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海を超えてきた青

絵画と一杯の休息

重厚な扉を押し開け、美術館の外に出た瞬間に肺を満たすのは、
現実世界の少し湿った潮の香りだ
展示室の静謐な空気の中で、幾多の色彩と対話してきた脳は、
心地よい疲労感に包まれている

特に、ある一連の作品に宿っていた、吸い込まれるような深い「青」が脳裏に焼き付いたままだ
キャンバスの中に閉じ込められていたあの印象的な光の余韻を引きずりながら、
パンフレットの図版を眺めても、やはりあの色の記憶が鮮烈に蘇ってくる

あんなにも心を掴まれたあの青、「ラピスラズリ」と呼ばれた聖なる石は、
かつてシルクロードと地中海を越えてヨーロッパへともたらされた

海のかなたから来た青、すなわち「ウルトラマリンブルー」、その深い青は、黄金よりも高価とされ、
聖母マリアの衣の青(マドンナ・ブルー)を描くためだけに使われるなど、長い歴史の中で最も崇高な色として君臨し続けてきた
僕が今日見たのは、その長い旅を経てなお、色褪せることなく普遍の輝きを放っていた

海が見える喫茶店へ足をむける、注文したのは、一杯のカフェラテ
運ばれてきたカップの中には、きめ細やかなフォームミルクで描かれたラテアートが浮かんでいる
それは先ほどまで眺めていた抽象画のようでもあり、あるいは打ち寄せる波の泡のようでもある

温かなミルクの甘みが、思考の熱を優しく冷ましていく
そして追いかけてくるエスプレッソの苦味は、美術館で研ぎ澄まされた感覚に、
しなやかな現実味を取り戻させてくれる
甘みと苦みの絶妙な調和は、まるで複雑な色相が重なり合う一枚の絵画のようだ

目の前に広がるのは、額縁のない本物の海
あの作品の中で見た青と、目の前で揺らめく現実の青が、記憶の境界線で静かに溶け合っていく
寄せては返す波の音に、喉を通るカフェラテのコクを味わう
美術館で受け取った膨大なインスピレーションが、この一杯の温もりとともに、
ゆっくりと自分の一部へと沈殿していくのがわかる
光に命を吹き込まれ、永遠に色づき続けるラピスラズリの青のように

きっとこの時間を、至福の時と言うのだろう
芸術の余韻と潮騒、そして掌に伝わるカップの温度
それらが溶け合うこの一杯は、今日という一日を締めくくる、最高の名画であった


見つけてくれてありがとうございました

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