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優れたブランドはなぜ優れているのか?を改めて考えてみる

石井賢介さんのnote「【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」を、初めて読んだときから何年かが経った。

この記事は、マーケティングを広告やSNS運用ではなく、経営全体に関わるものとして理解するうえで、非常に優れた教科書だと思っている。


一方で、実際にマーケティング戦略を立て、売上を伸ばす仕事を経験し、その後もブランド成長に関する研究を学んでいく中で、


「ここは実務でもその通りだった」


と感じる部分と、


「実際の市場では、もう一つ考える必要がある」


と感じる部分が出てきた。


そこで今回から、全8章を一章ずつ取り上げながら、実務を経て実感したことと、現在は少し違う見方をしていることを書いていきたい。


元記事を批判するためのシリーズではない。


優れた思考の基本型に、実務経験とその後に学んだ知識を重ねることで、もう一段具体的なマーケティングの話にしたいと思っている。


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【優れたブランドはJobを解決している】


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元記事の第1章では、優れたブランドに共通する秘密として、次の考え方が紹介されている。


優れたブランドは、顧客のJob、つまり「片付けるべき仕事」を解決している。


顧客がドリルを買うのは、ドリルそのものが欲しいからではない。


壁に穴を開けたいからである。


会社員が昼休みに牛丼を食べるのも、牛丼という商品が欲しいというより、


「短い時間と限られた予算で空腹を満たしたい」


というJobを解決するためだ。


この考え方は、実務でも非常に重要だった。


商品の機能や、自社が作りたいものから考えるのではなく、


「顧客は、どのような状況を変えるために商品を買うのか」


から考えることで、商品開発やコミュニケーションの方向が大きく変わる。


また、マーケティングは広告や販促だけではなく、Jobの発見から製品開発、価格、流通、コミュニケーションまでを含むという主張にも強く同意している。


SNSマーケティングやWebマーケティングは、マーケティング全体の中のHOWにすぎない。


売るものや売る相手が間違っていれば、HOWだけを最適化しても事業は大きくならない。


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【しかし、Jobを解決するだけでは売れない】


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一方で、実務を経験するほど、


「Jobを解決していることだけで、優れたブランドとそうでないブランドの差を説明できるだろうか」


という疑問を持つようになった。


例えば、多くの洗濯洗剤は、


「衣類の汚れを落としたい」


というJobを解決している。


多くの飲食店は、


「空腹を満たしたい」


というJobを解決している。


コンビニ、牛丼店、立ち食いそば、ファストフードも、それぞれ一定の水準で顧客のJobを解決している。


それでも、売上や市場シェアには大きな差が生まれる。


つまり、Jobの解決は、ブランドが市場に存在するための必要条件ではあっても、売れるための十分条件ではない。


良い商品を作ることと、その商品が実際に買われることの間には、まだ二つの壁がある。


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【思い出されるか。買えるか】


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優れたブランドとそうでないブランドを分けるもの。


私は現在、その中心にあるのは、


メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ


だと考えている。


メンタルアベイラビリティとは、商品を買う場面で、そのブランドが思い出され、認識されやすい状態である。


フィジカルアベイラビリティとは、欲しいと思ったときに、容易に見つけられ、購入できる状態である。


どれほど優れたJobを解決していても、買う瞬間に思い出されなければ選択肢に入らない。


思い出されたとしても、近くの店舗に置いていなかったり、欲しい容量や価格の商品がなかったりすれば買われない。


ブランド成長研究においても、ブランドが成長するためには、メンタルとフィジカルの両方のアベイラビリティが必要だと整理されている。


カテゴリーエントリーポイント、つまりカテゴリーの購入を考え始める状況やきっかけは、メンタルアベイラビリティを構成する重要な要素である。


Jobが「顧客が解決したい問題」だとすれば、


CEPは「顧客がそのカテゴリーを思い出す瞬間」


と考えると分かりやすい。


優れたブランドはJobを解決するだけでなく、多くの購入場面で思い出され、さらにその場で購入できる。


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【コカ・コーラは、思い出され、どこでも買える】


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この原則を忠実に実行している代表例が、コカ・コーラだと思う。


コカ・コーラは、単に「喉の渇きを潤す」というJobだけを扱っているわけではない。


暑いとき。


食事をするとき。


スポーツやイベントを楽しむとき。


友人や家族と集まるとき。


少し気分を切り替えたいとき。


こうした多数の購入場面とブランドを、長い時間をかけて結びつけている。


赤い色、独特のボトル形状、ロゴなどの識別資産も、広告や店頭で瞬時にコカ・コーラだと認識させる。


Ehrenberg-Bass Instituteも、コカ・コーラのボトルを、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを強化する識別資産の例として挙げている。


さらに強いのが、フィジカルアベイラビリティである。


コカ・コーラには、かつてから


「欲しいと思ったとき、手を伸ばせば届く場所に置く」


という考え方がある。


現在、コカ・コーラのブランドは世界約3,300万の販売拠点で扱われている。同社自身も、販売拠点の拡大、欠品の削減、適切な場所への適切な商品の配置を、成長機会として明示している。


コカ・コーラは、ブランドを思い出させる力だけでなく、


思い出した瞬間に買わせる流通網


にも投資している。


広告だけが強いブランドなのではない。


広告と流通の両方が強いブランドなのである。


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【マクドナルドは、購入する場面そのものを広げている】


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マクドナルドも同じである。


マクドナルドは「空腹を満たす」というJobだけを解決しているのではない。


忙しい朝に短時間で食べたい。


昼休みに手頃な価格で食べたい。


移動中に食べたい。


家族で気軽に外食したい。


夜に少しボリュームのあるものを食べたい。


自宅から出ずに注文したい。


公式メニューを見ても、朝マック、ひるまック、夜マックなど、時間帯や購入場面ごとに商品が用意されている。これは、異なるCEPにマクドナルドを結びつける設計と考えられる。


フィジカルアベイラビリティについても、店舗だけに依存していない。


ドライブスルー、デリバリー、モバイルオーダー、店舗開発を組み合わせ、顧客が購入できる接点を増やしている。


マクドナルドはこれらを「Digital、Delivery、Drive Thru、Development」の4Dとして、成長戦略の中心に置いている。


マクドナルドの強さは、ハンバーガーの品質だけでは説明できない。


多くの食事場面で思い出され、どこにいても簡単に注文できる。


この二つが同時に成立しているから強い。


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【P&Gは複数ブランドでCEPを取りにいく】


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P&Gの戦略で興味深いのは、一つのブランドですべての需要を取ろうとせず、同じカテゴリーに複数のブランドを保有していることである。


日本の衣料用洗剤カテゴリーでは、アリエール、ボールド、さらさが展開されている。


アリエールは、科学や高い洗浄力、除菌、汚れへの対応を強く訴求している。


ボールドは、洗浄だけでなく、香り、柔軟効果、消臭、手軽さといった便益を一つの商品にまとめている。


さらさは、無添加や家族の肌へのやさしさを中心にブランドを構築している。


整理すると、


「頑固な汚れや菌が気になる」


「洗濯を簡単に済ませながら香りも楽しみたい」


「家族や子どもの肌を考えて選びたい」


という異なる購入場面に、それぞれ別のブランドを結びつけている。


P&Gが実際に「CEPシェア」という指標を公開しているわけではない。


しかし、ブランドポートフォリオ全体を見ると、P&Gは一つのブランドで多くの意味を持とうとするのではなく、


複数ブランドを使って、洗剤カテゴリーの異なるCEPを広く押さえている


ように見える。


アリエールだけでは獲得しにくい購入場面を、ボールドやさらさが補完する。


個別ブランド間では競合していても、企業全体では、カテゴリー内でP&Gの商品が思い出される確率を高められる。


これは、ブランド単体ではなく、企業のブランドポートフォリオ全体でメンタルアベイラビリティを設計する考え方である。


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【良い商品を作れば売れる、ではなかった】


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私自身、実務を始めた頃は、顧客にとって魅力的な商品や企画を作れば、売上は伸びると考えていた。


しかし、実際には違った。


企画の評価が高くても、存在を知られていなければ売れない。


広告で認知されても、販売場所や購入方法が限られていれば売れない。


競合より満足度が高くても、購入する瞬間に思い出されなければ売れない。


実務では、売上を一つの数字として見るのではなく、


市場規模


×認知・想起


×購入可能性


×購入確率


×購入頻度


×平均単価


という変数に分解して考えるようになった。


すると、売上が伸びない理由が、必ずしも商品価値や顧客満足度にあるわけではないことが分かる。


ボトルネックが認知であれば、商品を改良する前に、思い出される確率を上げる必要がある。


購入可能性が低ければ、広告を増やす前に、売り場や購入経路を増やす必要がある。


顧客のJobを深く理解することは重要である。


しかし、Jobの理解だけで売上は生まれない。


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【Jobの解決は、ブランド成長のスタート地点】


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優れたブランドは、顧客のJobを解決している。


この主張は間違っていない。


ただし、もう一歩踏み出す必要がある。


Jobは、そのブランドが存在する理由をつくる。


メンタルアベイラビリティは、購入場面でそのブランドを思い出させる。


フィジカルアベイラビリティは、思い出したブランドを実際に買える状態にする。


優れたブランドに必要なのは、Jobだけではない。


価値があること。


思い出されること。


買えること。


この三つがそろって、初めて売上になる。


そして、多くの市場でブランド間の差を生んでいるのは、Jobを解決できるかどうか以上に、


どれだけ多くの場面で思い出され、どれだけ簡単に買えるか


なのではないかと思っている。

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