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【BCM 001】第108信:公開データで企業を測る ① ― なぜ上場企業か

与信管理事務局(BCM)の001だ。

前幕(第七幕)では、営業担当者への教育方法を述べた。新人・中堅・ベテランの三段階に分けたOJTが、審査のスピードと組織の強さを同時に高めるメカニズムを示した。

第八幕では、テーマを大きく変える。上場企業の公開データを使って、スコアリングモデルを構築する。


本論①:なぜスコアリングか

与信管理の実務では、取引先の信用力を何らかの形で「測る」必要がある。調査会社の評点を参照する、決算書を読む、現場を観察する。第二幕から第六幕で述べてきた手法は、いずれも「人間の判断」に依存している。

人間の判断は柔軟だが、属人的だ。審査担当者が変われば判断が変わる。同じ担当者でも、忙しい日と余裕のある日で深さが変わる。

スコアリングモデルは、この属人性を補う仕組みだ。あらかじめ定めた指標と配点に基づいて、機械的にスコアを算出する。人間の判断を置き換えるのではない。人間の判断に、客観的な「物差し」を添える。


本論②:なぜ上場企業のデータを使うのか

スコアリングモデルを構築するには、まとまったデータが必要だ。ここで壁にぶつかる。

取引先の財務データは使えない。 自社の取引先データは、守秘義務がある。仮にデータ量が十分であったとしても、それを外部に公開することはできない。また、取引先が提出した決算書は、調査会社の報告書と同様に、開示の範囲や精度にばらつきがある。

調査会社のデータも使えない。 調査会社のデータベースは、利用契約上、スコアリングモデルの構築や公開に使用することが制限されている場合が多い。

上場企業のデータは、誰でも自由に使える。 上場企業は、金融商品取引法に基づいて有価証券報告書を提出する義務がある。この報告書は、EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)を通じて、誰でも無料で閲覧・取得できる。データの信頼性も高い。監査法人の監査を受けた数字だからだ。


本論③:上場企業データの「甘さ」を逆手に取る

ここで重要な前提がある。上場企業は、企業全体の中では「良い方」だ。

上場を維持するには、一定の財務基準を満たす必要がある。債務超過が続けば上場廃止になる。つまり、上場企業のデータで構築したスコアリングモデルは、世の中の企業全体から見れば甘い基準になる。

この「甘さ」を逆手に取る。

この「甘い基準」をクリアしている非上場企業があれば、それは安心材料の一つになる。上場企業の中でも問題ないとされる水準を、非上場でありながら満たしているからだ。

一方、クリアできない非上場企業が多いのは当たり前だ。上場企業と非上場企業では、そもそも財務の水準が異なる。クリアできないこと自体は「危険」を意味しない。ただし、上場企業で作った基準は、一つの物差しとして使える。その物差しに対して、自社の取引先がどの位置にいるかを把握することに意味がある。


本論④:約3,500社超の全上場企業を対象にする

今回のスコアリングでは、金融機関(銀行・証券・保険等)を含む約3,500社超の上場企業を対象とした。

金融機関は、財務構造が一般事業会社と根本的に異なる。銀行の自己資本比率は一般的に5%前後だが、これは規制上の要件(BIS規制等)を満たしており、異常ではない。一般事業会社に当てはめれば極めて低い数字だが、金融機関にとっては正常な水準だ。そこで、金融機関を除外するのではなく、自己資本比率の評価において特別な扱いを設けた。詳細は第112信で述べる。

データは二つのソースから取得した。

① 証券会社等の財務データ。 売上高、営業利益、純資産(自己資本)、総資産の4項目。これらは比較的容易に入手できるデータだ。

② EDINET API。 減価償却費、有利子負債(短期借入金・長期借入金・1年内返済長期借入金)、固定資産、固定負債の4項目。これらは有価証券報告書のXBRLデータから抽出した。

②のEDINET APIについては、次信以降で詳しく述べる。


本論⑤:生成AIを活用した構築プロセス

今回のスコアリングモデルの構築には、生成AIを活用した。

指標の選定、配点の設計、データの取得・加工、スコアの算出、結果の検証。これらのプロセスを、生成AIとの対話の中で進めた。人間が方針を決め、生成AIがコードを書き、結果を出す。人間がその結果を見て、配点を修正し、生成AIが再計算する。このサイクルを何度も繰り返した。

従来であれば、データベースの構築、プログラミング、統計分析、それぞれの専門家が必要だった。あるいは、審査担当者自身がプログラミングを学ぶ必要があった。生成AIは、この障壁を大幅に下げる。

審査担当者に必要なのは、プログラミングの知識ではない。「何を測りたいか」「どう測るべきか」を考える力だ。与信管理の実務で培った判断力があれば、生成AIと組み合わせることで、自分たちのスコアリングモデルを構築できる。

これは、審査業務の新しい可能性だ。


結び

第八幕では、上場企業の公開データを使ったスコアリングモデルの構築プロセスを、実際のデータと結果を交えて述べていく。

次信では、スコアリングに使う7つの指標と、その選定理由を説明する。


BCM(Bureau of Credit Management)
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