【Oneチャンクの記憶】オレンジ色の雨宿り
放課後のひと口
見上げる空の青さに、やわらかなオレンジ色が映える季節がくると、僕の心にふっと浮かぶ時間がある。
高校2年生の、瑞々しくも少し不器用だったあの頃の記憶。
学校から自転車での帰り道、家へと続く峠道は、歩くだけでも息が切れる。
その日は運悪く、バケツをひっくり返したような大雨に見舞われた。
部活帰りの友人と二人、傘も役に立たないほどの豪雨に笑うしかなくなり、僕たちは逃げ込むように道沿いにあった小さな屋根の下へと飛び込んだ。
「最悪だけど、なんかウケるね」
濡れた髪を拭いながら交わした、たわいもない会話。
ただ雨が止むのを待つだけの、時間にしてわずか30分ほどの雨宿りだった。
しかし、その退屈なはずの空間を鮮やかに彩ってくれたのが、屋根の脇にひっそりと、けれど力強く実をつけていたビワの木だった。
雨粒を浴びてきらきらと輝くビワの実は、薄暗い雨空の下でそこだけがぽっと灯りがともったように温かそうに見えた。
「これ、食べられるかな」
「いってみる?」
どちらからともなく手を伸ばし、もぎ取った実を二人でそっと頬張る。
口の中に広がったのは、お世辞にも甘みがあるとは言えず、少しの青臭さと酸っぱさだった。
それでも、温かい雨の匂いと、冷えた体に染み渡る果汁が溢れ、その瑞々しさは、どんな甘い果物よりも特別に感じられた。
「酸っぱ!」と言い合いながら笑った友人の顔や、雨が屋根を叩く激しい音。
あの時、峠道の片隅で共有したちっぽけな冒険は、大人になった今でも僕の中に顔をのぞかせる。
今、街角で綺麗に並んだビワを見かけるたびに、僕はあの激しい雨の音と、甘酸っぱい記憶を思い出す。
それは、がむしゃらで、どこか愛おしい高校時代の、大切な1ページだ。
見つけてくれてありがとうございました。
