寄り道金太郎
春の空を映して、ゆったり豊かに流れる「四国太郎」、四万十川。
・・・をほうふつとさせるような、雄大な川が今回もその舞台なのである。
今日も今日とて、りーさは河原に洗濯に来ていた。
ああ、なんだかひさびさに嫌な予感がする・・・
重い冬物を洗いあげ、さて、そろそろ帰ろうとしていた時。
上流に何やらピカッと光るものを見てしまった。
まずい、まずいまずいまずい!
また何かどんぶらこしてくるわ!
すぐに帰ればいいものを、そこはそれ、過去に二回もいろいろありましたから、ついつい、りーさとしては何が流れてきているのか、確かめたくなるというもので。
洗濯物をどっこらしょと持ち上げてチラ見しながら、思い切り悪く帰ろうとすると。
その光る物体は、勢いづいたようにごろごろごろっと河原に乗り上げ、
パッカーン!
と割れた。
「ひゃああああっ!なんて手っ取り早いっ!!」
りーさは怖気づきながら、成り行きを見守る。
まばゆい光が収まって、その正体が現れた。
案の定、桃だったが、金色だった。
桃のそばに、マサカリをかついで熊にまたがった小さな男の子がいる。
「熊、しかも木彫り!ご丁寧に鮭をくわえてるし!」
小さな子どもの赤い菱形の腹掛けには、びっくりマーク付きで「金!」と刺繍してあった。
りーさは、こんなチビっ子一人ならなんとかなるわと、熊ごと洗濯かごに入れて、家に連れて帰った。
山から戻った五郎は、小さくて元気そうな男の子に目じりを下げながら、ご飯粒を食べさせたり、湯呑みで行水させたり、靴下の中に入れて寝かせたりと、面白そうに世話をした。
そんなふうに一晩が経過した、次の朝。
そのチビッ子はもちもちと肉付きのいい、相撲取りのような大男になって、途方に暮れたように、狭い部屋に座っていた。
「ちょっと、急にどういうこと!?
あんたあのチビッ子だよね。ああ、腹掛けが破れて、はれんちなことになっている!」
りーさは急いでシーツを持ってきて、大男のチビッ子の腹回りに巻いた。
騒ぎを聞いて起きて来た五郎もあんぐり口を開けている。
「まるで、圧縮ファイルが解凍されたかのようだ」
「なにわけのわからないこと言ってんのよ。どうするこの人。
ちょっと、あんた、名前何てぇの!なんでこうなってんの!あの木彫りの熊は何!?」
大男は一息おいてからゆっくりと座り直して、
「私は、金時豆太郎と申します。お騒がせして申し訳ありません。
つきましては、昨夜来、五郎どのの甲斐甲斐しいお世話に感じ入っておるのです。まことにかたじけなく、このご恩にどう報いたらいいやらと、いま・・・」
「あー、そういうのいいから。この人のはただのもの好きだから。
ねえ、何で桃に乗って来たの?何しに来たの?あの木彫りの熊は何?」
りーさが畳みかける。
「まあおまえ、そんなに一度に聞かなくても。金時豆太郎さん、どうやらお侍さんのようだが」
金時豆太郎がさらに居住まいを正して、話し出そうとすると
「今時どこの国に侍なんかいるのよ。あ、もしかして、あんた桃の前に、どこぞの冷蔵庫に入らなかった?」
りーさは以前流れついた、流浪する哲学人のレモン太郎、通称アキラを思い出していた。
アキラは冷蔵庫を開けたとたんに、光に包まれ、桃に乗ってここに流れ着いたと言っていたからだ。
今はどのあたりを流れているのだろう。
悩みからは、解放されただろうか・・・まあ、それはいいとして。
「おお、奥方、ご明察です!
私は坂田藩が所有の氷室に、ある夜、酩酊して迷い込んでしまったようなのです。
しかし桃がゴツゴツ転がるので、すっかり酔いが覚めました。
それにしても、どうして私も熊もあんなに小さくなっていたんでしょう」
それはこっちのセリフだわ!とばかりにりーさは思いっきりかぶせて、
「なんでまたそんな酔っぱらってうろついていたんだか」
と言いながら、朝ご飯の支度に立った。
金時豆太郎は、はっと我に返り
「そうだ、私は殿様の命を受け、鬼退治に向かうんでした!
その景気づけの前祝いに、お酒を飲んだのだった。
鬼は「酒呑童子」という、京で悪さを働くならず者なのです。
もしかして、そのお酒に何か仕込まれていたのかも。
酒に呪いをかけるなど、やつには朝飯前だ!」
「京?京都ってこと?
そりゃあまた、えらい遠くまで流れて来たんじゃないの。
だいぶ戻らないといけないわよ」
「戻るといっても、どちらにどう戻ればいいんだかわかりませんが」
金時豆太郎もりーさも五郎も、腕組みして考え込んでしまった。
「そうだ、あの木彫りの熊!
行き先はあれが知ってるんじゃないの?
そういえば、あの熊をどこに置いたかしら」
りーさは隅っこや棚の上に目を走らせたが見つからない。
外に置いたかもと戸を開けるなり、声を呑んで、そーっと戸を閉めた。
「熊も、熊も大きくなってる!」
「おおう、熊も解凍されたのだな」
また世迷言を言っている五郎を尻目に、りーさは窓の隙間から外を窺った。
「大丈夫です。あの熊は、昔、相撲の相手をしてくれた私の幼馴染なのです。
私が指図しなければ、むやみには襲わないでしょう。
待ってくれているようだ。
あいつがいれば、酒呑童子も恐れるに足りません」
金時豆太郎は、りーさに頼んで大きな握り飯を作ってもらい、熊にまたがって意気揚々と出て行った。
方角は、まあ、熊が知っているのだろう。
「それにしても、世の中にはどれだけ鬼がいるんだろう。
この分だと、また何か流れて来るかもねぇ」
「しかし噂は聞いても、私たちはまだ一度も鬼に出会ったことがないな」
りーさと五郎は、熊にまたがり遠ざかる金時豆太郎を見送りながら、
「シーツいっちょで行っちゃったよ」
「サイズの合う着物もないし、仕方ないさ」
と言いながら手を振った。
おしまい
ああ、またくだらないものを書いちまった。
(byバク衛門)
*
先日、コッシ―さんの5周年noteで、金太郎企画がまぼろしのうちに消えてしまったのですが、私の頭の中ではもう金太郎さんが動き始めていまして、その話で頭がいっぱいになってしまって寝ても覚めても金太郎だったので、書いてしまいました。
また、しょーもないものなのですが、どうも、りーさと五郎のどんぶらこシリーズが増えて、楽しいです。
ただ、どんぶらこの場面が書きたいんですよね、きっと。
あとは野となれ山となれ方式ですいません<(_ _)>
どんぶらこシリーズは自分でも初耳ですが、流れてきたらまた書きたくなるんでしょうね。
読んでいただいて、ありがとうございました。
