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【ポストカードで振り返る①】今年度回った美術館・博物館・記念館【谷文晁、ペドロ・コスタ、鴨居玲、地底の森、伊藤小坡】

文化施設を回りながら必ずチェックしているのが、ミュージアムショップ。企画展の展示物や各館所有の優品をあしらった様々なグッズが展開されております。

店先のラインナップを見ると、海外からの来場者をターゲットにしていたり、高価な展示物のレプリカを全面に推していたり、現代の流行に乗った品々を置いていたりと、各館の創意工夫が窺えますね。

見るだけでも楽しい、美術館・博物館好きにはたまらない!館に来たらこれを購入する!とルーティーンが決まっている人がいるのではないでしょうか。

私は企画展の図録は必ず購入したい、と思いながらもお財布事情的に断念しています。あの作品、名前なんだっけ?誰が書いたんだっけ?ふと作品の記憶が蘇っても、キャプションを覚えていない…。そんな時、作品情報を確認できるのが図録なんですよね~。

さて、図録が買えなくても、何か館に見せてくれてありがとうと感謝のお礼をしたい、今後も今以上に頑張ってとエールを送りたい。そう思って、私が各館で買っているのはポストカードです。その館の企画展・常設展を見て、最も記憶に残ったものや良かったもののポストカードを必ず購入しています。これなら小さいうえに形として思い出に残るし、何よりどの館でも100~200円ほどで購入でき、お財布にも優しい。

そんなこんなで回った館と共に増えていくポストカードを私はファイリングしております。たまに見返すと、「この館・展示○○だったな~」と記憶の奥底から印象が滲み出てくることもしばしばあります。
せっかくですので、今回は思い出のアーティファクトの中から印象的だった館を紹介していきます。


1.久米美術館(品川区・上大崎)

谷文晁「菜の花蝶図」
久米美術館 久米桂一郎 日本絵画コレクションより

一つ目は谷文晁が描いた「菜の花蝶図」。

谷文晁は江戸生まれで、若くして狩野派を次いで南画を学んだ日本画家です。 奉職するうちに松平定信に認められて絵師として大成し、江戸後期の南画壇を統率する存在に上り詰めました。

この作品を所蔵するのが、品川区の上大崎にある久米美術館。JR山手線の品川駅から徒歩一分のエキチカ(駅近)美術館です。品川のあたりで美術館となると、この館くらいしか無いのではないかと思います。規模は比較的小さく、ビルのワンフロアで展示室を開放しています。

この館は夏頃に回ったかと思います。それ以前に、皇居三の丸尚蔵館の「百花ひらく」や齋田記念館の「百華の美」を見ており、日本画の花卉にマイブームが到来していたタイミングでした。花は当然美しいのですが、その周りには生き生きと絵の中で躍動する鳥や虫たちが描かれます。私は特に虫が好きなので、蝶やトンボが舞っているとついつい見入ってしまいます。

本作はタイトル通り、菜の花の上を様々な色合いの蝶たちが優雅に舞う軸作品。季節は春~夏、色や模様を見ると飛んでいるのはカラスアゲハやモンシロチョウでしょうか。カラスアゲハの羽根は簡略化してもなお、躍動感を保ち続けています。


余談にはなりますが、この絵、遠目から見ると右のカラスアゲハが身体を翻し、天を仰いで飛んでいるように見えます。近年の研究では、虫は太陽を背にして飛翔する性質があるとされ、夜の街灯に甲虫や蛾が吸い寄せられる原因もこの性質に関係していると考察されています。これを前提に考えると太陽を仰ぎながら飛ぶという構図は現実的にはありえません。とはいえ、風の方向や何かを回避するため、刹那的にこの体勢をとっている可能性もあり、ましてやフィクションの世界なので作者が「太陽を仰ごうとする蝶がいてもいいだろう」と構想して描いていることも否めません。展示室の遠くにこの作品を見つけた私はそんなこんなを考えながら近づいていったのですが、よく見るとこの蝶は胴を下に、羽根を上にして飛んでいました。あっ、普通に飛んでたわ、と早とちりしてしまったエピソードです。


2.東京都写真美術館(目黒区・恵比寿ガーデンプレイス)

企画展「PEDRO COSTA INNERVISIONS」より

二つ目は東京都写真美術館の企画展「PEDRO COSTA INNERVISIONS」の展示作品。

ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタの表現に迫る企画展です。ペドロ・コスタの作風として、暗闇と光の強いコントラストと静謐かつ緻密な画面構成のなかに、現実の断片をすくい上げ、社会構造に鋭く切り込み、新たな視座を提示する姿勢が挙げられます。

ポストカードの写真は映画「コロッサル・ユース」のワンシーン。かつて去ったスラム街と新居を行き来する主人公の姿に過去と現在を交錯させ、彷徨える魂を描き出す作品です。

私はこの館を訪れるまで、写真というジャンルに表現の難しさを感じていました。絵画・彫刻・書は素材がまっさらな所からスタートし、製作者が自由に、思うがままに手を加え、表現を作ることができます。しかし、写真は既に決まった世界が外に広がっている。撮りたいもの・撮りたい雰囲気・撮りたい光景があっても、被写体が身近にあるか、この世界のどこかにあるかは分からない。だから、写真が持ちうる表現の幅は他の分野よりも狭いと感じていました。しかし、写真という分野は予想した以上に複雑で、繊細で、多様で、何よりアーティストの方々が持っている制作活動への熱意が感じられました。そして、写真は最もこの世界や社会と密接した位置づけにあり、大小様々な社会問題や誰もが人生の中で経験しうる体験を鑑賞者へ共有してくれる、広い公共性と大きな説得力を持ったジャンルだと、この館を訪れて確信したのです。


少し横道に逸れますが、この館は三菱一号館美術館と似ていると思います。企画展のチョイスや着目する視点から窺える上品さ、芸術というジャンルでありながらも社会のトピックスとの関連を持たせる姿勢、配慮が行き届いた館内設備。そのような施設としての公共性、つまりどんな人でも楽しめるようにというコンセプトがひしひしと伝わります。そこにはやはり、目黒・恵比寿という土地性も影響しているのでしょうか、気になるところです。


3.T&Fギャラリー(新潟県新潟市・中央区)

鴨居玲「出を待つ(道化師)」 1984年 油彩、キャンバス 77×60
T&Fギャラリー ポストカードより

今年度は全国様々な場所へ行くことも多かった一年でした。ここからは都外の館を紹介します。このポストカードは新潟県新潟市にあるT&Fギャラリーで購入したものです。

新潟へ赴いたのは11月、直近で早稲田大学の會津八一記念館を訪れた私は、新潟市立の會津八一記念館もぜひ見てみたいと思い、上越新幹線のチケットを勢いで予約しました。新潟の方はメディアシップというビル内に記念館があり、同じフロアに「にいがた文化の記憶館」(先人記念館的な施設)も併設されております。鑑賞が終わった私は新潟駅へ踵を返そうとしておりました。そこでふと目に留まったのが「ギャラリー」という文字。街中、大通りに面した建物1F、アクセスも良く人目に付きやすい立地、どんなギャラリーなのか入ってみようと立ち寄ってみたのです。


規模としては銀座に点在する小さなギャラリーくらいのワンルーム。左右と奥の壁面に作品が展示されています。その作品の作者はなんと、鴨居玲だったのです。ちょうどこの前、石川県立美術館で回顧展が行われていましたね。

オーナーの方がたまたまいらっしゃったので聞いたところ、運営元の社長が芸術作品の収集に力を入れているようで、特に鴨居玲の作品を気に入って買い付けているとのこと。ギャラリー奥の壁が渋めのレンガ調になっており、その点は東京ステーションギャラリーをリスペクトしたとのことで、内装にも工夫を凝らしております。

まさか新潟で鴨居玲の作品を見ることができるとは、このギャラリーは只者では無いなと末恐ろしくなりました。私は、前述の通りアクセスがあまりにも良かったので「市民ギャラリーとして貸出を行ってはいかが」と提案したのですが、様々な意向があってできないようです。こういう隠れた館にこそスポットライトが当たってほしいものです。


4.地底の森ミュージアム(宮城県仙台市・太白区長町)

地下展示室の様子

お次はさらに北東の方角へ。
宮城県仙台市にある地底の森ミュージアムです。今年に入って、自分は山形出身だけど思えば宮城の美術館・博物館って回ったことないなと気づきました。そこで仙台を訪れた際に回った館の一つです。
ここは今年回った博物館の中で断トツで良かった場所です!国立歴史民俗博物館とタイ(同率)で1位になります。

その理由は一つ、ポストカードに載っている展示室、ここでは2万年前の旧石器時代の遺跡(富沢遺跡)をそのまま保管し公開しているからです。

何かの実験施設...?
異様な空気感が漂う地下展示室


展示の質とスケールがずば抜けてレベルが高い。通常、調査と保管のために立ち入りを禁止される遺跡を間近で生で見ることができる、この体験は日本中探してもここでしか味わえないのではないかと思います。

まず展示室の空間は温度と湿度が一定に保たれており、生ぬるい空気が一面に広がっております。やはり空気が違うと雰囲気も日常生活とはかけ離れた、どこか神聖なもののように感じます。そして、眼下に広がる遺跡。薄暗さの中に黒と白のコントラストが目に入ってきます。黒の正体は2万年前の古木なのですが、やはりどこか異様です。目を凝らしてよく見なければ木の根とは認識できません。全てが新鮮で、新体験。有機物が悠久の時を経て残存するという現象が、いかに凄いことかを身をもって教えてくれます。

また、本館の解説展示室では遺跡の研究者たちがどのように様々な謎を解析したのか、子どもでも分かりやすく追体験できるコーナーが用意されております。博物館の解説キャプションと言えば、遺物の当時の様相や具体的な使用方法など難解な説明になりがちです。対して本館では、内容を要約しつつ平易な表現でイラストを交えて研究内容を伝えております。問い、視点、解決という三つのプロセスの重要性を学べる点がとても良いですね。

子どもの頃に来れればもっと感動したに違いない…、と少し悔しさを覚えました。


5.嵯峨嵐山文華館(京都府・嵐山)

伊藤小坡「貝合せの図」(部分)
嵯峨嵐山文華館 ポストカードより

ラストは京都。
京都府・嵐山の嵯峨嵐山文華館です。一館のみ挙げていますが、ここは実質福田美術館と一心同体だと考えても良いかと思います。

この館の目玉はなんといっても二階大広間の展示室です。120畳のたたみが広がる空間でゆったりと作品を鑑賞できる上、部屋へ繋がる渡り廊下からは桂川と渡月橋の様子を一望することが可能。作品展示としての利用の他、競技かるたや講演会などのイベントもこの部屋で行われているようです。まるで高級旅館の一幕のような高級感溢れる展示空間に思わずため息がこぼれました…。

館の展示作品も室内の雰囲気に合わせた優品が多く、今回印象深かった伊藤小坡の作品もその一つです。今年度、美術館を回った中で日本画を見る機会が多かったのですが、その中でも美人画を特集する企画展や常設企画が複数ありました。有名どころを取り上げるとすれば京都画壇の一輪華・上村松園(山種美術館企画展)、装丁デザイン職人・橋口五葉(府中市美術館企画展)、叙情の使い手・小村雪岱(あべのハルカス美術館企画展)でしょうか。特に私は上村松園が好きで、女性が描く女性に敵うものはないと考えています。(男性が描く美人画も良いところはあるのですが、どうも性的な歪さを感じてしまう。)

小坡も松園と同じく京都画壇で活躍した女性、佇まいや描き方にシンパシーを感じます。眉、目、口、髪、洗練された一画一画が細胞、器官を象り、煩悩・雑念の無い人間の姿がそこに現れる。非の打ち所がない、永遠に見ていられる美しさこそが両者の絵に共通する魅力です。そんな美人を彩る着物などの装飾品の数々も繊細に描き込まれております。

福田美術館・嵯峨嵐山文華館は接客・サービスも丁寧で、柔らかな言葉のかけ方や各部屋への案内していただける気遣いに感動しました。私が訪れた時もそうでしたが、嵐山は観光スポット。府外・国外からの観光客が圧倒的に多い街です。どのような方にもまた来たいと思ってもらえるような真心こもったサービスを心掛けているのかと思います。今回は館内カフェに寄り道できなかったので、ぜひともリベンジしたいです。

ちなみにこのお魚さんもキモかったので買いました
お気に入りです


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吾妻圭@美術館・博物館・記念館情報 チップは全て、文化施設調査用に使わせていただきます。 当面の目標は「全国都道府県立の文化施設を周る」ことです。 周った全ての館は記事化します。 よろしければ応援していただけるとありがたいです。

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