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Vol.30【構造分解・後編】「違約金500万円」と「手数料16.4%」。ブルーベリー観光農園の裏側にある、本当の「ツルハシ売り」の正体

こんにちは、ビーヅクリです。

前回(Vol.29)、ブルーベリー観光農園ビジネスの「年収2000万」の裏には「初期投資2,500万〜4,000万円」という重厚長大なリスクが隠れていることをお話ししました。しかも、その全てを背負うのは農園経営者ただ一人です。

では、このリスクを一切負わずに、農園が儲かろうが潰れようが確実に儲け続けている「ツルハシ売り」とは、一体誰なのか。今回は、その構造を、具体的な金額つきで暴いていきます。

最初に伝えておきます。これは「ツルハシ売りは誰なのか」の深掘りであって、悪者がいるという話ではありません。ビジネスをしている以上、誰かを幸せにしていることは大前提であり、あくまで客観的な「構造」の話です。


■ システムメーカーの「美しい罠」

日本のブルーベリー養液栽培システムの市場は、事実上、大手2社ほどでほぼ寡占された状態にあります。

いずれも、原産地である北米の土壌環境を再現し、通常4〜5年かかる収穫を最短2年に短縮する、優れた技術を持っています。糖度16度以上の高品質な果実を実現するその技術力は、本物です。私はこうしたメーカーを批判したいのではありません。

面白いのは、実際にどこかのメーカーを選んだ農園経営者のブログで見つけた、率直な選定理由です。「一度導入したら10年以上の付き合いになる。個人事業主の担当者だと、その人に何かあったら終わりだが、企業体の会社なら担当者が変わっても長く付き合える」という趣旨のことが書かれていました。

これはつまり、システムを導入した瞬間に「10年単位の運命共同体」に入る、ということです。専用の肥料、専用の培地、専用のpH・EC値管理。一度組み込まれたら、他社に乗り換えるコストは事実上、農園を一から作り直すレベルになります。

さらに、大手メーカーの中には、将来の顧客を育てる「入口」を用意しているところもあります。自宅の庭で5〜30本規模から始められる家庭用キットです。プロ用システムと同じ資材を使い、自宅で成功体験を積ませ、最終的に本格的な観光農園事業へと誘導する。これは見事な顧客獲得戦略だと思います。

実際に私も、完成したばかりのBESSの家の庭で、家庭用キットを組み上げて20本のブルーベリーを養液栽培で実験的に育て始めています。


■ 資材サプライヤーという「静かな金脈」

システムやパテント品種ほど目立たないけれど、確実に儲かり続けているプレイヤーがもう一組います。日々の消耗品を売る、資材サプライヤーです。

観光農園では、ベビーカーやハイヒールでも歩ける清潔な足元環境が、顧客満足度に直結します。そのため農園全体に高品質な防草シートを敷き詰めるのが、実質的な標準仕様になっています。

市場でよく使われる強力タイプの防草シート(2m×30m、60平米分)は、1ロールあたり約2万5千円〜3万9千円ほどで取引されています。1反(1000平米)の農地全体に敷き詰めるとなると、単純計算で約17ロール。シート代だけで軽く数十万円、これに固定用のピンや接続テープ、下地の整地費用まで含めれば、足元だけで100万円近いインフラ投資になります。

さらに見落とされがちなのが、収穫や販売に使う「専用パック(容器)」です。業務用の専用パックは、1個あたり20円台という単価で取引されています。単なる包装資材としては、決して安くありません。

これらの資材サプライヤーは、ブルーベリーが豊作だろうが不作だろうが、農地面積という物理的な定数に対して、確実に売上を積み上げていきます。しかも、養液栽培システムを導入した農園は、システムメーカーが指定する専用の液体肥料を使い続けなければならない構造になっていることが多く、これも同じく「地味だけど確実」なストック収益です。

派手さはないけれど、これも立派な「ツルハシ」です。


■ パテント品種という「知財の堀」。違約金は500万円

観光農園の競争力は、「どれだけ大粒で甘い、魅力的な品種を揃えられるか」に懸かっています。この品種を独占供給しているのが、米国やニュージーランドの研究機関と契約を結んだ、国内トップクラスの種苗会社です。

私は実際に、大手種苗会社が契約時に交わす誓約書を確認しました。そこに書かれていた内容に、正直、背筋が伸びました。

購入した苗木は、代理店の許可なく挿し木や接ぎ木で増やしてはいけない。転売、譲渡、国外への持ち出しも禁止。そして、これに違反した場合——

損害賠償とは別に、違約金500万円。さらに、無断で増殖した苗木1本につき追加で1万円。これは決して大げさな引用ではなく、実際の契約書に明記されている数字です。

従来の農業なら、優秀な株を見つけたら自分の技術で挿し木をして農園を広げていくのが当たり前でした。しかしこのビジネスでは、農園を拡張するたびに、必ず定価で苗木を買い続けなければなりません。

法律と知的財産権で築かれたこの堀は、極めて深い。種苗会社の利益を法的に保証する、最強のツルハシです。


■OTA手数料という「デジタル小作人」化

農園が無事に開業し、いざ集客を始める段階で待ち受けているのが、じゃらんやアソビューといった予約プラットフォーム(OTA)です。

その手数料の実態を、業界内部実際に、じゃらんへの掲載を検討したある事業者が問い合わせたところ、提示された手数料は「16.4%」だったという報告があります。内訳は基本手数料に加え、ポイント負担分やカード決済手数料が上乗せされたものです。

仮に、入場料2,500円のブルーベリー狩りに、OTA経由で年間3,000人が訪れたとします。売上は750万円。手数料率16.4%なら、約123万円が自動的にプラットフォームへ吸い上げられる計算になります。

面白いのは、この手数料が年々上がる傾向にあるという指摘です。宿泊予約サイトの手数料が8〜15%程度であるのに対し、体験・アクティビティ予約はそれより高い水準からスタートしており、今後も上昇が見込まれています。

OTAは、天候リスクも、資本リスクも、労働リスクも、一切負いません。ある農園が台風で全滅しても、彼らの帳簿は1ミリも痛まない。単に、生き残った別の施設に送客先を切り替えるだけです。


■ 「年収2000万」を売っているのは、誰なのか

ここまで調べていて、私が一番「なるほど」と唸った発見があります。

こうした「年収2000万」レベルの成功事例を作った当人が、その後、自身の経験を有料のオンライン講座やコンサルティングとして販売するケースは、この業界では珍しくありません。成功の再現性を教える、という意味では、とても真っ当なビジネスです。

さらに興味深いのは、こうした講座の告知が、養液栽培システムメーカーのホームページ上で一緒に紹介されているケースも見られることです。システムを売る側と、成功体験を売る側が、同じ「殺し文句」を使って、同じ場所で、新規参入者を呼び込んでいる構造です。

誤解しないでほしいのですが、これは陰謀でも悪意でもありません。とても自然なビジネス連携です。ただ、構造として見た時、「年収2000万の夢」そのものが、既にビジネスモデルの一部として組み込まれている、という事実は知っておく価値があります。

夢を見た人が農園を始める。農園を始めるにはシステムが要る。システムを売る会社は、夢を見た人にもっと夢を見てもらうために、講座の宣伝に協力する。この循環そのものが、ツルハシ経済の縮図です。


■ 結局、誰が一番得しているのか

ここまでの構造を整理すると、リスクとリターンの非対称性がはっきり見えてきます。もっともノーリスクなのはOTAです。天候リスクも設備投資も負わず、売上の15〜20%を自動で徴収し続けます。

次にリスクが低いのは、システムメーカー・種苗会社・資材サプライヤーです。初期販売やロール単位・パック単位の売上を確保しつつ、専用資材と法的な独占権によって、数十年にわたる継続収益を得ます。

その次が、成功体験をパッケージ化するコンサルタント・講座提供者です。動画やセミナーの複製コストはほぼゼロで、粗利率は極めて高い。

そして最後に、農園経営者です。数千万円の借金、天候リスク、設備トラブル、そのすべてを一人で背負い、売上が上がればOTAに15%以上を抜かれ、拡張するたびに種苗会社へ定価を払い続け、日々の消耗品も買い続ける。

年収2000万は確かに実現可能です。ただし、バリューチェーン全体で見た時、そのリスク・リターン比率は、間違いなく一番不利な位置にいます。


■ 搾取されない「賢いマイナー」になるための3つの視点

では、この構造を知った上で、どう立ち回るべきか。私なりの結論です。

① 契約前に「ロックインの深さ」を数値で把握する

システムを選ぶ前に、専用資材の年間コスト、乗り換えコスト、契約解除条件を必ず確認する。10年単位の付き合いになる相手を、雰囲気や営業トークだけで選ばない。

② OTAに依存しすぎず、自社の直予約導線を持つ

OTAは集客の入口として優秀ですが、そこに100%依存すると売上の坂道を永遠に15〜20%削られ続けます。Googleビジネスプロフィールや自社SNSでの直接予約導線を、開業当初から並行して育てる。

③ 「年収2000万」という数字を、目的ではなく検証対象として扱う

これが一番大事です。誰かが売っている夢の数字を鵜呑みにせず、自分の規模・立地・体制で本当に成立するのか、自分の電卓で必ず検算する。前回の記事で私がやったように。

私自身、これからシステムメーカー含めて様々な仕入先と取引を始めることになります。私は彼らを敵だとは思っていません。むしろ、協力者です。彼らの技術がなければ私は農業に参入すらできなかった。

ただ、誰と組むにしても、この構造を知っているのと知らないのとでは、交渉のテーブルに着く姿勢がまるで違います。

それが、今回この記事を書いた理由です。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。「これは知らなかった」「うちの業界にも同じ構造がある」「考え方が参考になった」という方は、ぜひ「スキ」と「フォロー」をお願いします。次回もお楽しみに!

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