ADHD大学教員の研究術 論文執筆編
1.はじめに
私は、某大学の専任教員です。ADHDの確定診断を受け、定期通院をしつつ、仕事をしています。
今回から数回に分けて、「ADHD大学教員の研究活動」として、研究における私なりのやり方や工夫を書いていきたいと思います。
初回となる今回は、「論文執筆編」です。論文執筆に至るまでにテーマの設定(テーマを見つけて育てること)や調査研究というプロセスがあるのですが、今回は「(論文を)書くこと」に特化して述べていきます。
2.前提ー私についてー
まず、前提の話です。
私自身は、査読付きの投稿論文が10本以上あり、学術書の単著を出版しています。
つまり、ある程度論文執筆のスタイルが確立しつつあるということです。
このスタイルは、ADHD特性に対応したものであると同時に、「私」自身にマッチしたものになっていると思います。
ですので、書くまでの持っていき方やスタイルについて悩んでいる方の参考にはなるかもしれませんが、そのまま取り入れてもうまくいくかは分かりません。
その点、ご理解ください。
なお、私自身は大雑把にくくれば文系の研究者です。
中規模なアンケートの統計分析やインタビューの分析なども経験はありますが、メインは文献研究です。
なるべく分野共通で使えるものをご紹介するつもりですが、分野や研究手法に左右される点もあるかと思いますので、先にお伝えしました。
3.論文執筆でやりがちなこと
私の場合、論文執筆でやりがちな失敗は次のようなものです。
・締め切りギリギリまで取り組めない(先延ばし)
・締め切りが守れない(期限超過)
・集中力が続かない(注意散漫)
・書いてるうちに、ほかのことが気になってほかのことをやり出す(集中不足、多動)
・集中しすぎて寝食を忘れる(過集中)
・話がまとまらない、とっ散らかる(迷子)
・書いてるうちに何を書きたいか分からなくなる(迷子2)
・あれもこれもそれも全部言いたくなる(多弁)
・誤字脱字が圧倒的に多い(推敲不十分、というか推敲が苦手)
とまあ、書き出すとキリがないくらい出てきます。
自分でも厄介な体に生まれたもんだと思いますが、それも天命。こんな私が研究を楽しみながら続けているコツを紹介していきます。
4.論文執筆前の準備と儀式
さて、データが出揃って、「さあ書くぞ」で書ければ良いのですが、なかなかそうもいきません。
まずは、「書ける」状況と環境を整えます。
(1)論文を書く期間の設定
私の場合、細切れの時間(1時間とか2時間)では、書けません。集中までにかなり時間がかかりますし、集中しすぎると後の予定を全部忘れて没頭する危険があるからです。
私は、日頃からカレンダーに空白の日を作っています。
こうした空白の日や長期休暇など、「何も予定がない日」を論文を書く日に設定します。
1日取れないときは、午前丸々とか午後丸々で取れる日にします。ただし、午後丸々の時はなるべく研究室でなく家で書きます。
集中しすぎて気付けば日付が変わっているという事態(たびたび経験済み)を防ぐためです。
また、この論文を書く期間ですが、「締め切り1週間前までに仕上がる」を目標に設定します。
自分が論文を書くのに要する時間が見えてくると、このあたりはある程度設定できるようになります。
はじめのうちは、投稿論文1本につき、期限の1ヶ月以上前から最低10日間くらいが目安でしょうかね(データや資料がすべて整っているという想定です)。
あくまで肌感覚で設定した目安ですが。
(2)書く期間に向けての「溜め」
書く期間を決めたら、そこまでは書きません。でも、頭に論文のことはある状態ですので、常になんとなく気になるわけです。
そんなときに、ふとアイディアが浮かんでくるものなのです。
「冒頭の書き出しはこうしよう」
「考察のこの部分はこの研究が使えるな」
「あのデータのここどうなってたっけ」
こういうのが自然に沸いてきたら、そこをとらえてすぐにメモしておきます。私は、紙に書くとその紙をなくすので、スマホで場所を決めてメモしています。
また、確認事項も確認しておきます。
この段階では、まだ書かないということが私なりのポイントです。
「書きたい気持ち」や「書きたいこと」を溜める期間という意識です。
そして、「書く期間」がきたときに溜めてきたエネルギーを爆発させるというイメージを持っておきます。
こうすることで、私の場合は、「書く期間」に集中モードに入りやすくなります。
(3)書くこと以外は考えなくてよい環境をつくる
書く期間が近づいてきたら、書く期間を「書ける」期間にするための準備があります。
それが、書くこと以外は考えなくてよい環境をつくることです。
特性上、ほかのすべきことが気になるとすぐそちらにいきがちなため、それを防ぎ刺激を減らす意味もあります。
人が生きていく上では、ふだんの生活、すなわち家事や雑務があります。
こうしたことを済ませたり事前に準備したりしておき、書く期間は書くことだけに集中できるようにします。
私の場合は、書きながら食事のことを考えなくて済むよう、作り置きしたり買い出ししたりしてメニューも考えて準備してしまいます。
(4)書く前の儀式としてのお片付け
いよいよ書くぞという直前。
まず、儀式をします。
それは、お片付けです。
デスクのまわりを片付け、家の場合は床もきれいに掃除します。
これは、刺激を減らして集中する環境を整えるためという目的があります。
そして、もうひとつ。書き出すと、資料やデータや文献を引っ張り出してくるので、そのための作業スペースの確保という目的もあります。
私の場合、「目に入らないものは、無いと同じ」になります。
ですので、必要なものが目につくところにあってすぐに見返せる状況をつくることが大切です。
書いているときに必要なものがすぐに出てこないのは本当にストレスですし、ほかの書類に紛れてしまうということも防ぐ必要があります。
また、片付けをすることで、「いよいよ書くぞ」というモードにも入りやすくなります。
書く前にやることは何でもよいと思うのですが、ひとつ決めて習慣化しておくと集中への導入というかスイッチになります。
これをするときは、そのあとにこれをする。
そういうセットを自分でつくるということです。
片付けでなく、いつもと違う特別なドリンクを飲むとかこの曲を聴くとかそういうのもありかもしれません。
ともあれ、私にとって書く前のお片付けは、気持ちの上でも実務的にも大切な儀式になっています。
5.筋道立った論文を書くために
ここまで、集中モードに持っていくための技術や方法を書きました。次に、論文を書く段階で私がやっていることをいくつか書きます。
冒頭で書いた通り、脱線することがしばしばあるので、脱線せずに論理的一貫性のある論文を書くための方法論が中心になります。
(1)アウトライン作り
まずは、論文のアウトラインをつくります。
「論文を書く期間」より前にやってしまうこともあります。
アウトラインをつくるときは、紙を使います。
いろいろ試しましたが、私に合っているのは、カレンダーの裏紙です。個人的には、ツルツルではないほうがよいです。
まず、書くスペースが広いこと。そして、書き心地がよいのでペンが進むこと。
この2つがお気に入りのポイントです。
紙が広いと発想が自由に広げられる気分にもなります。
紙を広げてペンを持ち、これまでのデータをもとに、論文の流れを書きます。
マインドマップでもロジカルツリーでも、ご自身にやりやすいかたちでよいと思います。
私は、一通りの流れをキーワードで書いています。それぞれの段階で使うデータや資料を書き入れることもあります。
冒頭、目的、方法、結果、考察、結論を意識してキーワードなどを書き出し、矢印でつないでいきます。
ここで確認することは、目的と考察・結論の一致です。
論文では、目的に対応して考察・結論が書かれていなければなりません。そのため、この段階でズレがないかを確認します。
この時点でこれがずれていたらまずいので、まずそこはきっちり確認します。
私は、2万字で書くことが多いのですが、長くなるとここがズレがちです。まず一枚に収まる紙でそこを整理しておくことで、視覚化して確認できます。
このアウトラインが論文の骨格になるので、執筆中は常に見えるところに置いておき、都度確認します。
ちなみに、博士論文も構造図を先につくってから書き出しました。
私の博論は、この構造図ができた段階で「あとは書くだけ」(肉付けするだけ)という状況まで持っていったので、ここにすごく時間を使いました。
構造図というのは、具体的には、タイトルや目的、方法、各章の内容(そこで使うデータや資料含む)、各章間の関連性までを一枚にまとめたものです。
枠組みや骨子を先につくると、脱線しにくく、論旨も明確になります。
修論や博論の長い論文では、アウトラインの作成はとくに力を発揮します。
最近はかなり粗いアウトラインですが、修論や博論では緻密なアウトラインを作り込んでいました。
そのほうが私はやりやすかったです。
(2)アウトラインに沿って書く
私の場合、上記のアウトラインが作れたら、半分はできた、くらいの気持ちです。
アウトラインという骨格ができたら、次は肉付けの作業です。
アウトラインに記載のあるキーワードやデータを手がかりに、文章を書いて膨らませていきます。
長い文章は往々にして分かりづらく読みにくくなりがちです。
ですので、1文は2行程度まで、2つ以上の意味になっていないかを常に点検します。
また、各パートの分量目安は、あらかじめある程度決めておくと書きやすいです。
私の場合、1枚くらいとか半分くらいとか、ざっくりですね。
(3)一気に書き上げ、点検する
アウトラインに沿って、とりあえず全部を書き上げます。このときは細かい推敲はせず、流れに身を任せる感じです。
乗ってくるとさくさく進むので、その流れを止めずに集中して一気に書き上げてしまいます。
このとき、多少の分量オーバーや不足は気にしません。
一気に書き上げたら、目的と結果・考察の一致を確認します。
その上で、初めて論文を読む人の気持ちで、意味が通じるか、論理的につながっているかをざっくりと点検します。
このとき、学会誌の査読ガイドラインの項目は点検項目として参考になると思います。
ざっくりと点検が済めば、次は細かい点検です。
分量がオーバーしていたら削りますし、足りなければ不足しているところを膨らませます。
こまかな文章表現や読みやすさも確認します。
ここまでやれば、いったん叩き台ができたというかたちになります。
(4)寝かせる
私は、いったん叩き台ができてから、論文を熟成させます(笑)
あえて全く見ずに寝かせます。数日のこともあれば一週間ほど置くこともあります。
そして、印刷をして、新鮮な目と頭で読み返します。
一気に書いてるときはヒートアップしていて入り込んでいるので見えなくなっていることがよくあるからです。
冷静に改めて見返すと、意味が分からなかったり根拠に欠けていたりする部分がよく見えます。
画面でなくて印刷した紙で見ることで、気付くこともたくさんあります。赤ペンを持って読み直し、気付いた点を加筆修正していきます。
その加筆修正をパソコンで反映し、また印刷してしばらく寝かせてから読む。
このプロセスを繰り返します。
これにより、誤字脱字やケアレスミスもかなり減らせます。
(5)確認作業
ここまでの作業を終えたら、必要に応じて、ほかの研究者に読んでもらいます。
院生時代は主査や副査、院生仲間などに読んでもらいました。
最近は、共同研究者や同僚の先生などに単著論文(その人が関係していない論文)を読んでもらうこともあります。
まったく畑違いの人に読んでもらうことも、かなり有効です。
査読者や読者はその領域の専門家でないことも多いですし、専門家以外が読んで話が伝わるかは大切なポイントだからです。
6.まとめ
今回は、大学教員の研究活動として、論文執筆に特化して私のやり方を書きました。
自分が集中して取り組める状況や環境を見つけてそこに持っていくことが大切だと思います。
自分なりの型やパターンを見つけると早いです。
最後に、論文を書く期間に、どうしてもやれないときの乗り切り方を書きます。
論文ってかなり大きいタスクなので、エネルギーが相当要ります。
なかなか向かえないときは、細切れにするのがひとつです。「今日は目的だけ書く」「考察だけ書く」というような具合です。
また、論文以外でパソコンを使う小さな作業を先にやるのもひとつです。
メールを返すとかで構いません。
これにより、まず、パソコンの前に向かうこと。
そして、パソコンの前に向かえたら、やらなくてもよいから書きかけの原稿を開いてみる。ワードの新規ファイルでもよいです。
そうすると、自然にやり出せるときがあります。
それでも無理なときは、無理しないことも戦略のひとつです。
論文執筆は、かなりクリエイティブな営みです。アイディアや閃き、エネルギー、そういうものが降りてくるときまで待つというのも大切なときがあると思っています。
だからこそ、そういうゆとりを持てるために逆算してスケジュールをつくることが肝になります。
また、私は論文を書き出すと食事と睡眠を忘れがちですが、意図的に休憩を入れるようにしています。
疲れてくると意味の分からない方向に行きがちだからです。
一区切りで休憩する。でも、頭は論文、という感じだと、割と早く執筆に復帰できますし、新たなアイディアや言い回しが浮かぶこともあります。
今回もお付き合いありがとうございました。
※画像は、「みんなのフォトギャラリー」を活用させていただきました
