真夏のベンチが、創作の入口だった
真夏の正午。
白い光が公園全体を均一に照らしていた。
遊具の方から子どもの声が途切れなく届き、
蝉の音が背景を埋める。
昼休みの人影は少ない。
木陰のベンチだけが空いていた。
そこに腰を下ろすと、
光と影の境目に体が落ち着いた。
このベンチに初めて座ったのは、
日陰を求めて歩いた日。
職場の近くを散歩していて、たまたま見つけた。
働く日の真ん中にある一時間を持て余し、
強い日差しから逃げるように足を止めただけ。
本当に、それだけのきっかけだった。
汗を拭き、
お気に入りのパンと缶コーヒーで
体と心に、しばしの休養。
スマホを取り出し楽器アプリを開き、
鍵盤に触れた。
小さな音が鳴り、蝉の声と重なった。
もう一音置いた。
それが、メロディの断片になった。
何日か通ううちに、
その断片はひとつの曲にまとまった。
真夏の光と蝉の音を
そのまま留めたようなフレーズだった。
場所の気配が抜けず、
心の中で
「真夏のベンチで拾ったメロディ」
と呼んでいる。
ほかにも、
ここでいくつかの断片を残したが、
最初に形になったその曲だけは、
今もこの場所の温度が残っている。
昼休みになると
自然とこの公園に向かうようになった。
ベンチに座りスマホを開くと、
景色の細部に目が向いた。
やけに遠く見える空の青、
遊具の軋む音、
風で揺れる葉の影、
そのどれもが材料になった。
平日の一時間が、
少しだけ別の層を持ちはじめた。
大きな変化は、いつも静かな場所で始まる。
あの真夏にこのベンチに座らなければ、
私の創作は続かなかったかもしれない。
何気ない行動が、いつの間にか
日々の中心にすり替わっていた。
影に逃げ込んだだけの場所が、
方向を少しずらした。
“いつもの場所”に座ることが、
思考の位置も静かに動かしていた。
いつもの場所は、
誰にとっても
静かに背中を押す出発点になり得る。
追記:
この場所で生まれた音の欠片を、
少しだけ置いておく。
「陽炎」
https://www.youtube.com/watch?v=hqMMn0spux0
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