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過去の災害は記録ではなく、設計図である[2-8]

第2シリーズでは、これら7つの災害を振り返りながら、医療・福祉施設の防災やBCP(事業継続計画)の視点で何が起きたのかを整理してきました。

それぞれ災害の種類も規模も異なります。津波、地震、水害、停電、土砂災害。一見すると別々の災害に見えますが、現場で起きる課題には驚くほど共通点があります。災害そのものは違っても、組織が直面する問題の構造は似ています。

だからこそ過去の災害は単なる記録ではありません。未来の災害に備えるための「設計図」だと思います。

今回はシリーズの総括として、7つの災害を貫いて見えてきた共通課題を整理してみたいと思います。


「想定していた条件」が崩れたこと

今回、取り上げた7つの災害は、医療、福祉、保健分野のみならず、多くの分野、業態で衝撃を受けた事例です。

想定の前提は必ず崩れる多くの災害で共通していたのは、「想定していた条件」が崩れたことです。

東日本大震災では想定を超える津波が発生しました。熊本地震では前震・本震という連続地震動によって、一度避難した施設が再び被災する状況が発生しました。令和6年能登半島地震では道路寸断や断水が長期化し、支援そのものが届きにくい状況が続きました。

災害対策を考えるとき、私たちはどうしても「この程度なら大丈夫だろう」という前提を置きたくなります。しかし実際の災害は、その前提を壊す形で発生することがあります。

想定外をなくすことはできません。だからこそ重要なのは、想定どおりに進まなかったときにどう動くかを考えておくことです。

BCPもまた、想定した災害への対応計画ではなく、想定が崩れた状況でも重要業務を継続するための設計であるべきではないでしょうか。

あなたの施設では、「想定が外れた場合の行動」をどこまで整理できているでしょうか。


二重被災が人員計画を崩す

災害対応では設備や物資に注目が集まりがちですが、実際には人員の確保が最も大きな課題になることがあります。

熊本地震では職員自身が被災者となりました。自宅の損壊や家族対応に追われ、出勤できない職員も発生しました。西日本豪雨や令和元年東日本台風でも、交通遮断や浸水によって職員の参集が困難になりました。令和6年能登半島地震では長期間にわたり生活基盤が損なわれ、継続的な人員確保が大きな課題となりました。

災害対応計画は、しばしば「職員は集まるもの」という前提で作られます。しかし実際には、職員も地域住民であり、被災者です。施設利用者を支える人自身が支援を必要とする状況は決して珍しくありません。

人員不足は特殊な状況ではなく、災害時には発生する前提で考えるべき問題です。

平常時の人数で災害対応を設計していないでしょうか。

災害は「時間軸」で変化する

災害対応というと発災直後に注目しがちですが、多くの現場で問題となるのは時間の経過です。

北海道胆振東部地震では全域停電が発生し、非常用電源の運用が大きな課題となりました。西日本豪雨では浸水や孤立が長期化しました。令和6年能登半島地震でも断水が数週間から数か月単位で継続した地域がありました。

災害は発生した瞬間だけでは終わりません。数時間後、1日後、3日後、1週間後と課題は変化していきます。

発災直後は人命安全の確保が中心です。しかしその後は、水・食料・燃料・医療資源・職員の疲弊など、異なる課題が次々と現れます。

BCPが機能しない理由の一つは、この時間軸を十分に考慮していないことにあります。

「発災後72時間」という言葉はよく使われますが、本当に72時間後の状況まで具体的に想像できているでしょうか。

「知っている」と「動ける」は別物である

第2シリーズで取り上げた災害を振り返ると、計画やマニュアルが存在していても現場が混乱する場面が数多く見られました。

災害時は強いストレス下に置かれます。平常時には理解していた手順でも、その場で実行できるとは限りません。

東日本大震災でも熊本地震でも、情報共有や指揮命令系統の混乱が課題となりました。令和6年能登半島地震でも通信障害や道路寸断によって、想定していた連絡体制が機能しない場面がありました。

計画を知っていることと、実際に動けることの間には大きな差があります。だからこそ訓練が必要です。そして訓練は知識確認の場ではなく、行動確認の場であるべきだと思います。

自施設のBCPは、「知っている計画」になっているでしょうか。それとも「動ける計画」になっているでしょうか。


対策の”存在”より”機能”が重要

7つの災害を振り返って見えてきたのは、設備やマニュアルの有無だけでは組織は動かないという現実です。

非常用電源があっても燃料がなければ使えません。また、その電源が「どの設備(空調や給水ポンプ)」に繋がっているかを把握していなければ、宝の持ち腐れになります。備蓄があっても運用ルールがなければ活用できません。マニュアルがあっても職員が動けなければ意味がありません。

重要なのは対策を持っていることではなく、その対策が機能するように設計されていることです。

BCPの本質は文書作成ではありません。災害時に組織が継続できる状態を設計することです。

過去の災害は、その設計の不具合を教えてくれる貴重な教材でもあります。だからこそ災害事例を学ぶ意味があります。過去を知ることは、未来の備えを具体化することにつながるのです。


次回

第2シリーズでは、過去の災害から何が起きたのかを振り返ってきました。

そして振り返りの先に見えてくるのが、「では何を整備すれば動けるのか」という問いです。

医療・福祉施設において、その答えの多くは施設管理の中にあります。

非常用電源は本当に使えるのか。設備台帳は整備されているのか。施設の更新計画など防災は連動しているのか。

災害対応は、防災担当者だけの仕事ではありません。施設管理そのものが防災であり、事業継続の土台になります。

次回から始まる第3シリーズ「施設管理者のための防災実務編」では、設備・施設管理・更新計画という視点から、災害に強い組織づくりを考えていきます。

過去の災害から見えてきた課題を、今度は具体的な実務へ落とし込んでいきたいと思います。

あなたの施設で、本当に災害時に止まってはいけない設備は何でしょうか。

そこから防災を考えてみませんか。


参考資料

本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。

・緊急災害対策本部取りまとめ報告(令和8年3月)|内閣府
 https://www.bousai.go.jp/2011daishinsai/pdf/torimatome20260309.pdf

・令和6年能登半島地震に係る初動対応の検証報告|石川県
 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/bousai/bousai_g/bousaikaigi/20241028/documents/01_houkokusyo_honpen.pdf

・令和6年版厚生労働白書(特集:能登半島地震と医療・福祉)|厚生労働省
 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/23/dl/2-tokusyu.pdf

・平成30年北海道胆振東部地震の被害と復旧の状況|内閣府
 https://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/saigaitaiou/output_html_1/pdf/201802.pdf

・平成30年7月豪雨における水道施設の被害状況について|厚生労働省・日本水道協会
 https://www.mlit.go.jp/common/830006642.pdf