陽向さんも、挨拶の丁寧な穏やかな方だった。
式場に到着したあとも、やはりこちらにお願いして良かったと、お褒めの言葉をいただいた。
相談した時はまさかこんなに急に亡くなるとは思っていなかったけれど、
相談したお陰で慌てずに済んだし、何より山中さんに対応いただけて有難かったと、
まだお通夜前なのに、何度も御礼を言って下さった。
外注している司会者が到着してからは、式進行の事は司会者に任せていたが、それ以外の事で色々と自分を頼ってくれるのが嬉しくて、充足感で満たされた。
キミコさんのお孫さんは六人いらしたが、みんなお行儀が良くて明るくて優しい子達ばかりだ。
祭壇前、御柩の横に設けられたお供え用のスペースがある。
お身内が持ってこられた、故人様のゆかりの品や、好物だったものを、翌日の花手向けの時まで供える事が多い。
これに関しては、花ミズキ社がお世話するお別れ会でも同様に飾らせていただくので、紡黄自身、慣れた業務だった。
野原家のお供えスペースを一通り整えたあと、おかしな所がないか確認をしてみる。
去年の94歳のお誕生日会の写真、家族旅行の写真、お嬢様方の結婚式の写真…数々並べられた写真からは、野原家の歴史が垣間見える。
写真の隣には、折り紙やシールなどで装飾された色紙。
お孫さんからおばあちゃまへのメッセージが、拙い可愛らしい文字で記してある。
それから、おにぎりや煮物、苺を載せた豆皿がある。
豆皿には花のイラストがあしらわれているようで、苺の下からイラストの向日葵の花びらが元気よく飛び出している。
どれもキミコさんが好きだったものだろうか。御家族のキミコさんへの温かい愛が感じられて、まるでそこだけ明かりが灯ったように温かくて優しい。
きっと良きお母様でいらしたのだろう。
お母様の朗らかで優しい精神が子へと注がれて、それはまた子から孫へと受け継がれてゆく。
人は喪失体験によって湧き上がる感情や考えを、思いのままに表に出せずに、心に蓋をして抑え込んでしまう事があるという。
その状態をグリーフ(悲嘆)というのだと、花ミズキ社に入社してから読んだ本で知った。
グリーフの状態にある人々を、葬儀社の立場でサポートする為に、葬送の在り方を変えたおじいちゃん。
その強く真っ直ぐな志は、おじいちゃんが亡くなっても私の中で生き続けている。
その熱みたいなものが、今の私を突き動かしてくれている。
理屈では証明できない、そんな見えない力があるのだと、私は信じていた。
キミコさんを想う、野原家の御家族の心に寄り添って、いい式にしてあげたい。
私は改めてその想いを強くした。
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第8話へとつづく
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