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施設の種別を超えて、BCPに共通する本質[4-9]

ここまで8回にわたり、施設種別ごとのBCPの違いを見てきました。

病院、特別養護老人ホーム、障害者支援施設、グループホーム、訪問介護。さらに、避難確保計画や施設規模の違いについても考えてきました。

それぞれの施設には、異なる制度があります。異なる人員配置基準があります。利用者の生活する場所も、職員の配置も、災害時の課題も異なります。

しかし、全9回を通じて、繰り返し確認してきたことがあります。それは、BCPは「施設種別」という名前だけでは設計できないということです。

同じ特別養護老人ホームであっても、規模や人員配置、他施設との連携状況が違えば、災害時の課題は変わります。同じ病院であっても、求められる機能や地域における役割が違えば、BCPの設計は変わります。

制度上の分類は、BCPを考えるための出発点です。しかし、それだけで完成するものではありません。

では、これまでの8回を通じて見えてきた、BCPに共通する本質とは何でしょうか。


制度の数字は、一般論ではなく出発点になる

このシリーズでは、さまざまな制度上の数字や基準を取り上げてきました。例えば、特別養護老人ホームでは、夜勤職員の配置基準が利用者数に応じて定められています。25人以下の場合と、101人以上の場合では、求められる夜勤職員数が異なります。障害者支援施設でも、施設入所支援の利用者数に応じて人員配置の基準が定められています。グループホームでは、夜間に職員が常時配置されていない巡回型の体制が制度上あり得ます。

これらの数字や基準は、単なる制度の知識ではありません。「災害時に、今の人員で何ができるのか」を考えるための、具体的な出発点になります。

平時の制度は、一定のサービスを提供するための最低限の条件を定めています。しかし、災害時には、その最低限の人員がさらに減る可能性があります。職員自身が被災する。道路が通行できない。公共交通機関が停止する。家族の対応が必要になる。こうした状況では、制度上の配置基準を満たしている平時の体制が、そのまま災害時にも維持できるとは限りません。

だからこそ、BCPでは制度上の数字を確認したうえで、そこから自施設の現実に置き換える必要があります。「基準上は何人必要か」だけでなく、「その人数から何人減ったら、どの機能が維持できなくなるのか」。この問いに具体的に向き合うことが重要です。

自施設のBCPは、制度上の人数を確認したところで止まっていないでしょうか。


施設が違えば、脆弱性の形も変わる

このシリーズでは、施設種別ごとに異なる構造を確認してきました。介護・障害福祉分野では、BCP未策定減算という制度的な圧力が導入されています。一方、病院では、災害BCPやサイバー攻撃BCPなど、目的の異なる複数のBCPが存在することがあります。同じ「BCP」という言葉でも、制度上の位置づけから異なります。

特別養護老人ホームでは、夜勤職員の配置基準が利用者数に応じて変化します。障害者支援施設では、利用者数が増えたときの人員増加の仕組みが異なります。グループホームでは、夜間に職員が常時配置されない体制が制度上存在します。訪問介護では、そもそも利用者が一つの建物に集まっていません。避難確保計画では、水害、土砂災害、津波が対象となる一方、地震はその対象に含まれません。施設規模を見ても、小規模施設では他施設への依存が、大規模施設では少数の職員への機能集中が、異なる形で現れる可能性があります。

これらは、単なる施設種別の違いではありません。災害時に、何が失われると機能が止まるのかという違いです。利用者が建物内にいるのか、地域に分散しているのか。夜間に職員が常時いるのか、巡回によって対応するのか。本体施設との連携を前提としているのか、単独で機能するのか。特定の職員に機能が集中しているのか。施設の制度や構造によって、BCPが向き合うべき脆弱性は変わります。

だからこそ、他施設のBCPや一般的なひな形をそのまま移植するだけでは、自施設の課題を捉えきれない可能性があります。

自施設の「災害時に機能が止まるポイント」は、どこにあるでしょうか。


BCPは、制度と現実の間を埋める設計である

BCPを作成するとき、最初から完璧な計画を作ろうとする必要はありません。まず確認すべきなのは、自施設がどのような制度上の位置づけにあるのかです。どの人員配置基準が適用されるのか。どの災害に対して、どの計画の作成義務があるのか。どの施設や機関との連携を前提としているのか。どの機能が特定の職員に依存しているのか。こうした条件を確認します。

そのうえで、平時の制度上の体制と、災害時に実際に確保できる可能性のある体制を比較します。ここに、BCPの設計があります。

制度は、施設の最低限の構造を示します。しかし、災害時に実際に動くのは、制度そのものではありません。その施設にいる職員です。その建物です。その地域の道路や通信です。そして、その時点で確保できる人員と資源です。

だからこそ、BCPは制度を無視して作ることもできません。反対に、制度を満たしていることだけで、機能するBCPになるわけでもありません。制度上の基準を確認し、そこから自施設の現実に置き換える。「平時はできること」と「災害時にもできること」を分けて考える。そして、できなくなる可能性がある機能について、代替手段や優先順位を考える。この作業が必要になります。

制度上の基準と、実際の現場の条件との間にある差を、具体的に把握できているでしょうか。

施設の種別を超えて、BCPに共通するもの

全9回を通じて、施設種別ごとの違いを見てきました。しかし、最終的に共通しているのは、BCPの「様式」ではありません。共通しているのは、設計の姿勢です。

まず、自施設の制度上の位置づけを確認する。次に、平時の人員、建物、設備、連携体制を確認する。そして、災害によって何が失われる可能性があるのかを考える。そのうえで、今ある条件の中で、何を優先し、どこまでサービスを継続するのかを決める。この順番は、施設種別が変わっても大きくは変わりません。

ただし、確認する内容は変わります。特別養護老人ホームでは、夜勤体制が重要になります。グループホームでは、夜間の職員配置の構造が重要になります。訪問介護では、利用者が地域に分散していることが重要になります。病院では、複数の目的を持つBCPの関係を整理する必要があります。避難確保計画の対象施設では、制度が対象とする災害と対象外の災害を区別する必要があります。小規模施設では他施設への依存を、大規模施設では機能の集中を確認する必要があります。

施設が違えば、確認すべき条件は変わります。だからこそ、同じひな形を使うこと自体が問題なのではありません。問題は、ひな形を自施設の現実に置き換えないまま、完成した計画として扱ってしまうことです。施設の種別を超えて共通するのは、ひな形をそのまま使うのではなく、自施設の制度的な位置づけと現実の条件を確認するところから始める、という姿勢そのものです。


BCPは、作成した時点で完成するものではありません。施設の人員が変われば、建物の状況が変われば、連携先が変われば、見直す必要があります。そして、訓練によって実際に動かしてみることで、計画と現実の差が見えてきます。

このシリーズで繰り返してきた「同じBCPという言葉でも、施設が違えば中身は別物になる」という言葉は、単なる施設種別の違いを表すものではありません。制度、施設、職員、利用者、地域。それぞれの条件が違うからこそ、必要なBCPの形も変わります。

重要なのは、どこかにある完成されたBCPを探すことではありません。自施設の条件を確認し、制度上の基準を出発点にして、災害時に何ができるのかを考え直すことです。その作業を繰り返すことが、BCPを「作った計画」から「機能する計画」へ変えていきます。

全9回のシリーズは、今回で完結します。ここまで扱ってきた内容が、施設の種別や規模の違いを確認しながら、自施設のBCPを見直すきっかけになれば幸いです。


次回

次のシリーズでは、また別の角度から、災害対応やBCPを「計画を実際に動かす」という視点で考えていきます。


参考資料

・医療法(昭和23年法律第205号)|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

・災害時における初期救急医療体制の充実強化について(平成8年5月10日健政発第451号)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/0901/h0116-3.html

・指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039

・指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第172号)|e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000100172_20230401_504M60000100159

・指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100034

・令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html

・要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き(洪水、雨水出水、高潮、土砂災害、津波)|国土交通省水管理・国土保全局(令和4年3月)
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/jouhou/jieisuibou/pdf/tebiki.pdf