BCPと避難行動計画は、災害種別ごとに設計されているか[4-7]
避難確保計画を作っていれば、どの災害にも対応できると思っていませんか。
医療・福祉施設の防災を考えるとき、「避難確保計画」と「BCP」は、どちらも災害時の対応を定める計画として扱われます。そのため、避難確保計画を作成していれば、災害への備えは一通り整っていると考えてしまうことがあります。
しかし、避難確保計画には、制度上の対象となる災害があります。そして、対象とならない災害もあります。この違いを理解しないまま、「避難確保計画があるから大丈夫」と考えると、想定していなかった災害に対する備えが抜け落ちる可能性があります。特に重要なのが、地震です。
避難確保計画は、すべての災害を対象とした計画ではありません。では、避難確保計画は、どのような災害を対象としているのでしょうか。
避難確保計画には、対象となる災害がある
避難確保計画は、水防法、土砂災害防止法、津波防災地域づくり法に基づく制度です。そのため、対象となる災害も、これらの制度が対象とする災害に限られます。具体的には、洪水、雨水出水、高潮、土砂災害、津波です。一方、地震は、避難確保計画の対象災害には含まれていません。
これは、避難確保計画が地震への備えを否定しているという意味ではありません。制度の目的と根拠となる法律が異なるため、対象となる災害の範囲が異なるということです。
例えば、洪水や土砂災害、津波では、災害が発生する前に、危険区域から安全な場所へ避難することが重要になります。一方、地震は、突発的に発生することがあります。建物の倒壊、家具の転倒、火災、ライフラインの途絶など、発災直後から施設内で対応しなければならない課題もあります。つまり、災害の発生の仕方や、必要となる初動対応が異なります。だからこそ、災害種別に応じて、必要な計画を考える必要があります。
避難確保計画を作成していることは重要です。しかし、それによって地震への備えまで自動的に整うわけではありません。
自施設の避難確保計画は、どの災害を対象として作成されているでしょうか。
「作成義務があるかどうか」も区域によって決まる
避難確保計画について、もう一つ重要な点があります。すべての医療・福祉施設に、同じように作成義務があるわけではありません。
避難確保計画の作成義務があるのは、市町村地域防災計画に位置づけられた要配慮者利用施設です。そのうえで、浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波災害警戒区域などの対象区域内に位置する施設が、制度の対象となります。つまり、施設の種類だけで作成義務の有無が決まるわけではなく、どの区域に施設があるのかという、立地条件が重要になります。
この点は、BCPとは大きく異なる部分です。BCPは、災害の種類や施設の特性を踏まえて、事業継続に必要な対応を考えるものです。一方、避難確保計画は、法律に基づく災害種別と、指定された区域を前提に作成義務が生じます。そのため、「うちは避難確保計画の対象ではないから、避難について考えなくてよい」ということにもなりません。作成義務がないことと、災害リスクがないことは別だからです。
反対に、作成義務がある施設では、制度上求められる事項を確認しなければなりません。避難確保計画では、防災体制、避難誘導、避難の確保を図るための施設整備、防災教育・訓練の実施などについて定めることが求められます。まずは、自施設がどの区域に位置しているのか、地域防災計画上どのように位置づけられているのかを確認する必要があります。
自施設の避難確保計画の作成義務について、その根拠を説明できる状態になっているでしょうか。
BCPと避難確保計画は、競合する計画ではない
ここまでのシリーズでは、特別養護老人ホーム、障害者支援施設、グループホーム、訪問介護など、それぞれのサービスの特性に応じたBCPについて考えてきました。施設ごとに、利用者の生活場所、人員配置、サービス提供の方法は異なります。そのため、BCPも施設やサービスの特性に応じて設計する必要があります。避難確保計画も同じです。
ただし、BCPと避難確保計画は、同じものではありません。避難確保計画は、対象となる水害や土砂災害、津波などに対して、利用者の避難を確保するための計画です。一方、BCPは、災害によって職員、建物、設備、ライフライン、物資などに影響が生じた場合に、必要なサービスをどのように継続し、あるいは早期に復旧させるかを考える計画です。
もちろん、両者には重なる部分があります。例えば、避難誘導、職員の役割、訓練、情報共有などです。だからこそ、別々の計画として作成したまま、内容が相互に連携していない状態は避けなければなりません。避難確保計画で避難した後、施設運営はどうなるのか。BCPでサービス継続を考えていても、避難そのものが必要な場合に、どのように行動するのか。この二つをつなぐ部分を考える必要があります。
避難確保計画とBCPは、どちらか一方があればよいという関係ではありません。それぞれが異なる役割を持ち、必要に応じて補完し合う計画です。
自施設のBCPと避難確保計画は、災害種別ごとの役割分担が整理されているでしょうか。
災害ごとに、必要な計画を確認する
避難確保計画を作成している施設では、まずその計画が何を対象としているのかを確認する必要があります。洪水を対象としているのか。雨水出水を対象としているのか。高潮、土砂災害、津波を対象としているのか。そして、地震については、別途どの計画で対応するのか。
災害の種類によって、危険が発生する場所も、避難の必要性も、必要な初動対応も異なります。水害や土砂災害では、避難のタイミングや避難経路が重要になります。津波では、浸水の可能性を踏まえた避難が必要になります。地震では、発災直後の安全確保や建物・設備の状況確認、その後の生活継続やサービス継続が課題になります。それぞれの災害に対して、同じ計画だけで対応しようとするのではなく、どの計画が何を担うのかを整理することが重要です。
「避難確保計画があるから安心」ではなく、「この計画は、どの災害を対象にしているのか」を確認することから始める必要があります。そして、対象外となる災害については、BCPなど別の計画によって備えが確保されているかを確認します。
自施設が直面する可能性のある災害を整理し、どの計画が何を担うのかを明確にできているでしょうか。
避難確保計画は、対象となる災害と区域が制度上定められています。BCPは、施設のサービス特性や地域のリスクを踏まえて、事業継続を考えるものです。この二つは同じものではなく、互いの不足する部分を補う関係として設計する必要があります。「どの災害を、どの計画で、どのように対応するのか」を整理することが、実効性のある災害対応の出発点になります。
次回
第8回では、「施設規模によって、BCPの設計は変わる」をテーマに考えます。小規模施設は本体施設との連携なしに機能しない構造を持つ一方、大規模施設は特定の職種1名への依存が生む影響範囲の広さという、規模ごとに異なる脆弱性があります。規模の違いを、単純な大小ではなく、災害時の対応能力を左右する構造の違いとして考えます。
参考資料
・要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き(洪水、雨水出水、高潮、土砂災害、津波)|国土交通省水管理・国土保全局(令和4年3月)
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/jouhou/jieisuibou/pdf/tebiki.pdf
