「健康のためにやってるはずなのに、なぜ疲れる?」―― 習慣化に失敗し続けたセルフケアアプリが再起動できた理由
1|“やるほど消耗する”セルフケアに意味はあるのか?
「通知が来る → アプリを開く → 操作する → タスクを完了する」
たったこれだけのはずなのに、なぜか毎回、“義務感”と“自己否定”だけが残る。
これは、あるヘルスケア系スタートアップで私がPdMをしていた頃、毎週届いていたフィードバックの共通項です。
「やらないと不安になる」
「やるべきことが増えすぎて、何が大事かわからない」
「タスクを完了しても、達成感より疲労感の方が強い」
健康になるためのアプリが、ユーザーのエネルギーを奪っている──
それが今のUXの“正直な現実”でした。
2|COM-BとBCWで見えた「消耗UX」の正体
私たちは、行動科学フレームCOM-BモデルとBCW(Behaviour Change Wheel)をもとに、
「なぜ行動が続かないのか」をユーザー調査と定量データから逆算しました。
◎ ユーザーの状態(事例ベース)
Capability(能力):アプリ操作はわかりやすいが、内容の優先順位がわからず混乱する
Opportunity(機会):通知が多すぎて、集中する隙間がない
Motivation(動機):完了しても報酬が曖昧で、「なんのためにやったのか」が残らない
→ 結論:“動機”を削ぎ、“機会”を潰すUX設計になっていた。
3|設計をやり直す。キーワードは「疲れない行動」
BCWで診断した結果、必要な介入は以下の2つ:
Enablement(実行しやすくする)
Incentivisation(報酬を設計する)
私たちが導入したのは以下の3つの具体策です:
① タスクではなく「状態」で始まるUX
アプリを開いたら「今日はちょっと疲れてるね」「昨日よりストレスが低いよ」と、ユーザーの状態を一言で表示。タスクに入る前に**“今の自分”を肯定的に言語化**。
② 「1つできれば十分」と明記したフロー
UIの最初に「今日は1つでもやればOKです」と明示。タスク完了後は「もうやらなくていいですよ」という案内に切り替わる。“やらない自由”が保証されているからこそ、行動が自然に続いた。
③ 意味のあるフィードバックだけを残す
通知やログは週1回だけ、「今週はこんな変化があったね」と意味づけのある振り返りだけをフィードバック。即時の「やったね!」ではなく、文脈化された実感を提供。
4|“減らしたら増えた”という実験結果
このリニューアルを実施した結果:
週3日以上のログイン率:41% → 57%(+16pt)
1セッションあたりの平均滞在時間:5.1分 → 6.8分(+33%)
主観的な「疲労感」スコア(NASA-TLX):平均58 → 39(-33%)
定量データだけでなく、ユーザーからのフィードバックも変化しました。
「“やらないとダメ”じゃなく、“やれるといい”という空気に救われた」
「完璧にやらなくても意味があると分かって、ようやく習慣になった」
5|行動変容は「押す」ことじゃない、「許す」ことだ
行動科学の理論は「強制する設計」を肯定しません。
むしろ、やらなくてもOKと感じられる余白があるからこそ、人は動ける。
習慣化=モチベーションの最大化ではなく、負荷とプレッシャーの最小化。
今回のリデザインは、まさにその証明でした。
6|あなたのプロダクトでも使える3つの問い
タスク完了が「義務」に見えていないか?
最低限やるべきことを、先に明示しているか?
ユーザーに「今日はやらなくていいよ」と許可する設計を入れているか?
7|最後に
「行動を起こすUX」より、「行動しても疲れないUX」へ。
私たちは“習慣化”に夢を見すぎていたのかもしれません。
次回は、ユーザーの「やらなさ」を受け止める“Non-Action UX”設計について、さらに掘り下げていきます。
