『介護保険と人権:これからの介護保障のために』加藤薗子編著.1999
9章「福祉事務所と地域ケアシステム――京都市の福祉事務所の実践を中心に」のみ。
1 介護保険と人権 13-41
加藤 薗子/著
2 介護保険と医療現場 42-60
片岡 靖子/著
3 介護保険と社会福祉施設 61-81
手島 敏樹/著
4 利用者と共感できる福祉労働 82-103
有田 和生/著
5 介護保険とケアマネジメント 104-128
安井 豊子/著
6 介護保険と権利擁護 129-153
大谷 悟/著
7 総合的な生活保障と地域ネットワークの確立 154-174
植田 章/著
8 介護保険時代の社会福祉協議会 175-195
余根田 保/著
9 福祉事務所と地域ケアシステム――京都市の福祉事務所の実践を中心に196-221 仁科 慎二/著
1、福祉事務所が果たしてきた役割
福祉事務所は、社会福祉事業法を根拠法令に福祉に関する事務所として、条例で定められた福祉地区に設置され、生活保護法、児童福祉法、身体障碍者福祉法、母子福祉法、知的障害者福祉法(1998年4月改正)、老人福祉法のいわゆる福祉六法に定める援護、育成又は更生の措置に関する事務をつかさどる所であると規定されています。
京都市の福祉事務所では1970年代を節目として、京都市職員労働組合民生支部(以下「市職労民生支部」)の「住民の健康と福祉を守る闘い」の方針を決定。地方自治体の民主化、国政革新、国民生活防衛を闘争の一環としてとらえ、
保育所の増設運動
老人・乳幼児の医療費の無料化
義務教育費の保護者負担の軽減の運動や
障害児者の団体
患者同盟
生活と健康を守る会
建築労働者
医療労働者
地域婦人団体などの地域運動との連携や
日社労組
私保労
障全協の活動や
地方自治研究
公的扶助研究
公務労働論(自治体学校)
社会福祉労働論(大学の研究者)
などの分野との連携を強め、「地域住民から期待されている福祉事務所」のあり方について問題点と改革の方向を導き出し、『福祉事務所の現状と問題点――その改革の方向』(俗称「赤パンフ」1976年1月、自治労京都市職員労働組合民生支部)を市職労民生支部運動の柱としました。
ここでは「住民に開かれた福祉問題解決のよりどころ」としての福祉事務所の真価を問い直しています。「
福祉事務所における労働が真に住民のための福祉=権利としての社会福祉のための労働とするのか? 政府の安上がり福祉による住民支配のための労働とするのか?
」「
住民福祉のための施策が福祉事務所に集中することによる福祉労働の中身の変質、とりわけ『福祉財務処理事務所化』した実態と機関委任事務として政府の中央集権的統制のもとになされている福祉事務所での社会福祉行政を、自治体として住民の福祉問題解決に心に役立てることができるのかどうか?
」つまり、福祉事務所変革の闘いであるとの認識から出発しました。変革の骨子は、
(1)福祉行政が明確に市民の権利を具体的に守り保証する立場を明らかにし、民主市政のもとにおける福祉行政の基本的な姿勢および方針を確立させること。
(2)政策主体の低福祉政策と対決する姿勢を具体的に貫徹させること。
(3)福祉六法的な福祉制度やタテ割行政によって分断されている社会福祉行財政を、地域住民の生活、福祉要求の構造的性質に対応させ、相互に有機的な関連性、体系性を回復させること。
(4)地域住民の階層性を的確に把握し、もっとも低位におかれ、全体の生活水準を引き下げるテコにされている最底辺部分の底上げをはかることを基礎に、地域住民の具体的な生活の実態と要求に適切に対応したものとしてすすめねばならないこと。
(5)福祉行政の担い手は単に権力的な行政の執行者ではなく、日常的にy特設住民と接し、住民の生活実態や要求を最もよく把握し、必要なサービスを提供する立場にいるだけに、福祉労働者は行政の民主化推進のため民主市政のもとにおける課題と任務について自由に討論し、実践できる「職場づくり」を行うとともに、当局としてもその責任において市民本位の姿勢実現のため、量とともに一定の質的水準をもつ職員をつくりあげる「素養」と「研修」を行う必要があること。
この基本的な課題のもとで、福祉事務所が住民のいのちと暮らしを護るとりでにふさわしい福祉の第一線機関たる役割・指名を果たすための「広報」「相談」「実施」「検証」「把握」の5つの機能およびその内容を提示してきました。(後掲資料参照)
これらの機能を福祉事務所に定着させるためには、
①福祉事務所を真に民主的な自治体の福祉行政の第一線機関として変革させ
②福祉を本当に住民自身のものにし
③福祉事務所を真に住民に開かれた福祉問題・生活問題のよりどころとし
④福祉事務所の労働者が民主的な自治体にふさわしい福祉労働者になる
との理想を掲げました。これらは、23年を経て地方自治行政の姿勢が変節した今の時点でも、否、今だからこそ、福祉事務所とこれにかかわる福祉労働の基盤を提起していると考えられます。
・・・
2、福祉事務所と地域ケアシステムづくり
(1)高齢者やその家族、地域がかかえる生活問題そのものが明らかに
・・・
1992年(平成4年度)から高齢者サービス総合調整推進事業の実施体制を、市内13福祉区の福祉事務所ごとに整備してきた京都市における事業の特徴は
各行政区における小学校区に地域福祉調整チームを配し
福祉事務所、民生児童委員、老人福祉員、その他学区社会福祉協議会などの関係者による地区内要援護老人へのサービス供給や、生活支援、安否確認などの調整を目標としたところにありました。
しかし、現実的には要援護老人台帳の地区内一覧表の作成が第一目的とされ、地域内の要援護老人の「必要な人に、必要なサービスが保障できる」チーム運営には至りませんでした。さらに、そのコーディネーターとなる福祉事務所の職員体制が未整備のままであり、在宅介護支援センターとの連携の問題なども含め、各行政区三学区設置にとどまっていました。
当時、民生局が「福祉事務所の緊急課題と改革の方向について」具体化しようとした方向とは、
(1)福祉事務所が地域福祉のネットワークづくりの中核的な担い手となり、企画・推進すること。
(2)従来の福祉5法の単法担当制を改め、五法総合担当・地区担当制を導入し、ネットワークづくりを支援し参画すること。
(3)福祉総合相談窓口を設置し、福祉事務所の相談機能を高めること。
等でした。しかし当時は体制が整備されず、五法総合担当・地区担当制は三法・二法(身体障害者福祉、高齢者福祉、知的障害福祉の三法担当と児童福祉、母子福祉の二法担当)ケースワーカーが日替りローテーションを組み、かろうじて来所相談に対応しているのが実態でした。
この不十分な窓口で、地域における高齢者の保健・医療・福祉をめぐる現状をどうとらえるかが問題でした。「地域福祉」や「在宅福祉」という場合の「地域」や「在宅」をどうとらえるのかが、まず明確にならなければなりません。核家族化の深刻な進展のなかで、孤立していても地域に暮らしている高齢者本人の想いや周囲の想いはどうなのか。ゴールドプランや保健福祉計画が本当に地域の、あるいは在宅のニーズをふまえたものになっているのかどうか。サービスメニューは増やしたが、その質と量はどうか。サービスメニューの選択権は、高齢者や家族の側にあるのかどうか。その他、高齢や障害をともなって生活する本人と家族、地域がかかえているさまざまな問題が提起されてました。サービスメニューを増やし、並べ立てているだけでは解決できない、まさに高齢者やその家族、地域がかかえる生活問題そのものの実態が鮮明になりました。
(2)行き届いた相談と援助・支援の重視
そこで、福祉事務所が地域の高齢者、介護家族の生活問題のよりどころとして、その入り口での保健・医療・福祉ニーズを総合的に実現するためには、まず行き届いた相談と援助・支援を重視することが求められます。具体的には、以下のような点について問い直していく必要がありました。
(1)福祉事務所がその本来的機能の1つである「行き届いた相談」により、生活問題を生のまま総合的に受けとめ、ケースワークし、住民とともに生活問題の解決に向かうという基本的役割。
(2)福祉事務所で「できる相談」「できるサービス給付」のみ受けとめ、その事務処理に忙殺されていたのではないか。このため、生活問題全体のなかで「なすべき相談」「なすべきサービス給付」を見出すことができず、結果としてサービス給付全体を制限的・抑制的に対処してはいないか。
(3)相談やサービス給付が他機関や家族、近隣資源へタライ回し、振り回しがなされていないか。
(4)本人・家族の収入の有無・多少や家族や地域の意識、手持ちサービスの絶対的不足を理由にサービスを値切っていないか。
(5)福祉事務所総体として、福祉六法関係を総合して高齢者や障害者の生活問題をうけとめ、援助方針をたて、解決をめざす全所内体制がとれているかどうか。特に生活保護法をはじめ他法・他施策の活用による所内連携、ケース情報の所内共有ができているかどうか。
これらは、福祉事務所が政策的にその機能を低下させられているという受動的な立場から、さまざまな生活問題をかかえた住民とともに福祉事務所の機能を本来的な姿に変革するという能動的な立場への転換であり、古くて新しい今日的使命です。
(3)在宅介護支援センターをどう位置づけたか
在宅介護支援センターは、在宅介護に関する総合的な相談に応じ、在宅の要援護老人およびその介護者の介護等に関するニーズに対応した各種の保健、福祉サービスが総合的に受けられるように、市町村等行政関係機関、サービス実施機関等との連絡調整の便宜を供与し、もって地域の要援助老人およびその家族の福祉の向上を図ることを目的としています。しかも、相談業務については、24時間対応ができることとしています。
福祉事務所(特に大都市における)の現状の機能から考えれば、地域住民の身近なところで、
①相談窓口が増える
②公的保険福祉サービスの利用申請手続の受付、便宜が図られる
③支援センター職員の訪問等により在宅介護の方法等について指導、助言がうけられる
といった積極的な側面が評価されます。しかし、これらは福祉事務所が本来為すべき基本的な機能にほかなりません。しかも支援センターは、病院・老人保健施設・老人ホーム等、設置母体の経営利益に左右される宿命を背負っています。
当時、福祉事務所のケースワーカー等は、支援センターからの申請や手続きの受付、代行等、公的保険福祉サービスの適用事務(世帯状況・所得状況の確認、費用徴収等)に忙殺され、福祉事務所が「サービス給付事務所」化してしまうという福祉事務所関係者の危機感をあおる状況になっていました。他方、待ったなしの課題を抱える管内の高齢者とその介護家族については、責任をもって対応できる職員とその体制整備ができれば、支援センター職員2名の人件費委託(委託経費のほとんどが人件費)で24時間体制(病いにゃ特別養護老人ホーム等の職員兼務)という不十分さや、人減らし合理化の非難は免れるべきかもしれません。保健婦や看護婦が職員として役割を担う点については、現状の高齢者・家族の保健、医療、福祉ニーズを総合的にとらえ解決する立場からは、福祉事務所機能のみでは果しえない大きな利点がありました。
S福祉事務所では前史に先がけて、福祉事務所が基本的に高齢者やその介護家族に果たすべき「行き届いた相談と援護、支援、ケースワーク等」の機能を確立することを前提に、支援センターは激増する高齢者の生活問題を地域のより身近なところで受けとめ、問題解決に向けて福祉事務所とともに協力・共同するブランチとしての位置づけを認識し、統括課である京都市高齢福祉課の認知を得て、独自に支援センターと福祉事務所との相互連携のルールづくりを行いました。支援センターの存在と役割、利用方法等、地域住民に徹底・浸透を図ること。福祉事務所業務との主体的、創造的な連携をめざすこと。地域在宅高齢者サービスネットワークネット体制を確立させるため、その機能を重視すること。以上を、福祉事務所との連携・ブランチ関係の基本としました。
具体的には、
①週2回(反日単位)福祉事務所において、京都市在宅介護支援センターを標ぼうする「在宅介護支援相談」窓口を開設する(支援センターの看護婦、保健婦、ケースワーカーが交替で相談窓口に駐在)
②ケース情報の共有と帳票類を整合、統一する
③保健福祉サービスの供給についてのネットワークづくりについて、相互調整を推進する
④対象ケースの福祉事務所職員との同行訪問を通じて、ケースワーク機能を強め、協業を推進する
⑤連携した日常生活を取り組むなかで、利用者、家族のプライバシーと自己決定権、尊厳を守る
以上のように、福祉事務所が本来の機能を発揮でき、支援センターが安上がり・合理化のセンターとしてではなく、地域住民の保健、医療、福祉サービスを総合的に実現しようとする地域の拠点としての役割を果たそうとするものでした。
3、在宅高齢者の地域ケアシステムづくり
(1)高齢者とその家族がかかえる生活問題
地域における高齢者の生活問題は、高齢者人口の増加とともに年々深刻化してきました。高齢者サービス総合調整推進事業が始まるとともに、ゴールドプランに基づき遅ればせながら設置されたデイサービスセンターや、在宅介護支援センター、訪問看護ステーションが開設され、在宅サービスを担う機関が増えました。さらに、京都福祉サービス協会(京都市がホームヘルプサービス事業を実施委託している社会福祉法人)の登録ヘルパーの大幅な増員と、コーディネーター、チーフヘルパーの増員等、体制の強化がすすめられました。
しかし、健康・福祉問題等を多面的に抱えている高齢者については、保健・医療・福祉のサービスが「総合化」されなければ、問題の解決・緩和に役立つ生きたサービスにはなりません。今日の高齢者に対するサービスは、その供給が多元化しており、問題の解決をより困難にしています。深刻な場合には、問題をこじらせることにすらなりかねません。そこで、高齢者サービス総合調整が必要になります。
当事者である高齢者自身は、問題解決のために自ら動くことができない状況にある場合が多く、高齢者の生活問題解決のためには、その高齢者にかかわっている者や機関が問題を発見し、必要なサービスを確保するための活動を行うことが重要です。例えば、福祉事務所は経済問題と生活介助だけ、医療は治療対象の(医療費の保険請求ができる)病気だけという視点からではなく、生活問題を総合的に把握する視点から、それぞれの持ち場の日常活動において、保健・医療・福祉の総合保障を追求することが切実に求められています。こうした共通の視点を作り上げていくためにも、高齢者サービス総合調整の推進が急務となってきました。
(2)S区における地域ケアシステムづくりの経験
1991年、S区医師会の地域医療委員会と福祉事務所との間で、地域医療、在宅ケアをテーマに「同じ心と同じレベルでフランクな協議の場をもとう」との合意の下、毎月1回の会合を重ね、お互いの悩みや課題を出しあいました。92年からは保健所も加わり、保健・医療・福祉協議会が月例で確立されました(高齢者サービス総合調整推進事業行政チームとして位置づけ)。
この定例協議のなかで、在宅ケアを実際に担う保健・医療・福祉にかかわる実務担当者による在宅高齢者・家族のケース、症例検討の場も必要ということになり、高齢者サービス総合調整推進協議会の承認を得て「在宅高齢者地域ケア連絡協議会」が発足しました。この回も月例で実施継続されてきました。S区医師会(在宅医療委員会)、保健所(保健婦、訪問指導員)、保健年金課保健婦(僻地診療)、福祉事務所(ケースワーカー、査察指導員)、在宅介護支援センター(看護婦、ケースワーカー)、訪問看護ナースステーション(看護婦)、デイサービスセンター(指導員、寮母)、老人保健施設(医師、看護婦)、京都福祉サービス協会(地区担当主任、コーディネーター、チーフヘルパー)、社会福祉協議会S地区他のつしゃ、地域医療機関(MSW)等を構成メンバーに、毎回15~20名の参加者で実施されました。
地域福祉調整チームについては、管内の3つの小学校区に設置し、学区内の要援護老人台帳の整備だけでなく、「在宅高齢者地域ケア連絡協議会」の学区単位の組織として機能できるよう、できるだけ地域の民生委員や老人福祉員の主体的な活動となるような運営が心がけられました。
こうした在宅高齢者の地域ケアネットワークづくりに並行して、介護支援センターと福祉事務所および保健、医療、福祉関連機関との関係をよりよいものとするため、前述した在宅介護支援相談窓口(在宅高齢者介護の専門的相談活動)が2か所の介護支援センター職員の福祉事務所駐在により開設されました。
さらに、在宅サービス3本柱のホームヘルプサービス事業の推進について、受託法人である京都福祉サービス協会と福祉事務所との実務者を中心にした、ケース連携、症例検討の定例会議が常設されました。
事務実務の分野では、複数法担当制に基づく福祉事務所の体制の現状で、住民に対する窓口相談機能を重視する立場から、担当ケースワーカーが必ず1名が交代で窓口相談に就き、相談受付票を整備し、在宅高齢者・家族の相談ニーズが漏れなく地区担当ケースワーカーに伝えられ、在宅支援サービスに結びつけられるようになりました。また、相談受付票は、他法他施策活用と所内の連携した取り組みを図るため、所内の各係供覧となりました。要援護老人台帳の個票の整備方式も、小学校区単位の学区別、町名別のコート番号制とし、検索簿と一覧表の作成により小学校区単位での高齢者の生活実態把握が容易になるように改善されました。
以上のような地域の高齢者と介護者・家族が、抱えている生活問題を総合的に解決する道筋は、「在宅高齢者地域ケア連絡協議会」を基軸にし、保健・医療・福祉にかかわる実務担当者によるサービスネットワーク体制の確立に力を注ぐなかから生まれてきました。これを京都府医師会や保険医協会が「S区方式」と呼び、地域医療と保健・福祉をつなぐ新たな実践として評価されてきたものです。館内高齢者の症例検討の蓄積のもとで、高齢者の生活問題の解決について、立場や専門性の枠組みをこえた共通の基盤
「地域住民としての権利と尊厳を守る」
「高齢者本人の自己決定権の保障」
「高齢者本人・家族のプライバシーの尊重」
「地域住民と高齢者・嘉造の連帯を強める」
「個人生活と地域における社会生活の充実」
といった具体的なイメージが、定着していったのです。
(3)地域ケアシステムづくりの到達点
「在宅高齢者地域ケア連絡協議会」の定例開催による成果として、高齢者の生活問題を解決する実務担当者のチームワーク機能の基本的なあり方が明確になりました。具体的には、
(1)各種の専門職、専門性の立場から、在宅高齢者の生活問題をアプローチすることにより、高齢者・家族のニーズが総合的に把握できるようになった
(2)在宅介護、介助、生活ケア、リハビリ等を含めた生活問題の解決がイメージできるようになり、ケースワーク、援助方針のゴール(目標)を明確にできるようになった
(3)実務担当者、関係機関等による、在宅ケアのプログラムの決定と機能役割分担ができるようになった
(4)上記に基づくサービス供給や各種の援助活動のつなぎ合わせと実践が着実に前進した
(5)高齢者・家族および地域の生活・福祉課題について、個別ケースの検証が各種の専門職・専門的実務担当者のチームワーク機能により、着実に前進した
地域福祉の第一線機関として福祉事務所が追求してきたのは、住民の福祉問題のよりどころとしての『行き届いた相談』部門でしょう。それについて現時点で総括すると、1997年度から市内13福祉区に、保健婦1名、ケースワーカー1名の常駐により「高齢者保健福祉相談窓口」が開設運営されています。福祉事務所の面接相談体制については全国に先がけて専任化を図ってきました。
『援助・支援体制』については、「福祉事務所の体制整備に関する緊急課題と改革の方向」(92年度)により、福祉五法総合担当制の当面の対応として、三法・二法(身体障害・知的障害・老人福祉の3法を1人のケースワーカーが地域ごとに担当する。また、児童・母子福祉の2法を1人のケースワーカーが地域ごとに担当する)体制を骨子とした体制整備が実施されました。これにより法に基づく充足率について、5法現業院では1978年度39%から92年度97%に、生活保護現業員では89%から100%に、それぞれ大幅に向上しています。
京都市内13福祉区それぞれをみれば、地域事情による格差はあるものの、全国の大都市圏と比較するとよりベターな体制であると言えます。『援助・支援体制』の中身やシステムが、地区担当ケースワーカーを含め保健・医療・福祉にかかわる実務担当者のチームワーク機能により推進されてきたことは、特筆すべきことでしょう。
4、福祉事務所と地域とのかかわり
「S区方式」と呼ばれた在宅高齢者の地域ケアシステムは、高齢者の生活問題・介護問題を地域の保健・医療・福祉にかかわる医師、看護婦、保健婦、ケースワーカー、ホームヘルパー(介護士)等、実務担当者が中心となってケースの典型事例を定例的に症例検討することにより、今日の高齢者の生活問題の基盤である地域の空洞化に対して、誰がどうメスを入れるのかという問いかけをシステムとして追及してきました。
地域の主人公は高齢者や障害者を含む地域住民自身です。「頼りにされなくなった」あるいは「頼れない」地域を、「頼りにされる」「頼れる」福祉的力量のある地域に造り変えるのもまた地域住民です。この意味からも、住民福祉の第一線機関であり、地域における生活問題の公的責任窓口としての福祉事務所は、その機能を問い直されています。
サービスメニューが一定増やされ、保健・医療・福祉の分野それぞれのサービスに対応する窓口が開かれました。しかし、その反面、住民一人ひとりが抱えている生活問題が、窓口やサービスによってバラバラに分断されている現状がありはしないでしょうか。高齢や障害など、多くの生活問題を抱えた住民・家族・介護者は、問題が重層化するなかで、自ら問題を整理、分析し、適切なサービス需要に結びつけることは、まず望めません。国や地方自治体における福祉の措置(費用支出を伴う公的責任)がどんどん民間委託化(第3セクター方式を含む)され、あるいはシルバー関連産業に肩代わりされつつある状況下だからこそ、住民離れがすすんでいるとされる福祉事務所の機能・役割・業務の再点検を試みるべきであり、その課題が明らかになってきているとも言えます。
「S区方式」が「Y区方式」へと広がり、それ以外の区もほぼ同様の地域の高齢者ケアに対する連携システムを推進するなかで、従来生活保護世帯とのかかわりが中心であった民生児童委員が、寝たきり高齢者世帯や一人暮らし高齢者、高齢夫婦のみの世帯、痴呆性高齢者など、地域での見守りや支援の必要な世帯について、老人福祉員や地域社会福祉協議会の福祉委員等関係者と連携し、地域での生活問題の支援を強めてきました。
S区方式の地域ケア連絡会に集う実務関係者は、公務労働の現場では法律や措置の枠組みやサービス・資源の不足によって実現できない高齢者ケアのニーズを実現するため、自らも地域に暮らす1住民の立場から、ボランティアとして地域に打ってでました。
「高齢者(障害者)の暮らしの質を高めるS区連絡協議会」(略称、SOL・S区)は学者や研究者、施設職員を巻き込み、学習と実践という両輪の活動を展開してきました。S区内の銭湯を地域高齢者に開放してデイサービスの新しいあり方を定着させ、京都市に政策提言し「高齢者いきいきデイ銭湯」をしない10か所で実現させました「QOL・Y区」もS区と同様の活動実績を積み、地域高齢者の配食サービス活動や地域診療所活動と連携したミニデイサービス、高齢者の外出を保障する「外出しましょう部会」や「痴呆性高齢者のグループホーム検討部会」など、公私サービスネットワークをはじめ地域に密着した活動を展開してきています。
こうした地域における実践活動の展開の基盤には、福祉事務所の高齢者や地域活動に対する姿勢の在り方が反映しています。特に、地域の民生委員活動の方向性に対する支援、アドバイスは、地域における福祉的力量を左右する機能として、きわめて重要な役割を果たしてきました。
5、『指導』から『支援』へ――ともに生き、ともに学ぶ
福祉事務所の基本的なスローガンである「行き届いた相談と援護」は、機関委任事務を中心業務とした「措置・給付」を宿命的にかかえていたため、「調査」や生活「指導」に陥る傾向が強くあります。「調査」は所得や世帯状況、身上中心で、高齢者や障碍者の場合せいぜいADL(日常生活活動)と生活歴止まりであり、本人や家族のかかえる悩みや生活問題の根源に到道筋の調査とはならず、そのため措置・援助を求める住民への「なぜそうなったのか」「こうするべきだ」といった「指導」が先行する傾向が強かったのです。
福祉事務所が、地域福祉の第一線機関として、地域住民に頼りにされる拠点となるためには、住民が生活問題や福祉課題をかかえて困ったときに気軽に出向いてくることができなければなりません。「行き届いた相談と援助・支援」は、その第1条件であり、どれだけ努力を傾けても行きすぎることはありません。さらん、20数年も前から提起されてきていた福祉情報の「広報・発信」も、今なお重要な条件です。住民の福祉ニーズに対応するためには、単に措置・サービスの「できる給付」のみを「待ち」の姿勢で並べ立てるのではなく、住民が求めているあらゆる福祉情報を公平・公正に発信する機能が求められています。
京都市の福祉事務所は、激増する高齢者ニーズをはじめ、生活保護保護法以外の福祉5法ニーズに対応する体制整備に努力してきました。S区方式やY区方式は、高齢者の生活問題を地域の福祉課題の重要な柱として、保健・医療・福祉関連機関、施設とその従事者が連携し、高齢者(障害者)の地域ケアシステムとして機能を発揮してきたことにいぎがあります。ここでは、従来の福祉事務所の処遇にみられた対象者「指導」スタイルから、
①地域住民の福祉ニーズを等しく受けとめる総合(専門性を付与した)窓口として
②住民自身の社会保障・福祉に関する問題意識・自己覚知を援助する窓口として
③保健・医療・福祉関連資源を切り開くインフォメーションセンター窓口として
④援助活動・援助技術、ケースワーク等のサービスの提供の窓口として
新たな住民福祉の拠点機能を展開をすすめてきました。
福祉事務所は、今や地域における生活問題・福祉問題に最も密着した機関として、相談・援助を通じて直接サービスを提供する期間的役割を担い、その業務は対象者の地域生活全般にわたっています。解決課題は「待ったなしの」緊急な対応を迫られ、担当の専門性も求められます。それらは長年、福祉事務所が生活保護法による権利規定に裏打ちされた経済給付とソーシャルワークサービス給付を併せ担ってきた「措置」業務の経過と伝統に根ざすものです。今日、福祉事務所の機能は、従事職員の果たす公務労働の現場から
①生活・福祉課題に関する住民への問題提起者・情報提供者として
②専門従事者としての技術提供者・助言者として
③関連領域の専門職や施設をつなぎ合わせるコーディネーターとしての役割
が、ますます鮮明になってきていると言えます。
6、介護保険下、どうする福祉事務所
(1)社会保障への不信を呼び起こす介護保険
(2)介護保険と福祉事務所
(3)福祉事務所機能再生の基盤は何か
