施設管理担当者がBCPに関わると、何が変わるのか[3-8]
第3シリーズでは、施設管理という視点から8回にわたって防災とBCPを考えてきました。
非常用電源、給排水・空調、設備台帳、長寿命化計画、老朽設備、避難計画。それぞれ扱ったテーマは異なりますが、振り返ってみると、現場で起きる課題には共通する構造がありました。設備の種類は違っても、組織が直面する問題のパターンは似ています。
今回はシリーズの総括として、8回にわたって見えてきた共通課題を整理してみたいと思います。
「ある」と「機能する」は別の話である
このシリーズを通じて繰り返し出てきたのが、「設置されているかどうか」と「実際に機能するかどうか」は別問題である、という視点でした。
非常用電源は設置されていても、想定稼働時間や燃料補給計画まで含めて確認されていなければ、いざという時に十分な時間動かせません。給排水設備も同様で、受水槽があっても、それを稼働させるためのポンプ電源が確保されていなければ、水は出てきません。設備台帳も、存在しているだけでは防災設計図にはなりません。
「対策がある」という状態と、「対策が機能する」という状態の間には、想像以上の距離があります。
あなたの施設の対策は、「ある」で止まっていないでしょうか。それとも「機能する」まで確認できているでしょうか。
設備は独立して壊れない——連動して機能を失う
電源、給排水、空調は、それぞれ別の設備に見えます。しかし実際には、停電が給水設備を止め、給水停止が衛生環境に影響し、空調停止が室温管理を難しくする、という形で連動しています。
一つの設備の停止が、単独の問題では終わらないことが、このシリーズを通じて繰り返し見えてきました。老朽設備の弱点も同様です。日常運転では見えなくても、災害時の急激な負荷変化が複数の設備に同時にかかった時、余裕の少ない設備から連鎖的に機能を失っていきます。
設備を一つずつ点検することと、設備同士のつながりを把握することは、別の作業です。
あなたの施設では、ある設備が止まった時に何が連動して止まるか、線でつないで把握できているでしょうか。
情報は記録されているだけでは意味を持たない
設備台帳、長寿命化計画、点検記録。医療・福祉施設には、実は多くの情報がすでに記録されています。問題は、その情報が「防災」という視点で活用されていないことでした。
設備台帳に使用年数は記録されていても、停止時の影響度までは整理されていない。長寿命化計画に更新時期は書かれていても、BCPの優先順位とはつながっていない。老朽設備の点検記録はあっても、災害時の負荷変化への耐性という視点では見られていない。
情報が足りないのではなく、情報を「つなぐ」視点が足りないことが多いのです。
あなたの施設に記録されている情報は、防災という視点でつなぎ直されているでしょうか。
計画は更新を止めた瞬間から陳腐化する
設備台帳、長寿命化計画、避難計画。これらに共通していたのは、一度作った後、更新が止まった瞬間から現実との差が生まれ始める、という構造でした。
設備は増改築や用途変更によって少しずつ姿を変えていきます。什器の配置が変わり、通路の幅が変わり、設備が更新されます。しかし計画書は、その変化を追いかけて更新されるとは限りません。小さなズレは、平常時には問題になりません。しかし災害時には、そのズレが現場の混乱に直結します。
計画は一度作って終わるものではなく、施設の変化とともに動き続けるものです。
あなたの施設の計画は、最後にいつ、何をきっかけに見直されたでしょうか。
対策の"存在"より"機能"が重要
厚生労働省の調査によれば、介護施設・事業所における自然災害BCPは、策定完了が26.8%、策定中が54.9%、未策定(未着手)が18.3%となっています。半数以上が「策定中」というこの数字は、多くの施設がBCPに向き合い始めていることを示しています。
しかし、このシリーズを通じて見てきたのは、策定率という数字だけでは見えてこない現実でした。書類として存在することと、災害時に機能することの間には、まだ大きな距離があります。その距離を埋められるのは、設備や建物を日常的に知っている人間だけです。
BCPの本質は文書作成ではありません。災害時に組織が継続できる状態を設計することです。
あなたの施設のBCPは、「作られている」計画でしょうか。それとも「機能する」計画でしょうか。
このシリーズを通じて、「自分の仕事が防災につながっていた」と感じた方がいたなら、とても嬉しく思います。防災は特別な誰かだけが担うものではなく、日常を支えている仕事の延長線上にあります。そして、その日常を最もよく知っている人間こそが、組織の継続性を支える力になります。
施設を知る人間が、備えを設計する。
次回
次回からは、第4シリーズ「施設別BCPシリーズ」が始まります。
これまでの2つのシリーズでは、災害の振り返りと、施設管理という横断的な視点からBCPを考えてきました。しかし実際には、病院、特別養護老人ホーム、障害者支援施設、グループホーム、訪問介護・居宅系サービスでは、BCPが抱える課題の質そのものが異なります。
第4シリーズでは、施設種別ごとに固有の課題を掘り下げたうえで、災害種別ごとの避難行動計画との整合性、施設規模による設計の違いを見ていき、最後に施設種別を超えて共通する本質へとつなげていきます。
「施設によって、BCPの"難しさ"は違う」。次回はそこから始めたいと思います。
参考資料
本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。
・業務継続に向けた取組の強化等(改定の方向性)|厚生労働省老健局(社会保障審議会介護給付費分科会 第232回 資料3)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001171211.pdf
