【隠れた名館⑨】山形・天童市美術館ってどんな場所?【上村松園・横山大観・東山魁夷・速水御舟・川合玉堂・吉野石膏コレクション】
はじめに
こんにちは。
隠れた名館シリーズ、第9弾。
実は今日、日本画界隈ではかなり注目されるであろうコレクション展を鑑賞してきました。
それがこちら!


山形県天童市の天童市美術館が開催する吉野石膏コレクション展です。
天童市美術館は全国的に見ると片田舎の美術館ですが、近代日本画の大家と呼ばれる作家たちの作品を多数所蔵しています。
プレスの画像にも掲載されている上村松園をはじめ、横山大観や東山魁夷、速水御舟らの作品が展示されていました。
山形県を代表する美術館と言えば山形美術館が第一に上がりますが、所蔵作品で言えばこの天童市美術館も侮れません。
なぜこの山形市に隣接する程度の町の美術館が大作を所蔵しているのか。
今回は天童市美術館を紹介しながら、コレクション展の様子をお届けします。

将棋の町・天童市
天童市は山形県中央部、村山地方に位置する市。全国シェアの9割以上を占める将棋駒の生産地として有名です。春には市内の舞鶴山で、甲冑姿の武者や腰元が人間駒として盤上を動く「人間将棋」が開催されます。過去には有名棋士・藤井聡太氏などの著名人もゲストに呼ばれています。
さらに、さくらんぼなどの果物栽培が盛んで、町中には温泉が湧き、歴史と美食、癒やしを同時に満喫できる街です。
南北に広い街で最近はICが整備されたり、東北最大級のイオンモールができるなど、住みよい街づくりに力が入っています。
ちなみに、山形県民は天童のイオンモールのことを「いもてん(イオンモール天童南の略称)」と呼び親しんでいます笑
県外の方が聞いたら芋の天ぷらだと確実に勘違いするでしょう笑
館の概要とアクセス
場所
〒994-0013
山形県天童市老野森一丁目2番2号
開館時間
9時30分~18時(入館は17時30分まで)
休館日
月曜日(祝日及び休日と重なるときは祝休日の翌日)
展示換え期間中(ホームページ内のカレンダーをご確認ください)
12月29日-1月3日
入館料
( )内は20名以上の団体料金
◯通常展示
一般/420円(340円)
高校・大学生/210円(170円)
小・中学生/100円(80円)
◯企画展示
一般/520円(410円)
高校・大学生/310円(240円)
小・中学生/200円(160円)
◯特別展示
展覧会ごとに設定
※身体障がい者手帳、精神障がい者保健福祉手帳及び療育手帳を提示された方は表示料金の半額。同伴の介護者は無料。
今回のコレクション展では通常展示に該当。
つまり、大家の作品100点が一般420円で見ることができる、この上ない幸せを味わうことができます。
正直、価格設定を間違えていると言っても過言ではない。
行かない・この館の存在に気づいていない方は絶対損しています。
例え、コレクション展を外したとしても特別展でなければ、美術館の中では安い方の部類に入ると思います。
アクセス
◯JR
東京駅から天童駅まで山形新幹線でおよそ3時間
山形駅から天童駅まで奥羽本線でおよそ20分
天童駅(東口)から徒歩およそ15分
◯バス
山形駅から「天童(荒谷経由)」行に乗り
天童市役所口下車で降りて徒歩5分・およそ50分
◯飛行機
羽田空港から山形空港までおよそ55分
山形空港からタクシーでおよそ10分
◯自家用車
山形市内から国道13号線を利用、およそ30分
仙台市内から国道48号線を利用、およそ60分
東北自動車道村田JCより山形自動車道を利用、山形北ICからおよそ10分、または天童ICからおよそ5分
一応バス・電車は通っていますが、本数などを加味するとアクセスが良いとは言えません。立地も市役所の隣には建っていますが入り組んだ町中に位置しているので、天童駅まで着いたら素直にタクシーを呼ぶのが良いでしょう。
体力に自信がある人は歩いて向かってもいいですが、館周辺には寄れるような観光スポットはあまりありませんのでご注意ください。
駐車場は10台+市役所のエリアがあるので、自家用車の方は停めやすいと思います。
天童美術館と吉野石膏コレクション(※館について詳しく知りたい方向け)
まずは、天童市美術館について紹介しましょう。
一見、名前のみでは分かりませんが、この館は
1990年に山形県内で初めて開館した公立美術館
です。
公益財団法人天童市文化・スポーツ振興事業団が運営しています。
先述の山形美術館の方が公立っぽいですが、こちらは
民間主体で「公立美術館より一段と幅広い県民の美術館」という理念のもとに開館した美術館
なのです。
(天童市美術館が立つ前に完成しているので、山形に公立美術館が立つ前に「公立美術館より」と謳っている点はいささか疑問ですが…)
ちなみに、東北地方で県立美術館が存在しないのは山形県のみです。
北から、青森県立美術館、岩手県立美術館、秋田県立美術館、秋田県立近代美術館、宮城県美術館、福島県立美術館は県立施設です。
(宮城県のみ、名称が「県立」ではありませんが県が建てています)
秋田県が2館建てているので、1館あげちゃったんでしょうね、きっと…。
さて、天童市美術館と山形美術館に共通する大きな特徴が、今回の展示の目玉《吉野石膏コレクション》が寄託されているという点。
コレクションを寄託している吉野石膏株式会社は、東京・千代田区に本社を置く住宅建材メーカー。「タイガーボード」というブランド名で耐火建材石膏ボードを生産し、そのシェア率は70~80%と日本国内最大手を担っています。この石膏ボードの原材料、石膏が産出されるのが山形県南陽市です。
そんな山形との縁から、会社で収集・所蔵していた美術品の一部を1991年に山形美術館へ、1993年に天童市美術館へ寄託したのです。この時、山形美術館にはルノワール・モネ・シャガールなどのフランス近代絵画、天童市美術館には上村松園・横山大観・東山魁夷などの近代日本画家の作品、とジャンルの棲み分けを行って寄託しています。
(私個人の考えですが、山形美術館の方が今後、県外・国外からの来館者を多く招き入れるだろうという予測の上で海外作品を寄託し、開館当初に地元の名誉市民・村山裕太郎から日本画家・熊谷守一の作品の寄託を受けていた天童市美術館の日本画コレクションを強化しようと日本画作品を寄託したのだと思います。)
つまり、強力なパトロンがあって、2つの美術館のコレクションは潤沢になっているわけですね。山形美術館は他にも作品寄託を受けていますが、それはまた別の機会に紹介しましょう。
まさか、作家の出身地にもなっていない美術館がこんな大家の作品を所蔵しているとは、日本画ファンの方々も認知している人は少ないのではないかと思いますね。
もっと広まってほしい…!
松園・大観・魁夷、珠玉の日本画コレクション!
それでは、天童市美術館の館内とコレクション展の様子を紹介します。


まず、エントランスはこんな内装。




右手側に受付があり、左手側に休憩スペース、正面に1階展示室があります。受付はミュージアムショップも兼ねています。
展示室から距離が近く、スペースの役割がわかりやすいので過ごしやすいエントランスだなと感じました。
館内には自販機がありませんが、休憩スペースにドリンクサーバーがあるので安心です。
ただ、荷物用ロッカーが無いので、そこは注意しなくてはいけません。


さらに、コレクション展用の音声ガイドを無料で貸し出ししていました。ガイドは今では珍しいタッチペン式です。
まず展示室に入って最初に出迎えてくれたのが上村松園《青葉の頃》です!


絹本・着色 49.2×57.0cm 額装
吉野石膏コレクション
上村松園(1875-1949)は、女性として初めて文化勲章を受章した近代日本画の巨匠。一生を通じて気高く美しい女性を描く美人画を追求し、内面の強さや気品がにじみ出る、洗練された名作を数多く残した。
竹内栖鳳門下の一人です。
日本画壇中、美人画ではこれまでもこれからも右に出るものはいないと思うほどの実力者です。

美しいの一言に尽きます。
人の手で描かれたものとは思えない精巧さと迷いのない筆致。
特に私が好きなのは、髪の生え際の表現。
生え始める肌と毛髪部分の境界部分、うぶ毛をぼかしながら自然に描くこの超絶技巧こそ、松園だけが成せる技です。
美術史上の評価では同時代の川端龍子の美人画などと比べて粋ではない、野暮ったいという文が書かれることがありますが、下品さを一切纏うことがない、隙のない完全無欠の美しさを備え持っていると思います。
そんな豪華すぎる前菜から始まった今展。
このレベルの作品が当たり前のように展示室壁面を埋めています。


頭がくらくらするほどの画家ばかり

この展示室では、様々な大家が描く桜をテーマに展示を作っており、構図・筆法・彩色の違いを思う存分、味わうことができました。

紙本・着色 65.0×91.0cm 額装
吉野石膏コレクション
東山魁夷(1908-1999)は、昭和を代表する国民的日本画家です。独自の深い青色「東山ブルー」を多用し、神秘的で静謐な自然の美しさを描き続けました。皇居の障壁画や、唐招提寺の御影堂障壁画などを手掛けたことでも知られています。

紙本・着色 60.3×45.7cm 額装
吉野石膏コレクション
加山又造(1927-2004)は、戦後の日本画界に革新をもたらした画家のひとり。伝統的な技法に、西洋の抽象表現やアニメ的な感性を融合。きらびやかな金銀彩を用いたモダンな装飾美や、ダイナミックな水墨画で見る者を魅了する。

紙本・着色 72.7×90.9cm 額装
後藤純男展出品 吉野石膏コレクション
後藤純男(1930-2016)は、現代日本画壇を代表する画家のひとり。天然鉱物などの原色を幾重にも塗り重ねる独自の技法で、大和の古寺や雄大な北海道の自然を描いた。金箔や銀箔を用いた、重厚で美しい色彩が特徴。
これが420円…夢のような大家のコラボレーション展に設定していい価格ではありません…。
次の展示室も垂涎モノです。




言及し忘れていましたが、展示室の環境も素晴らしい。
照明の明るさも丁度良く、何より市民文化センターのような安心感が溢れております。
特に驚いたのがガラスケース内の作品群。

左から、上村松園、速水御舟、川合玉堂、横山大観、加藤栄三の作品。
もはや、このコレクション展自体が「見る近代日本画の教科書」と化しています。

紙本・着色 41.0×41.0cm 軸装
吉野石膏コレクション
速水御舟(1894-1935)は、大正から昭和初期に駆け抜けた天才日本画家。「梯子の頂上に登ることは挑戦だが、そこから飛び降りる勇気が必要」と語り、緻密な写実から幻想的な表現まで、次々と画風を変革。40歳の若さで世を去るまで、常に日本画の限界に挑み続けた。

絹本・着色 141.8×68.7cm 軸装
吉野石膏コレクション
川合玉堂(1873-1957)は、明治から昭和期に活躍した近代日本画の巨匠。日本の伝統的な山水画に西洋の写実表現を融合させ、のどかな田園風景や働く人々の姿を温かい筆致で描写。情感豊かな日本の原風景を描き続けた。

絹本・着色 54.5×65.5cm 軸装
吉野石膏コレクション
横山大観(1868-1958)は、近代日本画の確立に大きく貢献した巨匠。輪郭線を描かずに光や空気感を表現する「没線主調(朦朧体)」という革新的な技法を開発した。日本の伝統と富士山などの壮大な自然を生涯愛し、傑作を多く残した。
それぞれが描く自然をソファに座りながら比較し、堪能できる。
これができる美術館は全国でもここでだけだと思います。
こう見ると、速水御舟の描き方が飛び抜けて写実的だと感じますね。
1階はここで終了し、2階展示室へ続きます。
階段とエレベーターがしっかりありますので、足の悪い方でも大丈夫です。




2階も前田青邨、杉山寧、安井曾太郎、川端龍子など、豪華画家たちの作品がずらりと並びます。
その中でも最も気に入った作品がこちら。

紙本・着色 65.2×91.0cm 額装
第10回春季創画展 吉野石膏コレクション
上村松篁(1902-2001)は、母に上村松園を持ち、本名は信太郎。母の美意識を受け継ぎ、文化勲章を受章した日本画家。生涯を通じて瑞々しい花鳥画を描き続け、徹底した写生に基づきながら、どこか格調高く清らかな世界を表現した。
上村松園の息子・松篁の花鳥画です。
枝に紅く花をつける梅の下、二匹のクジャクバトを描いた作品。
梅の可憐さ、そしてクジャクバトの可憐さ、異なる2つの可憐さを一つの作品内に調和させています。
この作品はただ植物と動物を合わせて描いたわけではありません。
2つのモチーフに日本と海外を重ね合わせています。
梅にこれまでの日本文化、クジャクバトに海外の文化を重ねて、これから様々な異文化が参入する日本の未来を示唆しているわけですね。
奥深いストーリーが作品の中にあるのです。
展示室の他にも2階の通路には、山形ゆかりの作家・佐藤助雄氏による彫像作品が置かれておりました。


突き当たりの屋上には豊田豊氏の具象彫刻があり、近づいて間近で観察することができます。
ただ、私が訪れたときは雨天により、外に出ることができませんでした…残念…。


満足も満足、大満足です。
思わず、ポストカードを5枚買ってしまいました。
この吉野石膏コレクション展、今回は5/27(水)までとなっていますが、なんと!
9/10(木)~10/4(日)
12/24(木)~1/31(日)
の上記の日付で第2期・第3期が開催されます!
今期とは異なる作品が展示されるようですので、日本画ファンの方々は絶対に見に来てください!
また、別期だと熊谷守一の作品も展示されるので、そちらも見逃せません…!
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