肉まん同盟(創作)

真亜子の中学校では、2学期にクラス対抗で壁新聞コンクールというのがある。
作成メンバーになった真亜子が、用紙とマジックペンを職員室まで借りに行くと、パッと開いたドアから利都(りつ)が出てきた。
(りっちゃん)
習慣で、何か言われるかと、無意識に身構える。

利都は無言で真亜子のつま先から頭のてっぺんまで視線を移動させ、
「ないくせに」
横目に見ながらすっと通り過ぎていく。

「ないくせに」ってなんのことだろう?
「くせに」は、褒められてはいないようだけど。
真亜子はわからないまま、職員室に入って行った。


放課後の教室で祥子と待ち合わせた。
「ごめん、ちょっと新聞で遅くなった」
祥子が駆け込んできた。
祥子は隣のクラスで、やはり壁新聞のメンバーになっていた。
「私も今終わったとこ。
ねえ、昼休みにりっちゃんと会ってさ。職員室の前で。
それで『ないくせに』って言われたんだけど。
なんのことかなぁ」

「ないくせに?」
祥子は真亜子をじろじろ観察して、しばらく考えていたが、
「はぁ、わかった。相変わらず利都はいじわるだな、言わんでいいことを言う」
真亜子は「やっぱり悪口だったのか」とは思ったが、まだよくわからない。

「これだよきっと」
祥子は真亜子を回れ右させると、背中の真ん中をブラウスの上からつついた。
「あんた今日初めてでしょしてきたの。ブラ」
真亜子はくるっと向き直って「えっ、そうだけどっ」と慌てて言う。
「だからさ、えーとさ、胸がないくせにブラしてら、ってこと」
祥子は半分申し訳なさそうに、半分腹立たしげに言う。

「利都だってぺちゃんこのくせに。先月からしてるからって威張るんじゃない!」
祥子は代わりに怒ってくれているけど、しっかり利都のブラ事情もチェックしていたりする。
「ふふふ、祥子ったらよく知ってるね」
真亜子が言うと、「これは重要チェック項目だからね」といたずらっぽく笑った。

駅前のコンビニまで歩く。祥子は自転車通学で、ヘルメットをカゴに入れている。
「なんで利都って、真亜子に意地悪なんだろう。頭もいいしスポーツ万能だし。生徒会にも入ってるんだよね」
「うん、私が妬まれるとこなんか、1ミリだってないのにね〜」
「だよね!・・・って、ああ、そういう意味じゃなくってさ」
祥子は慌てて手を振って
「何に腐っているんだろう?何か鬱屈して見えるんだ。どんよ~り」

真亜子はしばし黙っていたが思い切ったように
「いや、りっちゃんもあれで色々とあるみたいだわ」と言った。
「ほお、真亜子が肩を持つとは!一番標的にされてるのに?」

コンビニに着いて、二人はカフェラテを買った。あと、真亜子は袋入りせんべい、祥子はコロッケ。
「自転車だと帰るまでにお腹減っちゃうんだ」
言い訳みたいなことを言いながら、嬉しそうにぱくつく。
「真亜子よくそれ買うけどさ。好きなの?揚げせん」
「うん色々入ってて好き。えびせん美味しいよ。あとわさび味のとか。私はこのイカみりんが一番だけど」
二人は下校時に、コンビニの駐車スペースの縁石に座ってダベるのが日課みたいになっている。

「こないだうちのお母さんが言ってたの。
りっちゃんち三人きょうだいでしょう?三人目の弟くんが生まれたとき、りっちゃんのお母さんが、うちの子は上二人が出来がいいので、三人目を作ったんだって言ってたらしい」
祥子がカフェラテをごくんと飲み込んだ。
「げー、なんじゃそれ」
「私んちは、三人目が病気で亡くなってるから、お母さんちょっと怒ったみたいに言ってた。人を馬鹿にしてる、何を言っても怒らないと思ってるって。まあ当たっていなくもないか」

真亜子は、そういう考えのお母さんだと自分なら嫌だと思うし、きっと利都も窮屈なんじゃないかな、というのだった。
「でも利都は優等生じゃん」
「うん、だから余計に大変じゃないかなと思うんだ」

真亜子は利都にいじわるされると、怒るよりも納得してしまう。
もっと気楽にのんびりしたいよなあ。私なんか見てたら、そりゃムカムカするよなあ。
「だからって、真亜子をサンドバッグがわりにするのは違うでしょうよ!」
祥子はもどかしい気持ちだった。


壁新聞の制作が終盤に近付き、今日も二人はコンビニ駐車場でだべっていた。肌寒い夕方で、二人とも温かい缶入りコーンスープを飲んでいた。
そこへ、利都がやってきた。真亜子と祥子は車の陰になっていて、彼女には見えていなかった。
縁石に腰を下ろして、湯気があがる中華まんをほおばり始めた。

「ちょっとあれ。利都」
「ほんとだ。肉まんかなぁ」
真亜子は呑気なことを言っている。
「珍しいね。いっつも塾とかピアノで忙しそうなのに」
「急がないでゆっくり食べた方がおいしいのにね」
ごそごそ言っていると、利都に聞こえてしまった。
驚いたように鞄をひったくると、走って行ってしまった。

翌日の放課後。真亜子と祥子がいつものように教室から出ると、そこに利都がつっ立っていた。二人は一瞬固まって、何を言われるかと黙っていた。
「きのう、コンビニで私を見たって誰にも言わないで」
利都は目を伏せたまま言った。
「とくに真亜子は、あんたのお母さんにも言っちゃいけない」
「利都、昨日は塾とかじゃなかったの?」
祥子が聞くと、利都は「べつに。関係ないじゃない」と遮った。

「え、私きのうお母さんに言っちゃったよ」
真亜子は済まなそうに、「でもなんで、言っちゃいけないの?」
利都はキッと真亜子を睨んで
「あんたのお母さんから、うちのお母さんに伝わるじゃない!
そしたら、あたしが時々さぼっているのがバレるのよ!」
叫ぶように言って、余計なことまで言ってしまったと押し黙った。

「うちのお母さん、言わないよ。利都のお母さんとはあまりしゃべらないもん。じゃあ、私も口止めしておくよ。お母さん約束守るから」
真亜子は少しウキウキしてきた。


「真亜子、何そんなにニヤニヤしてんの?」
利都がしぶしぶ教室へ戻ると、祥子が言った。
そこでニヤつく理由がわからない。
「なんでかなあ。ちょっとりっちゃんが可愛いなあって思って」
「へーえ。真亜子から可愛いって思われるなんて、利都も不覚だったな!」
「何それー」
真亜子はふくれて見せたが、「利都、不覚」がくすぐったい。

「今度、三人で肉まん食べようよ!」
真亜子の言葉に祥子は半分呆れて、でも半分は嬉しそうに
「利都のお母さんには絶対にヒミツ!だね」とVサインをした。
「うん、肉まん同盟だね!」
真亜子は、これはいいネーミングだと肉まんみたいにホクホクした。


おしまい




姉妹編です






いいなと思ったら応援しよう!