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売れない時期に「値上げ」した話

閑散期の売上に悩むことはないですか?

売れない時期には、価格を下げる。

需要が弱いなら、安くして買いやすくする。購入者が増えれば、売上も伸びる。

とても自然な判断です。

しかし私は以前、ある事業会社で、これとは正反対の施策を実行しました。

閑散期の商品を値上げしたのです。

その結果、対象商品の売上は前年比146%。およそ1.5倍まで伸びました。

これは、思い切って値上げしたら偶然うまくいった、という話ではありません。

消費者調査と実際の購買データを使い、顧客がどの価格で離れ、価格が変わるとどの商品へ移動するのかを確認しました。そのうえで、客数を守る商品と、単価を引き上げる商品を分けて価格を設計した結果です。

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【売れない時期は、安くするのが当たり前だった】

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当時、特定の時期における売上の低迷が、長年の課題になっていました。

繁忙期と比べて利用者が少なく、商品が売れにくい。

そのため社内では、

「売れない時期は価格を安くする」

という考え方が定着していました。

安い商品を用意すれば、価格を理由に購入を迷っている人が買ってくれる。利用者が増え、売上も伸びる。

一見すると合理的です。

しかし、実際には価格を安くしても、期待したほど購入者は増えていませんでした。

商品は安くなっている。それでも購入者数は大きく増えない。

結果として、利用者が少ないだけでなく、購入者一人当たりの単価まで低い状態になっていました。

そこで私は、施策ではなく、その前提を疑いました。

本当に顧客は、価格が安いから閑散期の商品を選んでいるのだろうか。

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【価格が変えていたのは、利用時期ではなかった】

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値下げには、暗黙の前提があります。

価格を安くすることで、

「繁忙期に利用する予定だった人が、閑散期へ移動する」

あるいは、

「利用する予定がなかった人が、新たに商品を購入する」

という行動変化が起きるという前提です。

しかし、販売データを確認すると、違う構造が見えてきました。

顧客は、価格が安いから閑散期を選んでいたわけではありません。

仕事や家庭の予定、同行者との都合、その時期に提供される内容など、価格以外の要因によって、先に利用する時期を決めていました。

そのうえで、閑散期に利用すると決めた人が、その時期に設定された安い商品を購入していたのです。

つまり、価格を下げても、利用時期は大きく変わらない。

起きていたのは新しい需要の創出ではなく、もともと購入する予定だった顧客の購入単価が下がることでした。

値下げによって利用者が増えたのではなく、同じ顧客に必要以上に安い価格で販売していた可能性が高かったのです。

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【消費者調査で、客数が減り始める価格を確認した】

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とはいえ、「安くし過ぎているように見える」という感覚だけで値上げはできません。

価格を上げれば、本当に顧客が離れる可能性があります。

そこで、まず消費者調査を行い、価格を段階的に提示しながら、購入意向がどのように変化するかを確認しました。

知りたかったのは、最も高く売れる価格ではありません。

どこを超えると、購入者数が明確に減り始めるのか。

つまり、客数を守れる価格の上限です。

調査の結果、価格を多少引き上げても購入意向が大きく変わらない範囲と、ある水準を超えたところから購入を控える人が増える境目が見えてきました。

この境目を、値上げの上限を決める基準にしました。

ただし、調査で「買う」と答えた人が実際に買うとは限りません。そこで、アンケートだけで結論を出さず、実際の購買行動も確認しました。

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【同じ顧客が、安い時期には低グレードへ移っていた】

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価格が高い時期と低い時期で、同一顧客がどの商品を選んでいるかを比較しました。

すると、価格が低い時期には、普段はグレードの高い商品を購入している顧客まで、グレードの低い商品へ移行していることが観察されました。

顧客が安い時期だから新しく利用していたのではありません。

もともと利用する顧客が、価格設定に合わせて安い商品へ流れていたのです。

会社側から見ると、複数の価格帯を用意して顧客の選択肢を増やしているように見えます。

しかし実際には、必要以上に安い商品が、より高い価格でも購入する顧客を吸収していました。

これは、新しい需要を生み出す値下げではありません。

自社商品の中で、高単価商品から低単価商品への移動を起こす値下げです。

この分析によって、単純に全商品を同じ割合で値上げするのではなく、商品グレードごとに役割を分けるべきだと考えました。

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【客数を守る商品と、単価を上げる商品を分けた】

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最もグレードの低い商品は、価格に敏感な顧客の受け皿です。

この商品の価格を大きく上げ過ぎると、購入を諦める顧客が増え、全体の客数が減る可能性があります。

そこで、最もグレードの低い商品の値上げ幅は、消費者調査で確認した「客数が減り始める価格の閾値」までに抑えました。

最低価格の商品は残す。

ただし、必要以上には安くしない。

一方、グレードの高い商品は、価格が低い時期に低グレード商品へ流れていた顧客を、本来選んでいた価格帯へ戻すことを狙い、より大きく値上げしました。

この設計のポイントは、すべての商品から均等に利益を取ろうとしなかったことです。

低グレード商品には、客数を守る役割を持たせる。

高グレード商品には、顧客が感じている価値に応じた価格を設定し、客単価を引き上げる役割を持たせる。

価格表全体を、一つのポートフォリオとして設計しました。

そのため、顧客には引き続き購入しやすい選択肢が残ります。

一方で、より高い価値を求める顧客まで、過度に安い商品へ流れる状態は解消できます。

狙ったのは、値上げによって客数を犠牲にすることではありません。

客数を維持したまま、商品の選ばれ方を適正化し、客単価だけを引き上げることでした。

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【値下げで増えた売上は、本当に増分なのか】

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この考え方は、アレンバーグ・バス研究所の価格プロモーション研究とも整合します。

John Dawesが英国と米国の18の消費財カテゴリーを分析した研究では、価格プロモーションで購入した人の平均77%が、直近5回のカテゴリー購入ですでにそのブランドを購入していました。

つまり、値下げで獲得したように見える販売の多くには、通常価格でも購入した可能性のある既存顧客の購入が含まれています。

「Price promotions: examining the buyer mix and subsequent changes in purchase loyalty」

https://doi.org/10.1108/JCM-03-2017-2134

また、別の研究では、大規模な値下げで販売量が一時的に大きく増えても、ブランドの長期的な販売量への明確なプラス効果は確認されず、その後の反動減も観察されました。

値下げによって新しい需要を生んだのではなく、将来の購入を前倒ししたり、通常価格でも買う顧客へ値引きしたりした可能性があります。

「Assessing the impact of a very successful price promotion on brand, category and competitor sales」

https://doi.org/10.1108/10610420410554395

もちろん、これらは主に消費財の一時的な価格プロモーションを対象にした研究であり、今回の事例と条件は同一ではありません。

それでも、

「値下げによる販売は、本当に新しい需要なのか」

「通常価格でも買う人の単価を下げているだけではないか」

を確認すべきだという点は共通しています。

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【値下げは、二重に利益を圧迫する】

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値下げには、もう一つ見落とされやすい怖さがあります。

価格を下げただけでは、顧客に伝わらないことです。

値下げによって購入者を増やすには、

「安くなりました」

「今ならお得です」

と広く伝える必要があります。

広告を出す。メールを送る。キャンペーンページや販促物を作る。

つまり、値下げには二つの負担があります。

一つ目は、販売単価が下がること。

二つ目は、値下げを知らせるための広告費や販促費が増えることです。

たとえば、1万円の商品を8,000円に値下げした場合、同じ売上を維持するだけでも販売数を25%増やす必要があります。

その25%を獲得するために広告費まで追加すれば、利益を維持するために必要な販売数はさらに増えます。

値下げは、単価を下げ、減少した粗利と追加販促費を上回るほど販売数を増やして、初めて成立する施策です。

一方、安く売り過ぎていた商品を適正価格へ戻す場合、新しい商品も、大規模な広告も必要ありません。

販売数への影響を抑えられれば、単価の上昇分が追加コストをほとんど伴わずに売上へ反映されます。

原価や運営コストが大きく変わらなければ、その多くは利益として残ります。

値上げの最大の価値は、追加コストを抑えたまま、売上と利益を同時に改善できることです。

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【結果は、客数を減らさず売上146%】

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価格変更後、懸念されていたような購入者数の減少は起こりませんでした。

最低価格帯の商品を、顧客が離れ始める閾値以下に抑えたことで、価格に敏感な顧客の選択肢を残せたからです。

一方で、グレードの高い商品の価格を大きく見直したことで、安い商品への過度な移行が減り、平均単価は上昇しました。

その結果、客数を減らすことなく、対象商品の売上は前年比146%。

およそ1.5倍になりました。

しかも、売上を増やすために大規模な広告投資を追加したわけではありません。

すでに存在していた需要に対して、顧客が許容できる価格と実際の購買行動をもとに、価格体系を適正化した結果です。

成功した理由は、売れない時期に逆張りで値上げしたからではありません。

・消費者調査で、客数が減り始める価格を確認する
・同一顧客の購買行動から、商品間の移動を確認する
・低グレード商品で客数を守る
・高グレード商品で客単価を引き上げる

という順番で、価格が顧客行動に与える影響を分解したからです。

値下げが正しい市場もあります。

しかし、売れない理由が価格ではないなら、値下げしても問題は解決しません。

むしろ、通常価格でも買う顧客の単価を下げ、値下げを伝える広告費まで増やし、二重に利益を圧迫します。

価格戦略とは、安くするか、高くするかを決めることではありません。

どの商品で客数を守り、どの商品で利益をつくるかを設計することです。

閑散期に値上げして売上を1.5倍にできたのは、値上げする勇気があったからではありません。

調査と購買データを使い、顧客を減らさずに単価を上げられる境界を見つけたからです。

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【増えた利益は、さらなる顧客価値に使う】

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ここまで値上げの優れた点を書いてきましたが、値上げによって利益を増やすこと自体が、最終的な目的ではありません。

企業が価格を引き上げれば、顧客はそれまでより多くのお金を支払うことになります。

だからこそ、増えた利益は企業の中にため込むだけではなく、顧客へさらなる価値を提供するために使うべきだと考えています。

商品やサービスの品質を高める。

利用時の不便を減らす。

設備やシステムを改善する。

従業員がより良いサービスを提供できる環境を整える。

新しい商品や体験を開発する。


適正な価格によって利益を確保できれば、こうした改善へ継続的に投資できます。

反対に、必要以上の安売りを続ければ、短期的には顧客に喜ばれているように見えても、企業には価値を改善する余力が残りません。

利益が出なければ、品質を維持するための人材や設備に投資できない。サービスの改善も止まり、最終的には顧客が受け取る価値まで低下していきます。

安さを維持することが、必ずしも顧客のためになるとは限らないのです。

適正な価格を設定する。

そこで得た利益を、商品や顧客体験の改善へ投資する。

提供する価値が高まることで、その価格に対する納得感も高まる。

この循環をつくることができれば、値上げは企業が利益を得るだけの施策ではなく、企業と顧客の双方にとって持続可能な成長の起点になります。

価格とは、企業が受け取る金額であると同時に、次の顧客価値を生み出すための原資でもあります。

値上げによって増えた利益は、さらなる価値として消費者へ返していく。

そこまで設計して、初めて値上げは長期的な価格戦略になるのだと思います。


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