観光タクシーの運転手さんが教えてくれた「外から見たGAOファンの姿」
家族を初めてGAOに連れて行った日、私は観光タクシーを予約した。
理由は
「GAO以外の男鹿の観光名所にも行きたい」
という家族のわがまま……。
いや、世間からすれば逆だ。
開館から閉館までGAO(男鹿水族館GAO)にいないと気が済まない私の方がわがままなのだ(なのだ)。
男鹿水族館GAOは、丸一日いても学び足りないほど奥深い水族館。
けれども、一般人である家族の申し出はごもっともだ。
ついでに申すと、私自身も男鹿半島の歴史や地理、
そして観光名所について詳しいわけではない。
それなら、今回は男鹿の道を知り尽くしたプロにご案内してもらおう。
という目論見で予約した観光タクシーだったが、
まさか道中が「ほぼGAOの話」になるとは、この時の私には想像もしていなかった。
「どっち派?」という鋭いツッコミ
男鹿に行った日。
その日は2025年2回目の大雪が降り積もった日の翌日で、
道の横には新雪がもっさりと降り積もっていた。
雪が珍しく男鹿駅周辺の雪景色を撮影し続ける家族を、
タクシーの運転手さんは少し奇妙なものを見るような目で見つめている。
私はといえば、男鹿の雪には慣れているのでぼんやりと雪の積もる道をタクシーのそばでながめていた
(そして心ではGAOには積もっていないんですけどね、と泣いていた)。
その温度差もあって、おじさんには余計に不思議に見えたんだろう。
2度ほど私と家族を交互に見比べられた。
寡黙そうな、
いかにも地元のベテランという感じのタクシーの運転手さんだった。

※注意※
タクシーのおじさんは男鹿(秋田)なまりで話してくださったのですが、
脳内変換で標準語に変換した関係で、おじさんの口調は標準語で記載されています。実際は男鹿なまりの口調です。
「入道崎に行ってから男鹿水族館GAOに行ってほしいです」
タクシーを走らせてもらいながら、今回のプランをオーダーするとおじさんは口を開いた。
「最後は男鹿水族館で下ろしたらいいの?」
「はい、そうしてもらえたら」
意外と静かな旅路になりそうだった。
そう思った矢先、おじさんはバックミラー越しに話しかけてきた。
「今回どうしてタクシー使おうと思ったの?」
「私は男鹿水族館GAOに来たことがあるのですが、家族が初めてで。
せっかくなら男鹿の観光名所も少し回ろうかと思って……」
観光タクシーの情報はすでにフォロワーさんから聞いていた。
『2時間7200円(2名/1名からでも同料金で可)』
GAOに直通するだけでも普通のタクシーより安いのに、あちこち寄ってもらってこの値段ならレンタカーを借りてよちよち走るより全然ありだ。
追記:
船川タクシーの「男鹿半島観光タクシープラン(予約制)」を利用しました
「こんな大雪の日に、しかも男鹿の観光。
明日はどこに行くの? 大館? 横手の方か?」
「明日も……GAOに行くんです」
流石に、タクシーの運転手さんもぎょっとした表情を浮かべる。
「ホッキョクグマのちびちゃん(あかちゃん)、まだ見れないでしょ?」
時は12月中旬、悲しい報道があってしばらく経ったことであった。
「そうですね。ホッキョクグマのあかちゃんはまだ見れませんが、
豪太くんに『パパになったね』と伝えたいのと、
あとアザラシに会いに」
一般人を装い、まずはホッキョクグマの名前を出しておく。
けれどもうっかり本音の「アザラシ」が漏れだしてしまったのだ(のだ)。
すると、タクシーの運転手さんの目が心なしか鋭くなった。
「お姉さんの方は、水族館初めてじゃないんだろ。
……どっち派だい?」
(どっち派???)
え……
唐突な質問に素の声が出た。
(ーなに? これはどういう趣旨?)
おじさんは逃がさないとばかりに、さらに追撃をしてくる。
「最近の男鹿水族館は『ホッキョクグマ』か『アザラシ』でしょ。
お姉さんはどっちが好きなんだい?」
まてまてまて。。。
私はまだ1言しかアザラシと言ってないぞ。
この男鹿の地で一体なにが起きているんだ……!
「アザラシ派です」
観念した私はあっさりと白状する。
ホッキョクグマの話も出来ることはできるが、ぼろが出てしまうのは明白だった。
おじさんは納得するような表情でにやりと笑う。
「あそこのアザラシは、そんなにめんこいんか(かわいいのか)?」
「そりゃもう、めちゃくちゃ『めんこたん』ですよ。
お父さん、お母さんたちも美人でかわいいですし、
もちろん子どもだって……」
止まらなくなる私の言葉を、おじさんは嬉しそうに聞き流しながら、
ポツリと「外から見たファンの姿」を話し始めた。
「最近はイベントも多くしているだろ?
タクシーもイベントに行くお客さんを乗せることが増えたけど、
アザラシ目当てのお客さんが多くて、すごいなと思っているんだ。」
へぇ……そうなんですか?
……とすっとぼけた声を出すものの。。。
脳裏にはイベントのために全力を出していた自分やフォロワーさんたちの姿がよぎる。
……はたからみたらそうだと思います。
「もう、熱量がちがう」
おじさんは嬉しそうに話を続ける。
以前乗せたお客さんの話。
その人は、あちこち回れる観光タクシーなのに「開館1時間前だけど、GAOに直行してほしい」と言い張ったのだという。
「他にも寄れるよ?」と聞いても「いいえ、直行で」と。
「そんな人もいるんだなぁと思って」
「あ、そちらの方、多分知り合いのお嬢さんです……」
「なんだ、お姉さんもお仲間だったわけか!」
車内にケラケラと笑い声が響く。
良い「カモ」になれているという誇り
おじさんの分析は、地元の足としてファンを送り届けてきたからこその、
鋭くも温かいものだった。
「ホッキョクグマのあかちゃんが生まれると、こどものホッキョクグマを見ようとタクシーを使ってくれるお客さんが増える。
でもその子が他の動物園に引っ越してしまうと、そっちに行くのかあまり来てくれなくなるんだな。
でもアザラシ好きな人は違う。
成長しても、イベントがあればまた来てくれる。
アザラシ好きな人はイベントがあれば来てくれる。
何度でも来てくれる。
つまり、そこまでしていきたいって思えるイベントしているって事だろ?
夏のお嬢さんと同じようなお客さんもあのあと何組もいたし、驚いた。
『めんこい』だけで、わざわざここまで来ないだろ?
何がそんなに響くんだい?」
そう問いかけられて、私は気づいた。
あぁ、私たちいい『カモ』になれているんだな。
そして正しく「男鹿」という地域に貢献できているんだ、と。
私はおじさんに、なぜGAOに通うのかを私なりの理由を話した。
首都圏の大きな水族館では味わえない、
ゆっくりと生き物を観察できる時間。
都会の喧騒から離れて、ただアザラシと向き合える贅沢。
そしてそんな環境を作り出してくれる飼育員さん。
ただ触れ合えるだけでなく、解説があり学びがあり、毎回違う発見がある。だからこそ、
たとえ遠くても「何度でも通いたい」と思わせてくれる水族館。
もちろん、アザラシもホッキョクグマもペンギンたちも
それぞれ個性的でかわいくて、その成長を日々応援したくなるところ。
同じような水族館は全国でも数少ない。
そんな話をさせていただいた。
おじちゃんはうれしそうに聞いてくれた。
「みんな同じに見えていたけど、
通の目からしたらみんな違って見えるんだな。
へき地にあるけど、行きたい人が多い水族館なんだな」
おじさんはしみじみと、そして少し誇らしげだった。

「ちびちゃんは男鹿にずっといてほしい。
他の水族館とのなんかとかもあるかもしれないが、そんなこと関係ない。
男鹿で生まれた豪太の子だ、
フブキみたいに外に行かなくても男鹿にみんなが来てくれたらいい」
「豪太はずっと男鹿にいるんだ。豪太の子どもは男鹿の子だ。」
おじさんはかつて送り届けたファンたちの熱狂を通して、
フブキのことを、ホッキョクグマのことを、そしてGAOのことが、
好きな人だったみたいだ。
そんなおじさんが今度はアザラー(アザラシ好きの相称)を送り届けることで、アザラシに興味を持ってくれたらいいな、と心で願った。
いや、すでにアザラーの熱量を感知して、
アザラシに興味を持ってくれている
「アザラー」の入り口にいるおじさんなのかもしれない。
そうでなきゃ「どっち派?」なんて言葉が口から出てくるはずはない。
タクシーの終わりに
その後打ち解けたおじさんは、
「この道は知らないだろ、バス道じゃないからね」とか
「ここはUFOが来るんだぞ」なんて
怪しい(?)伝説まで、たくさんの男鹿の話をしてくれた。


私も普段知らない道や、戸賀湾を一望できる場所に連れて行ってもらい、
家族と盛大にはしゃいだ。
「正直、今日は運転したくない天気だけど、タクシーで正解だよ。
レンタカーはよく雪に突っ込んでるからね」
そんな笑えない話を家族と笑いながら、私は窓の外を眺めていた。
男鹿水族館GAOのすぐそばまで来ていた。
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