お願いだから、「なんでお店やめるんですか」だけは言わないで
この文章は、日興フロッギーとnoteで開催するコンテスト「#私のお金 の使い道」の参考作品として主催者の依頼により書いたものです。
僕、渋谷で、ボサノヴァのレコードがかかるワインバーを28年間経営しているのですが、最近の悩みは、どういう風にお店を閉めようか、ということなんです。
お店を閉めるとなると、SNSで「長年の間、支えてきてくれたお客様、ありがとうございました。来月31日に閉店いたします」みたいなことを告知するのが普通じゃないですか。そういうのを告知したら、普通はすごく拡散されるし、コメント欄が、「残念です。どうして閉めるんですか? もう少し続けて下さい」みたいなのでいっぱいになるし、Xだったりすると引用RPで「えええ。残念。一度行きたかったのに、行けば良かった」みたいなのもたくさん飛んできますよね。あのコメントに耐えられる自信がないんです。
「え? あのコメントってお店側にとってツラいの?」って思った方に説明します。お店を閉めるってことは、普通は売り上げがすごく良くないからなんですね。
もちろんお店の人が老齢化してって理由もあります。でも、今は国が、若い人でお店を始めたい人に、引き継げるようにマッチングするというサービスもやっています。普通は、毎日満席ですごく売り上げが良ければ、誰かが引き継いだり、誰かがそのお店を買ったりします。
やっぱりほとんどの場合、お店を閉めるということは、売り上げがすごく落ちて、もう続けていけないという意味なんです。そういうお店って、新しいメニューを試してみたり、SNSを頑張ってみたり、広告を出してみたり、いろんなことを頑張って、それでも売り上げが良くなくて、もう駄目だ。もう無理だ。もう降参です。お手上げです。ギブアップです。お店閉めますという状況なんです。もうボコボコに殴られて立ち上がれなくて、ギブアップするボクサーと同じ状態と思って下さい。
そんな傷だらけのボクサーに、「なんでやめるの?」「もっと続けて」「期待してたのに」って声をかけるのって、ボクサーはすごくツラいですよね。
正直、「だったら、閉める前に、何度か来店して下さいよ。あなたが来てくれてたらこんなことにはならなかったんだから」って思います。
だから、もしあなたが、大好きなお店があったら、応援したいなあって思ったら、そのお店に通って、お金を使ってあげてください。駅前の書店も、いつまでもあってほしいなあって思ったら、インターネットで買わずに、意識的にその書店で買って下さい。
僕は、書店に入ったり、レコード屋に入ったりして、「うわあ。すごく良い品揃え。これはこのお店、続いて欲しいなあ」って感じたら、必ず何か買うものを探して、良い金額を使うことにしています。
あるいは、飲食店に入って、「すごく良いお店だなあ」って感じると、意識的に普段よりは多くお金を使うようにしています。それが、大人のお金の使い方だと思っているからです。
僕がこういうことを書くと、必ず、「潰れるお店は今のビジネスモデルにあってないだけ。資本主義なんだから儲からないお店は淘汰されるだけ」っていう反論が来るんですね。僕も閉めるお店は、儲かってないからで、時代に合っていないから閉めるんだと思います。
でも、だったら閉店告知のときに、「残念」って言わないで欲しいんです。駅前の書店や良い雰囲気のカフェが閉店した後に、新しく出来た醜悪なお店を見て、「なんか、街がすさんできたなあ。前が良かったなあ」って思わないで欲しいんです。
お金を使うことって投票行為と同じです。このお店はずっとこの街にあって欲しいなあと思ったら、投票して下さい。お金を使って下さい。お店をやっている人間としては、その投票の気持ち、お金が一番嬉しいんです。お金って強いです。売り上げの数字が大きいと、よし頑張ろうって思います。傷だらけのボクサー、また立ち上がれます。
たまにうちのお客様で、「マスター、結婚記念日には必ず二人で来ることにしてるんです。私たちの子どもが二十歳になるときは、ここでお酒デビューって決めてるんです。ずっと続けて下さいね」なんて言ってくれる方がいるんですね。「よし。じゃあまだやめないで、あとひと頑張りしてお店を続けよう。だってあの人たちが、まだ通ってくれてるんだから」って思うんです。
近所や職場の街に、「いらっしゃいませ。ああ、お久しぶりです」って言ってくれるお店がずっと残ってたら嬉しいじゃないですか。それって良い街ですよね。あなたがそんなお店にお金を使っていただけると、そのお店はずっと続きます。あなたがお金を使うことで、あなたの街は作れます。今日も、いろんなお店があなたが来店してくれるのをお待ちしております。
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