【オリジナル短編小説】思いやり
今日は午後から雨になるだろう
そんなどんよりとした朝だった
何もない平和な1日になるはずだった
揺れる満員の朝の通勤電車の中で
スマホの2ちゃんねるを眺めて立つ
1人の男の姿があった
会社に行き、なんとなく
仕事をしてまた同じように電車に乗り
帰宅する
よくあるサラリーマンの姿だった
彼はその日も仕事を終え
帰りの電車に乗り込んだ
東京の人混みにまじりながら
家路を急いだ
今日は家に新作のゲーム機が届く
彼にとって唯一の楽しみである
ゲームが待っている
いつも仕事が終わり
ぐったりしている彼だったが
今日は違う
どれだけ満員でも
立ちっぱなしでも
なんとも思わなかった
降りる駅が近づく
いつも以上に混む電車
そんなきつい状況でさえ
彼はゲームをするための
1つの試練だと、楽しんでいた
電車はあっという間に最寄り駅に着いた
電車の奥の方までおいやられていた彼は
「すいません、おります」とカバンを
抱えながら降りようとした
しかし、誰もその道を開けようとしない
「おります」の声が聞こえないほどに
イヤホンで音楽を聞き自分の世界に入り込んでいた
無情にも鳴り響く
ドアが閉まる前のベル
彼は大声で叫んだ
「どいてください!降ります!!」
必死の思いでドアの近くまで進んだ
しかし、そんな彼のことを
なんとも思わないように
ドアはゆっくりと閉まっていった
なんで今日に限って・・・
自分の家が遠くなっていく
窓からその景色を眺めながら
ふと、言葉が漏れた
「やっぱ今日は雨だったんだ・・・」
次の日、雨は上がり
快晴となった
ニュースでは今日は
35度まで上がり、非常に熱いから
熱中症に気をつけてくださいと
注意を促していた
いつもなら、このあと
占いのコーナーに行くのだが
今日は違った
スタジオに戻った
アナウンサーが口を開く
「先ほど、電車内で無差別な殺人事件が発生しました」
「犯人は20代のサラリーマンで、犯行動機は不明」
その場に居合わせた人によると
犯人は、「降ります どいてください」とつぶやきながら
持っていた刃物で次々と切りつけていったという
彼の家のポストには
不在票がヒラヒラと風に揺れていた
fin
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