なぜ、BCPが必要なのか?[1-1]
"作って終わり”になる前に知っておきたいこと"
あなたの組織のBCP、実際に使ったことがありますか?
ある組織では、BCPも災害対策マニュアルも一通り整備され、定期的な訓練も行われていました。外形的には「備えはできている状態」と評価されていたはずです。
しかし実際に想定外の対応が重なる場面になると、現場の動きは止まりました。
「この状況は想定内なのか」
「誰が最終判断をするのか」
「どの業務を優先すべきか」
特に、組織のリーダー(病院長や理事長など最終判断を担う人)が夜間帯や出張などで不在の場合、「誰が決めるのか」が曖昧になり、初動対応が止まる場面は少なくありません。
こうした状況で問題になるのは、人手や設備が足りないことだけではありません。判断そのものが滞ることで、組織全体の動きが止まってしまうことです。
「持っている」ことと、「使える」こと
厚生労働省が2018年に実施した「病院の業務継続計画(BCP)策定状況調査」調査では、全病院のBCP策定率は25.0%にとどまっていました。策定が義務に近い扱いを受けている災害拠点病院でも71.2%であり、それ以外の一般病院では20.1%という結果でした。
つまり、災害拠点病院という「最も備えが求められる立場」の施設でさえ、当時3割近くがBCPを持っていなかったということです。策定していた施設についても、実際にどこまで機能する内容だったかは別の問題です。
介護・福祉分野でも状況は近く、2024年の義務化直前の調査では、自然災害BCPの「策定完了」は27.0%にとどまり、「策定中」を含めても8割強という水準でした。制度が整い、義務化が進んでも、「使える状態にあるか」はまた別の話だということが、この数字からも見えてきます。
あなたの施設のBCPは、実際に使われる場面を想定して作られているでしょうか。
BCPが形骸化する3つの構造
BCPを作成しているにもかかわらず、実際の災害時には十分に機能しない組織は少なくありません。その背景には、個別のミスではなく、いくつかの共通した構造があります。
一つ目は、「作ること自体が目的化すること」です。計画書の完成や監査対応が重視され、実際の運用や判断のプロセス設計が後回しになりがちです。
二つ目は、「想定の前提が現実とずれること」です。人員、設備、通信などが通常通り使える前提で作られた計画は、非常時にはそのまま機能しません。
三つ目は、「意思決定の構造が設計されていないこと」です。厚生労働省のガイドラインでも、BCP作成の最初のポイントとして「全体の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決めておくこと(誰が、いつ、何をするか)」が挙げられています。逆に言えば、ここが曖昧なままの計画は、形式上は整っていても、現場は”判断待ち”の状態に陥りやすいということです。
あなたの施設のBCPには、「誰が、何を基準に決めるのか」が具体的に書き込まれているでしょうか。
BCPは”手順書”ではなく”意思決定の地図”
内閣府の「事業継続ガイドライン」では、BCPを「不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画」と定義しています。
ここで重要なのは、BCPが単なる作業手順書ではないという点です。実務的にはBCPとは、「どの状況で、誰が、何を優先して決めるか」を事前に整理したものに近いものです。
災害時や緊急時において重要なのは、完璧な判断ではなく、一定の基準に基づいた迅速な判断です。その基準が共有されているかどうかが、組織の初動対応を大きく左右します。
厚生労働省のガイドラインが「一般的には3日間を乗り切ることができれば、外部からの何らかの支援を受けることができる」としているように、勝負が決まるのは最初の3日間です。この期間の判断の質を、平時のうちにどれだけ設計できているかが問われます。
あなたの施設の最初の3日間は、誰が、何を基準に動かす想定になっているでしょうか。
BCPは”備え”であると同時に、「組織が非常時にどう動くか」を設計するための仕組みです。そしてその仕組みがなければ、どれだけ人や設備が整っていても、現場は一時的に機能不全に陥ります。
策定率の数字が示しているのは、特定の施設だけの課題ではありません。BCPの世界には「①事業を理解する→②準備・検討する→③策定する→④文化として定着させる→⑤テスト・維持更新する」という循環的な考え方があり、はじめから完璧な計画を目指すのではなく、この循環を回し続けることが実効性につながるとされています。作った瞬間から、BCPは少しずつ現実とずれ始めます。
次回
次回は、「BCPが存在していても現場で機能しない組織に共通するポイント」について、もう少し踏み込んで整理していきます。
あなたの施設で、夜間に最終判断を下せる人は、今この瞬間、だれですか?
