おにぎり(後編)
子供の頃、そんな母の姿が一時期、見えなくなったときがあった。俺が悪態つきすぎたせいで居なくなったと子供ながらに落ち込んだ。しかし、母が居なくなったのは男と逃げただけだったと、後に知る。
ある温泉宿の仲居をやってるところを親父にみつかり連れ戻された。
「あのときのお父さん(親父)の顔は本当に怖かった。」母は酔う度に笑いながら話すが、息子の俺は苦笑いしか出来んわ…。
「あんた達が結婚出来ないのは、私がしてきたことのせいもあるよね。」これも母が酔ったときの口癖。
「ただ俺に甲斐性が無いだけだ。」と、また苦笑いしかしてやれない。
なんだか今日の風は懐かしさと切なさも運んできたみたいだ。今夜も沢山 苦笑いするかもしれないが、まぁ、それも悪くない。
夕方、母の手料理がテーブルに並べられた。
久しぶりに食べる一品があった。
つくしの卵とじ。
小さい頃は一緒に近くの土手に行って摘みに行った。懐かしさも調味料になり、食が進む。
やっぱり食事は一人より…
二人で…
食べ…食べた方が…って、オイ!!
何で料理は一人分しか用意されてないのwwwwwwwwww
母はちょっと離れたソファーに座り、メロンパンかじりながら「んっ?いま余りお腹減ってないから」と、当たり前のように言われたwwwwwwwwwwww
「ご飯作るから、何も食べずに来いよ。」って、お前言ってたよなぁwwwwwwwwwwwwww
今夜は違う意味で苦笑いするしか出来ず、一人で黙々と食べた。食事が終われば、ひたすらテレビを観るだけ。本当は会話を楽しめばいいのだろうが、話し方が分からない。
相づちをするのが精一杯。いまだに母に対して照れがあるのかもしれないし、甘え方が分からないのかもしれない。だから、顔もまともに見れない。
そんな空気に耐えれなくなった頃に帰るようにしている。帰るときは余ったご飯をおにぎりにして持たせてくれる。なんだか恥ずかしいが、嬉しい気持ちもある。
帰りは母がエレベーター前まで見送りにくる。エレベーターに乗りドアが閉まる一瞬だけ母に顔を向ける。直ぐドアが閉まるから、その後のことを考えずに済むからだ。
母もそれを知ってか知らずか、必ず目が合い微笑みながら手を振る。やっぱり照れて帽子を深く被り直してしまう。
マンションの4階の踊り場から見送る母。俺の車が見えなくなるまで見送る母。俺は手を振り『また来るから』なんて出来る訳もなく、手を振る代わりに駐車場を出るときにハザードを数回点滅させる。『また来月も嫌がらせで来てやるから』言葉で言えない代わりに想いを乗せ点滅させた。
帰り道はいつも煙草の本数が増える。自分でも分からないけど、泣きそうになるから煙草で誤魔化す。歳を取ると涙もろくなるって本当かも…。
明日は母のおにぎりがあるから少しゆっくりした朝になりそうです。なんだか、明日も頑張れそうだ。
来世も母の息子でありますように。
(。-人-。)

