北海道胆振東部地震が暴いた、電源依存型BCPの限界[2-4]
ブラックアウトは、私たちの「前提」を崩した
2018年9月6日未明、北海道胆振地方中東部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生し、厚真町で震度7、安平町・むかわ町で震度6強を観測しました。発災から18分後の3時25分、道内全域の約295万戸が一斉に停電する「ブラックアウト」が発生しました。
これは日本で初めてとなる、エリア全域に及ぶ大規模停電であり、従来想定されていた「部分停電」とはまったく異なる性質を持つものでした。社会全体が同時に電力を失い、医療・福祉・交通・通信といった基盤機能が一斉に制約を受けるという事態です。
北海道庁の検証報告書も、行政機関や医療機関等の重要施設における非常用電源設備の整備や燃料の確保の不十分さを、最大の課題の一つとして挙げています。
この事象が突きつけた本質は、「停電に備えているか」ではなく、「電力喪失を前提に業務設計されているか」という問いでした。問われているのは設備ではなく「設計思想」そのものです。
非常用電源の「想定時間」と「対象範囲」の設計が問われた現実
ブラックアウトから道内ほぼ全域に電力が供給されるまでには、約45時間を要し、多くの施設では非常用発電機を備えているものの、その想定時間や対象範囲には大きな差がありました。
ある病院の理事長による報告では、人工呼吸器を装着した患者が病棟の約3分の2を占める中、自家発電機が最大でも3時間しか作動できないという事実に直面したことが記されています。
職員はアンビューバッグを各病室に配置し、手動換気の準備をする一方、事務職員が救急車でポリタンクを抱えてガソリンスタンドを回り、軽油の確保に奔走しました。
結果として、「電源はあるが、想定より早く尽きる」という現実が、医療現場を追い詰めたのです。
非常用電源は「あるか、ないか」で評価されがちです。
しかし本来問うべきなのは、「何時間維持できるのか」「何床分の医療機器を支えられるのか」という点です。
あなたの施設の非常用電源は、何時間分、何台分の機器を前提に設計されているでしょうか。
医療機器・空調・情報システムへの同時影響
停電対策は照明や最低限の電源確保に偏りがちですが、実際には影響は同時多発的に広がります。
北海道の医療救護活動の記録では、972の医療機関(病院・有床診療所)をEMIS(広域災害救急医療情報システム)で監視し、燃料や電源の支援要否を確認する作業が続けられました。
電子カルテが使えなくなった病院、在宅で人工呼吸器や酸素濃縮器を使用する患者の安否確認とバッテリー残量の確認が、停電が続く中で同時並行で進められています。
道全体では、停電による影響で人工呼吸器装着患者38名、人工透析患者13名の転院搬送が行われました。
一方で、搬送準備を進めている間に電源が復旧し、搬送が不要になったケースもあり、電源が落ちてから復旧するまでの数時間、現場は常に「搬送するか、待つか」の判断を迫られていたのです。
あなたの施設では、電源を失った場合に「何が連動して止まるか」、把握できているでしょうか。
広域停電下での情報収集・外部連携の困難さ
ブラックアウトは電力だけでなく通信にも影響を及ぼしました。基地局の非常用電源には限界があり、時間の経過とともに通信品質は低下しました。
北海道庁の検証報告書は、全道域での大規模停電により多くの通信手段が途絶し、情報収集に大きな支障が生じたことを最重要課題の一つとして挙げています。
先述の病院の事例でも、停電中の情報源はラジオのみで、対策本部設置の報道は流れてくるものの、具体的な支援の見通しは得られなかったと記録されています。
この病院は近隣の病院にEMISの代行入力を依頼し、そこから患者の転院搬送につなげることができました。
情報が自力で得られない状況でも、誰につながれば道が開けるかを事前に知っていたかどうかが、対応の速さを分けたと考えられます。
通信が途絶えた数時間、あなたの施設は誰につながれば次の一手が打てるでしょうか。
電力復旧は重要な転機ではあるものの、それだけで即座に通常運用へ戻ることはできません。
苫小牧市立病院の電気復旧には約15時間半、苫小牧保健所には約17時間半を要しています。停電中に蓄積した業務遅延、環境悪化、記録の混乱、人的疲弊は復電後にも影響を残します。
ブラックアウトが示した本質は明確です。
設備が存在していても、それが想定外条件下で機能するとは限らないということです。
「設備があること」と「機能すること」は別問題であり、その間を埋めるのがBCP設計そのものです。
過去に起きたことを知ることの意味は、「同じ災害が来るか」を予測するためではなく、「自施設の前提がどこで崩れるか」を見つけるためにあります。
ブラックアウトは、私たちが無意識に置いていた「電気はある」「通信は使える」「復旧すれば戻れる」という前提を崩しました。
次回
次回は、「令和元年東日本台風(台風19号・2019年)が示した、“予測できる災害”の落とし穴」について整理していきます
あなたの施設の非常用電源、燃料は何時間分ありますか?
参考資料
本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。
・平成30年北海道胆振東部地震災害検証について|北海道庁
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/7/0/6/4/4/2/2/_/r1jisinnsennmon_siryo4.pdf
・平成30年北海道胆振東部地震|内閣府
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/saigaitaiou/output_html_1/pdf/201802.pdf
・平成30年北海道胆振東部地震における医療救護活動の概要について|北海道保健福祉部
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/2/4/6/7/8/8/3/_/09siryou1hohuku.pdf
・平成30年7月豪雨および北海道胆振東部地震の報告|厚生労働省DMAT事務局
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000540365.pdf
・災害ケースマネジメントに関する取組事例集|内閣府
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/case/pdf/shiryo2_7.pdf
・現地保健医療活動の概要について|北海道胆振総合振興局保健環境部苫小牧地域保健室
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/2/4/6/7/8/8/4/_/10siryou1tomakomaihokenshitsu.pdf
