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グリーンサラダ~後編~



ある夜のこと…。



その日の布団はふかふかで太陽の匂いがするから、なかなか寝付けない。やっと眠れたと思ったが、窓を叩く強い風の音で目を覚ました。



猛烈な不安に襲われ家の中を見回るが、やっぱり誰も居なかった。いつものことで慣れているはずだったが、その日は違った。猛烈な風が窓を叩く。しかも、子供の俺には窓に映る庭の木々の影が、人のように見えた。

家の周りを沢山の人が囲んで窓を叩いているように思え、とにかく怖かった。風の音が低く鈍い男性の叫び声に聞こえ、風で電線が揺れて響き渡る音が、甲高い女性の叫び声に聞こえて恐怖心を煽った。



慌てて布団を被り、両手で耳を押さえ歌う。




どんぐり ころころ どんぶりこ♪


 おいけにはまって さあたいへん♪




恐怖心を振り払うように歌うが、もし、弟が目を覚ましたときに兄の俺がビビっていては不安になる。弟を守るのは俺しか居ないんだと自分を奮い立たせた。



その夜は弟を抱きしめ同じ布団で眠た。



どのぐらい時間が経ったのか分からないが、枕元で笑い声が聞こえた。



薄目を開けて見上げると「なんで、あんた達、抱き合って寝てるの?」腹を抱え笑う母が立っていた。



そう言われると急に恥ずかしくなり、頭から布団を被った。恥ずかしかった反面、母が帰ってきた喜びと安心でいっぱいだった。



兄貴風を吹かす一方で俺は一度駄々をこねると、なかなか機嫌を治さない子供だった。その日もたわいもないことでヘソを曲げ怒っていた。理由は夕御飯のサラダにトマトが乗っていた。ただ、それだけのこと。



「好き嫌いしないで何でも食べなさい。」



そう言われても食べたくないからトマトを床に投げ捨てると母がぶちギレて、網戸が閉めてあるにも関わらず、俺を掴み網戸に叩きつけた。



俺は網戸を突き破り、庭に転げ落ちた。



号泣しながら家に入ろうとするが扉を閉められた。「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝るが家に入れて貰えない。



家に入れて貰えないことに腹が立ってきて、扉を蹴っていたら「蹴るな!」と母が鬼の形相で出てきた。


そんな鬼の形相をしているときのお仕置きは決まっていた。家の裏にある梅畑に連れて行かれ、梅の木の枝に両手を縛られ放置される。



放置された恐怖感と孤独感でまた泣き叫び、許しを求めた。しかし、枝の先っぽに縛られていたから枝は折れて直ぐに自由になった。



子供ながらにこんな簡単に逃げれたらダメかなと思い、そっと両手を上げ縛られてるふりをした。



そこにウチの飼い犬が近づいてきた。ウチの犬は室内犬でオシッコのときだけ外に出る。そんな犬が俺を心配して来てくれたと感激していたらオシッコ掛けて逃げていった。





どんぐり ころころ どんぶりこ♪


 おいけにはまって さあたいへん♪





歌うしかなかった…。



…………………………………………




子供の頃は「好き嫌いしないで何でも食べなさい」と、あれほど言っていたのに、今は好きなものばかり用意して迎えてくれる。




やっぱり今日もサラダにトマトは乗っていない。トマトがないだけで、あとは子供の頃に食べ慣れた懐かしい料理が並んでいる。そんな食卓を見ると、ささやかながら幸せに感じる。



こんなことを幸せだと人に話したら、ささやか過ぎて失笑されてしまうだろうか。マザコンかと嘲笑されてしまうだろうか。でも、一緒に食事出来ることが幸せで、それを素直に幸せだと思えることも幸せだと心底思う。




そんな想いを母に言っても苦笑いするだけだから言わない、いや、言えない。言えない代わりに祭りの今日くらいは酒の相手をして一緒に花火でも観よと思う。




ティッシュをソファーにほおり投げ、「いつも同じメニューやな。」と憎まれ口を叩きテーブルにつく。




「嫌なら早く嫁さん貰って作ってもらえ!!」




母の言葉に返事もしないでビールを流し込むと炭酸が喉を引っ掻くように滑り落ちた。




「ん?なんか言った?」ゲップ混じりに聞こえないふりして聞き直す。





いつもの会話で食事が始まる頃、最初の花火が打ち上がった音がした。



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