車いす・歩行器・装具は「できないことの証明」ではない──肢体不自由のある子どもの補助具を、活動と参加から考える
「まだ少し歩けるのに、車いすを使ってよいのでしょうか」
「歩行器に頼ると、自分で歩く力が弱くなりませんか」
「装具を着けると、筋肉を使わなくなるのではないでしょうか」
「補助具を使うことは、将来の可能性を諦めることにならないでしょうか」
肢体不自由のある子どもの補助具について考えるとき、保護者や先生はさまざまな迷いを抱えます。
車いすを使い始める。
歩行器を導入する。
下肢装具を装着する。
座位保持装置を使う。
こうした選択は、子どもの身体機能だけでなく、生活のしかたや将来像に関わるものとして受け止められます。
特に、
できるだけ自分の身体だけで動いた方がよい
補助具を使い始めると、身体機能が低下する
車いすは歩けなくなってから使うもの
という考え方は、現在も根強く残っています。
しかし、補助具は「できなくなった後に仕方なく使う物」とは限りません。
移動に使う体力を抑え、授業や遊びに参加する。
自分で行き先を選ぶ。
姿勢を安定させ、手や視線を使う。
関節への負担を減らす。
家族や介助者だけに頼らず、地域へ出かける。
スポーツへ参加する。
補助具は、子どもの身体機能を補うだけでなく、子どもの活動と参加、自己決定を広げるための環境です。
Season 1「肢体不自由編」では、姿勢、筋緊張、関節可動域とストレッチについて取り上げてきました。
第10回となる今回は、車いす、歩行器、装具などの補助具について、
なぜ使うのか
身体機能を低下させないか
歩ける子どもが車いすを使ってよいのか
どのように選び、見直せばよいのか
家庭・学校・スポーツで何を確認すべきか
を、活動と参加の視点から考えます。
補助具とは何か
補助具とは、身体機能や生活上の活動を補い、本人が安全かつ主体的に生活へ参加するために使用する道具です。
肢体不自由のある子どもが使用する物には、たとえば次のようなものがあります。
手動車いす
電動車いす
介助用車いす
バギー
歩行器
クラッチや杖
短下肢装具
長下肢装具
体幹装具
座位保持装置
立位保持装置
移乗用リフト
入浴や排泄の補助具
スイッチや視線入力装置
スポーツ用車いすや競技用補助具
道具の種類や形は異なりますが、共通する目的は、
本人の身体を一般的な動作へ近づけること
だけではありません。
本人が何をしたいのか、そのためにどのような支援が必要か
を考え、身体と環境の間を調整することです。
WHOは補助機器を、生活機能を維持・改善し、健康、幸福、包摂、参加を支える製品として位置づけています。また、機器そのものを渡すだけでなく、本人の評価、適合、訓練、フォローアップを含むサービスが必要です。
補助具の目的は「動作を代わりに行うこと」だけではない
補助具というと、自分でできない動作を道具に代行させるイメージがあります。
しかし、補助具の役割はそれだけではありません。
活動を可能にする
歩行器を使うことで、教室から体育館まで移動できる。
車いすを使うことで、校外学習に参加できる。
装具を使うことで、立位や歩行を安定させられる。
座位保持装置を使うことで、手を動かせる。
疲労を調整する
短距離は歩けても、長距離では強く疲れる子どもがいます。
車いすを併用することで、移動後の授業、遊び、スポーツに使う体力を残せます。
安全性を高める
転倒の危険を減らす。
関節や皮膚への負担を分散する。
介助者と本人の双方にとって、安全な移乗を可能にする。
自己決定を広げる
電動車いすを使って、自分で行き先を選ぶ。
歩行器を使って、興味のある場所へ近づく。
手動車いすを操作して、友達と同じ速度で移動する。
社会との接点を増やす
学校、買い物、地域活動、旅行、スポーツなど、家庭外の活動へ参加しやすくなります。
このように、補助具の効果は「何メートル歩けたか」だけでは測れません。
誰と、どこへ行けるようになったか
どの活動へ参加できたか
本人が何を選べるようになったか
を見る必要があります。
「自分の身体だけで行うこと」が最も自立しているとは限らない
補助具を使わず、一人で動作を完了できることは、一つの自立です。
しかし、それだけが自立ではありません。
たとえば、子どもが教室から体育館まで歩けるとします。
ただし、移動に20分かかり、到着時には疲れて体育へ参加できない状態だったらどうでしょうか。
車いすを使えば5分で移動し、体育の活動へ30分参加できるかもしれません。
この場合、
全行程を自分の脚で歩く
車いすを使って活動へ参加する
のどちらが、本人の生活上の自立や参加を広げているでしょうか。
答えは、本人の目標や身体状態、場面によって異なります。
自立には、
自分で動作する
道具を選ぶ
必要な支援を依頼する
介助方法を伝える
移動先を決める
疲れたときに休憩する
複数の方法を使い分ける
という形もあります。
補助具を使うことは、自立を諦めることではありません。
自分に必要な方法を選び、生活を組み立てることも自立です。
歩ける子どもが車いすを使ってもよいのか
結論として、歩行が可能な子どもでも、必要な場面で車いすを使用することがあります。
歩行能力は、
歩ける
歩けない
の二つに分けられるものではありません。
短距離なら歩ける
室内や家の中では歩けても、学校や地域での長距離移動は難しい場合があります。
条件によって歩行能力が変わる
平らな床では歩けるが、坂道や不整地では難しい。
朝は歩けても、午後には疲れて歩きにくい。
静かな場所では歩けるが、人の多い場所では危険が増える。
歩行後の活動に影響する
歩くことはできても、移動にすべての体力を使い、その後の学習、食事、遊び、スポーツへ参加できなくなる場合があります。
安全性に課題がある
転倒が多い。
集団移動の速度についていけない。
介助者が常に身体を支えなければならない。
こうした場合、車いすは歩行を否定する物ではありません。
歩行と車いすを場面によって使い分けることができます。
理学療法では歩行練習を行い、学校行事では車いすを使う。
教室内は歩行器で移動し、校外では車いすを使う。
短距離は歩き、疲れたら車いすへ切り替える。
一つの移動方法だけに限定する必要はありません。
NICEは、脳性麻痺のある子どもの生活参加を支えるうえで、車いすや移動支援機器、交通手段を含め、家庭・学校・地域の物理的環境へのアクセスを継続的に評価するよう求めています。
車いすを使うと歩く力が落ちるのか
この疑問には、単純な「はい」「いいえ」で答えることはできません。
身体活動の機会が大きく減れば、筋力や持久力へ影響する可能性はあります。
しかし、それは車いすそのものが原因とは限りません。
車いすを導入したことで、
外出が増えた
学校へ通いやすくなった
体育やスポーツへ参加できた
自分で車いすを操作する機会が増えた
立位や歩行練習へ疲れずに取り組めた
のであれば、生活全体の活動量が増えることもあります。
反対に、「歩く力を維持するため」と車いすを使用せず、
外出を避ける
行事へ参加しない
移動後に疲れて動けない
常に大人が抱えて移動する
状態になれば、本人の活動と参加が狭くなる可能性があります。
大切なのは、
車いすを使うか、歩くか
という二者択一ではありません。
どの場面で、どの方法を使えば、身体活動と生活参加の両方を確保できるか
を考えることです。
車いすには複数の役割がある
車いすは、単なる「座った状態で運ばれる道具」ではありません。
移動手段
本人が手や足で操作する手動車いす、スイッチやジョイスティックで操作する電動車いす、介助者が操作する車いすなどがあります。
姿勢を支える環境
座面、背もたれ、足台、ヘッドサポート、クッション、ベルトなどによって、本人の姿勢を支えます。
活動の基盤
机上活動、食事、コミュニケーション、スポーツなどを行う場所になります。
自己決定を支える手段
特に自走式や電動車いすでは、本人が、
近づく
離れる
止まる
方向を変える
人や場所を選ぶ
ことができます。
したがって、車いすを評価するときに見るべきなのは、移動速度だけではありません。
自分で操作できるか
周囲を見られるか
手を使えるか
呼吸しやすいか
痛みがないか
必要な場面へアクセスできるか
本人の意思が反映されるか
を確認します。
電動車いすは「最後の手段」ではない
電動車いすについて、
手動車いすを操作できなくなってから使うもの
一人で歩けなくなってから検討するもの
認知的にすべて理解できる子どもだけが使うもの
と考えられることがあります。
しかし、電動移動は、身体的な移動手段だけでなく、発達、探索、遊び、コミュニケーションにも関係します。
RESNAの小児用電動移動機器に関する見解では、年齢、短距離歩行が可能であること、手動車いすを一部操作できること、視覚・認知・行動上の課題があることだけを理由に、電動移動の検討対象から除外すべきではないとされています。適切な評価と練習機会のもとで、早期の電動移動が参加、機能、自立、心理社会的発達を支える可能性が示されています。
電動車いすの導入では、
操作方法
視覚・聴覚
周囲への注意
危険への対応
姿勢
使用環境
介助者の理解
保管や充電
学校や家庭の動線
などを評価します。
最初から完全に安全に操作できる必要はありません。
子どもは、移動を経験する中で、
進むと何が起こるか
止まるにはどうするか
人や物との距離
自分の行動と結果の関係
を学んでいきます。
もちろん、安全管理は欠かせません。
しかし、「失敗しないこと」を導入条件にすると、移動を学ぶ機会そのものが失われます。
手動車いすは「腕だけ」で操作するとは限らない
手動車いすは、両手で左右のハンドリムを回す方法が一般的です。
しかし、操作方法は一つではありません。
片手と片足を使う
両足で床を蹴る
片手で操作しやすい機構を使う
パワーアシストを利用する
介助者の操作と本人の操作を組み合わせる
などがあります。
本人が短距離だけ自走し、長距離は介助を受けることもできます。
「すべて自分で操作できなければ、自走式を使う意味がない」ということではありません。
自分で少しでも位置を変えられることが、
好きな物へ近づく
友達の輪に加わる
嫌な場所から離れる
競技位置を調整する
といった自己決定につながる場合があります。
バギーと車いすは何が違うのか
子どもの移動には、福祉用バギーと呼ばれる機器が使われることがあります。
製品や制度上の分類はさまざまですが、一般にバギーは介助者が押すことを中心とした構造で、折りたたみや移動のしやすさを重視したものがあります。
一方、車いすは、
本人による操作
個別の姿勢保持
長時間の活動
テーブルや機器との組み合わせ
車いす上での生活
などを重視した設計が可能です。
ただし、どちらが優れているということではありません。
バギーが適する可能性がある場面
家族が公共交通機関や自家用車で頻繁に移動する
折りたたみや持ち運びが重要
短時間の外出が中心
介助者による移動が基本
車いすが適する可能性がある場面
学校や家庭で長時間使用する
本人が自分で操作する
個別の姿勢調整が必要
机上活動やスポーツへ使用する
電動機能が必要
本人の身体状態だけでなく、使用する場所、時間、家族の生活、移動方法を含めて検討します。
歩行器は「歩行練習の道具」だけではない
歩行器には、身体を支えながら立位や歩行を行う役割があります。
形状にはさまざまな種類があります。
前方支持型
後方支持型
体幹や骨盤を支持するタイプ
前腕で支持するタイプ
車輪付き
歩行速度を制御する機構付き
歩行器の目的は、きれいな歩行フォームを練習することだけではありません。
自分で移動する
立位で周囲を見る
人や物へ近づく
身体活動の機会を増やす
学校や遊びへ参加する
下肢へ荷重する
などの目的があります。
歩行器を使うと依存するのか
歩行器が適切に調整されていれば、本人が自分の身体を使いながら移動できる場合があります。
一方、身体に合っていない歩行器では、
腕へ過度に体重をかける
身体が前方へ倒れる
足を動かしにくい
速度を制御できない
疲労や痛みが増える
転倒の危険が高まる
可能性があります。
問題は、歩行器を使うこと自体ではありません。
本人の目的、身体、環境へ適合しているかです。
歩行器で歩けることと、生活で使えることは同じではない
リハビリテーション室では歩行器を使えるものの、学校では使用できないことがあります。
理由として、
廊下が混雑している
段差がある
移動速度が集団に合わない
荷物を持てない
保管場所がない
教員が介助方法を知らない
疲れた後の対応が決まっていない
などがあります。
この場合、「練習不足」と決めつけるのではなく、環境を確認します。
使用する時間帯を変える
移動距離を限定する
車いすと併用する
荷物を別の方法で運ぶ
人の少ない動線を選ぶ
休憩場所を決める
といった調整が考えられます。
補助具の機能は、道具単体では決まりません。
本人、補助具、活動、環境の組み合わせによって変わります。
杖やクラッチは、左右対称に使うとは限らない
杖やクラッチは、身体を支え、バランスを補い、下肢への負担を調整するために使用します。
一本で使う場合もあれば、両側で使う場合もあります。
どちらの手で持つか、どの高さにするか、どの順序で動かすかは、身体状態と目的によって異なります。
自己判断で高さや使用方法を変更すると、
肩や手首への負担
姿勢の崩れ
転倒
歩行効率の低下
につながる可能性があります。
成長によって高さが合わなくなるため、定期的な見直しが必要です。
装具とは何か
装具とは、身体の一部へ装着し、関節や身体を支えたり、動きを補助・制御したりする道具です。
下肢装具には、
足部を支えるもの
足関節を含むもの
膝関節まで含むもの
股関節や骨盤まで支えるもの
などがあります。
上肢や手指、体幹へ使用する装具もあります。
装具の目的は一つではありません。
関節の位置を保つ
足部を安定させる
立位や歩行を行いやすくする
つまずきを減らす
拘縮の進行を抑える
痛みを軽減する
手を使いやすい位置へ支える
術後の身体を保護する
などです。
同じように見える装具でも、設計や目的は異なります。
他の子どもが使っている装具を見て、自分の子どもにも同じ物が適しているとは判断できません。
装具を着けると筋肉が弱くなるのか
装具によって関節の動きを制御すると、使う筋肉や動作方法が変化することがあります。
しかし、それだけで「装具を使うと必ず筋力が低下する」とは言えません。
装具によって、
立位時間が増える
歩行距離が延びる
転倒が減る
活動へ参加しやすくなる
疲労を抑えられる
のであれば、身体を使う機会が増える可能性があります。
一方で、目的が不明確なまま長時間使用したり、身体に合わない装具を使ったりすると、
動きにくい
痛い
皮膚が傷つく
特定の筋肉を使いにくい
活動を避ける
ことがあります。
装具について考えるときは、
筋肉を使っているかどうか
だけでなく、
装具によって、本人の活動全体がどのように変わったか
を確認します。
NICEは、装具を使用する際には個別の目標を明確にし、痛み、圧迫傷、睡眠への影響、活動への影響など、利益と不利益を継続的に確認することを推奨しています。
装具は「一日中着ける物」とは限らない
装具の使用時間は、目的によって異なります。
学校での歩行時
屋外移動時
立位活動時
夜間
スポーツ時
術後の一定期間
など、使用場面が決められることがあります。
「たくさん着けるほど効果が高い」とは限りません。
長時間装着することで、
皮膚への圧
蒸れ
痛み
睡眠への影響
活動制限
本人の心理的負担
が生じる可能性があります。
医師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士などから、
使用目的
使用時間
着脱方法
中止すべきサイン
靴との組み合わせ
定期点検の時期
を具体的に確認してください。
装具使用時に確認したい皮膚の状態
装具は身体へ直接接触するため、皮膚状態の観察が必要です。
装具を外した後に、軽い赤みが見られることがあります。
しかし、
赤みが長く残る
水ぶくれができる
傷がある
腫れている
強い痛みがある
感覚が普段と違う
足先の色や温度が変化する
場合には、使用を中止し、専門職へ相談してください。
赤みがある部分へ、自己判断で厚いパッドや布を追加すると、別の場所へ圧が集中する可能性があります。
装具を削る、熱を加えて形を変える、ベルト位置を変更することも避けてください。
子どもの成長に合わせて補助具も変える必要がある
子どもの身体は成長します。
身長、体重、骨格、筋緊張、関節可動域、活動内容が変化します。
そのため、一度作った補助具を長期間そのまま使用できるとは限りません。
成長による不適合のサイン
足台へ足が収まらない
膝裏が座面へ強く当たる
車いすの幅が狭い
ベルトの位置が合わない
背もたれが低くなった
装具へ足が入りにくい
靴がきつい
以前より姿勢が崩れる
操作しにくくなった
皮膚トラブルが増えた
定期点検を待たず、変化があれば相談します。
また、身体だけでなく活動も変化します。
幼児期には家族との外出が中心でも、成長すると学校内の自立移動、友達との活動、公共交通機関の利用、スポーツ参加などが重要になります。
身体寸法が合っていても、生活目標に合わなくなっていることがあります。
補助具を選ぶときに確認したい七つの視点
1.本人は何を実現したいのか
補助具を選ぶ前に、生活上の目標を確認します。
教室から体育館へ移動したい
友達と休み時間に遊びたい
自分で家の中を移動したい
家族と旅行したい
地域のクラブへ通いたい
ボッチャで自分の投球位置を調整したい
目標が異なれば、必要な補助具や機能も変わります。
2.どこで使うのか
家庭、学校、地域、屋外、スポーツ会場では、環境が異なります。
通路の幅
段差
坂道
床の材質
エレベーター
トイレ
保管場所
車への積載
公共交通機関
雨天時の使用
を確認します。
道具が身体に合っていても、生活環境で使えなければ参加へつながりません。
3.どのくらいの時間使うのか
短時間の移動か、学校生活の大部分で使用するかによって、必要な姿勢支持や快適性は異なります。
長時間使用する場合は、
圧の分散
姿勢変換
呼吸
皮膚
排泄
食事
疲労
への配慮が重要です。
4.本人が操作や選択に関われるか
補助具を介助者が操作する場合でも、本人が、
行き先を選ぶ
動き始める合図を出す
止まることを伝える
姿勢変更を依頼する
休憩を選ぶ
ことができます。
「自分で操作できないから受動的」と決めつけず、意思決定へ参加できる方法をつくります。
5.家族や支援者が安全に扱えるか
折りたたみ、車への積み込み、移乗、充電、日常点検など、周囲の人が行う作業もあります。
機器が重すぎる、操作が複雑すぎる、保管場所がない場合には、継続使用が難しくなります。
家族や学校職員の負担も含めて評価します。
ただし、家族が扱いにくいからという理由だけで、本人に必要な機能を最初から諦めるのではなく、
リフト
スロープ
移動支援
保管環境
介助方法の研修
なども検討します。
6.身体へ負担がないか
痛み
呼吸
疲労
皮膚
関節
筋緊張
視線
手足の使いやすさ
を確認します。
補助具の目的を達成していても、身体への負担が大きければ調整が必要です。
7.成長や目標の変化に対応できるか
調整可能な範囲、部品交換、修理体制、将来的な機能追加なども確認します。
現在だけでなく、数年後の学校生活や地域参加も考慮します。
車いすは「本人に合わせて選ぶ」だけでは不十分
車いすの支給や購入では、身体寸法を測定し、本人に合う機種を選びます。
しかし、適切な車いす提供には、それ以上の過程が必要です。
RESNAの車いすサービス提供ガイドは、車いすの提供に必要な基本的手順を整理し、本人、家族、医療・福祉職、販売事業者、製造者などが関わる枠組みを示しています。機器選定だけでなく、本人の目標と環境の評価、適合、訓練、フォローアップを含む過程が重要です。
一般的には、次のような流れが必要です。
本人の希望と生活目標を確認する
身体機能と姿勢を評価する
家庭・学校・地域環境を確認する
必要な機能を整理する
候補機器を試す
寸法と部品を調整する
本人と支援者が使用方法を練習する
実生活で使用する
定期的に点検・再評価する
車いすが届いた時点で支援が終了するわけではありません。
実際の生活で使った結果を確認し、調整を続ける必要があります。
試乗では何を見るのか
短時間座ってみるだけでは、その補助具が合っているか判断できません。
可能であれば、実際の活動に近い条件で試します。
車いすの場合
自分で操作できるか
曲がる、止まる、後退できるか
机へ近づけるか
周囲を見られるか
手や視線入力装置を使えるか
身体が滑らないか
疲れたときに姿勢を変えられるか
介助者が安全に操作できるか
車や公共交通機関へ乗せられるか
歩行器の場合
安全に立てるか
足を前へ出せるか
速度を制御できるか
方向転換できるか
疲れたときに止まれるか
学校や家庭の動線を通れるか
装具の場合
痛みがないか
靴と組み合わせられるか
立位や歩行がどう変わるか
着脱できるか
活動後に皮膚トラブルがないか
本人が使用を受け入れられるか
初回だけでなく、一定時間使用した後の反応も重要です。
補助具の使用を本人へどう説明するか
補助具の導入について、大人同士だけで決めないことが大切です。
年齢や理解方法に合わせて、
何のために使うのか
どこで使うのか
どのような選択肢があるのか
使用すると何が変わるのか
嫌なことや不安は何か
を本人と話します。
「歩けないから車いすに乗る」
「姿勢が悪いから装具を着ける」
という否定的な説明ではなく、
体育館までの体力を残すために使う
自分で友達のところへ行けるようにする
足を安定させてボールを投げやすくする
というように、本人の活動目標と結びつけます。
NICEは、脳性麻痺のある子どもと家族を意思決定の中心に置き、補助具を含む情報を分かりやすく継続的に提供するよう求めています。
補助具を使うことへの子どもの気持ち
補助具は活動を広げる一方で、本人が複雑な感情を持つことがあります。
周囲と違って見える
注目されたくない
友達から質問される
車いすを使うと、歩けないと思われる
装具の見た目が気になる
好きな服や靴を選びにくい
大人に使用を強制されていると感じる
補助具を使うことが医学的・機能的に有効でも、本人の心理的・社会的な経験を無視してはいけません。
選べる部分を増やす
色やデザイン
使用する場面
声をかけられたときの説明方法
カバーやバッグ
学校での置き場所
使用開始のタイミング
など、本人が選べる部分をつくります。
ただし、見た目の希望と安全性が両立しない場合には、理由を説明し、代替案を検討します。
「かわいそうだから使わせない」という判断にも注意する
車いすや装具を使うことで、周囲から障がいが見えやすくなる場合があります。
そのため、大人が、
車いすに乗せるとかわいそう
装具を見られると本人が傷つく
できる限り普通に見えるようにしたい
と考えることがあります。
しかし、補助具を使わないことで、
移動できない
外出できない
活動から遅れる
常に大人に抱えられる
疲労や痛みが増える
のであれば、その選択が本人の生活を狭める可能性があります。
重要なのは、周囲からどう見えるかだけではありません。
本人は、補助具を使うことで何を得るのか
何を負担に感じているのか
どのように社会環境を変えられるか
を考えます。
補助具を隠すことよりも、周囲が自然に受け入れられる環境をつくることが必要です。
学校で補助具を使うときに確認したいこと
学校では、授業だけでなく、登下校、移動、給食、トイレ、行事、避難など、さまざまな場面で補助具を使用します。
動線
教室
体育館
特別教室
トイレ
校庭
スクールバス
避難経路
を実際に確認します。
保管・充電
電動車いすや機器の保管場所、充電方法、鍵や電源の管理を決めます。
介助方法
移乗、折りたたみ、ブレーキ、ベルト、足台などの扱いを関係職員が共有します。
本人の自己決定
教員の都合だけで、歩行と車いすを切り替えないようにします。
体調と活動目的を踏まえ、本人へ確認します。
緊急時
災害や火災時に、誰がどのように避難を支援するかを決めます。
本人の補助具を残して避難した場合、その後の移動手段をどう確保するかも検討が必要です。
NICEは、家庭、学校、医療機関、職場、地域などの物理的環境へのアクセスを見直し、車いす、移乗機器、交通、トイレ・更衣設備を含めて機能的参加を支えるよう推奨しています。
体育では「補助具を外して運動する」とは限らない
体育や運動では、
身体を鍛える時間だから、補助具を外した方がよい
と考えられることがあります。
しかし、補助具を使うことで参加できる活動もあります。
歩行器でコースを移動する
車いすでボールを運ぶ
装具を着けて立位活動を行う
座位保持装置で上肢を使う
競技用車いすを操作する
補助具を使う活動と、補助具を外して行う運動を目的に応じて組み合わせます。
重要なのは、
何を経験してほしいのか
どの方法なら安全か
本人はどう参加したいか
疲労や痛みがないか
を明確にすることです。
スポーツ用の補助具は日常用と同じとは限らない
スポーツでは、競技特性に合わせた車いす、装具、座位、ランプなどが使用されます。
日常生活で使いやすい設定が、競技動作に最適とは限りません。
ボッチャの場合
投球時の安定性
腕や足の動かしやすさ
視線
投球方向への重心移動
ボールへ手が届くか
ランプや競技アシスタントとの位置関係
などを確認します。
身体を強く固定すると安定しますが、投球に必要な動きが制限されることがあります。
反対に支えが少なすぎると、投球前に姿勢が崩れます。
車いす競技の場合
操作性
加速
方向転換
接触時の安全
身体の固定
競技規則
などを考えます。
競技用具は、ルールやクラス分けとの関係もあるため、競技団体や指導者へ確認します。
競技用具に身体を合わせすぎない
競技成績を高めるために、身体を強く固定したり、きつい装具を使ったりすることがあります。
しかし、短時間の競技動作が改善しても、
痛み
皮膚トラブル
呼吸制限
関節への負担
競技後の強い疲労
が生じるのであれば、長期的には見直しが必要です。
競技用補助具についても、
安全性
再現性
本人の快適性
試合を通した持続性
本人の意思
競技規則
を確認します。
補助具を「いつ卒業するか」だけで評価しない
子どもが補助具を使い始めると、
いつ車いすを卒業できますか
いつ装具なしで歩けますか
いつ歩行器を外せますか
と尋ねたくなることがあります。
補助具を使わずに活動できるようになることが、本人の目標となる場合はあります。
しかし、補助具を使い続けることが失敗とは限りません。
眼鏡を使って文字を読むことを「眼鏡から卒業できなかった」とは通常捉えません。
必要な道具を使い、生活を広げること自体に価値があります。
評価したいのは、
補助具が不要になったか
だけではなく、
本人がより多くの活動へ参加できたか
自分で選べることが増えたか
痛みや疲労が減ったか
安全に移動できたか
家族や介助者の負担が適切になったか
です。
補助具が合っていない可能性を示すサイン
次のような変化がある場合は、使用方法を我慢して続けず、専門職へ相談してください。
車いす・座位保持装置
身体が前方へ滑る
片側への傾きが強くなった
頭部を保ちにくい
足が足台から外れる
ベルトが食い込む
呼吸しにくそう
手や視線を使いにくい
皮膚に赤みや傷がある
車いすを強く嫌がる
操作しにくくなった
歩行器・杖
転倒が増えた
速度を制御できない
肩や手首が痛い
足を前へ出しにくい
身体が器具から離れすぎる
高さが合っていない
疲労が以前より強い
装具
足が入らない
痛みがある
赤みが長く残る
水ぶくれや傷ができる
足先の色が変わる
靴が履けない
歩行や立位が以前より難しい
ベルトや留め具が破損している
急な身体機能の変化や痛みがある場合は、補助具だけでなく、身体状態の評価も必要です。
日常的にできる点検
補助具は定期的な専門点検に加えて、日常の確認も必要です。
使用前
ブレーキが効くか
タイヤに異常がないか
ネジや部品が緩んでいないか
クッションや座面が正しい位置か
ベルトや足台が破損していないか
電動機器の充電があるか
使用中
本人が苦しそうではないか
姿勢が大きく崩れていないか
異常な音や振動がないか
操作に問題がないか
使用後
皮膚に赤みや傷がないか
痛みがないか
強い疲労がないか
部品の破損がないか
異常がある場合、自己判断で大きな修理や加工を行わず、納入業者や専門職へ連絡します。
補助具の情報を1枚にまとめる
家庭、学校、放課後等デイサービス、スポーツクラブなど複数の場所で補助具を使う場合、使用方法を簡単なシートにまとめると共有しやすくなります。
補助具使用・連携シート
補助具の名称
例:手動車いす/短下肢装具
使用目的
例:長距離移動時の疲労を抑え、授業へ参加する
使用する場面
例:登下校、校外活動、体育館への移動
本人が自分で行うこと
例:ブレーキ操作、進行方向の指示
必要な支援
例:坂道のみ介助/足台への足の位置を確認
姿勢・装着の確認点
例:骨盤が前へ滑っていない/かかとが装具の奥へ入っている
本人の中止・休憩サイン
例:頭部が右へ傾く/「休む」カードを選ぶ
使用を中止するサイン
例:痛み、皮膚の赤み、呼吸の変化
緊急時の対応
例:電動車いすの主電源と手動切替方法
連絡先
例:保護者、担当PT、納入業者
次回点検予定
医療情報や個人情報を共有する際には、本人・保護者の同意と適切な管理が必要です。
補助具の導入で保護者が罪悪感を抱えないために
補助具の導入を勧められたとき、保護者が、
もっとリハビリを続けていれば必要なかったのではないか
歩かせる努力が足りなかったのではないか
車いすを選ぶことで、子どもの可能性を狭めるのではないか
と感じることがあります。
しかし、補助具が必要になることは、本人や家族の努力不足を意味しません。
身体機能、成長、疾患、生活環境は、努力だけで自由に変えられるものではありません。
補助具を使うことで活動が広がるなら、それは諦めではなく、生活を具体的に前へ進める選択です。
また、一度導入したからといって、すべての場面で同じように使い続ける必要はありません。
身体や生活の変化に合わせて、
使用場面を増やす
減らす
別の機器へ変更する
歩行や立位と組み合わせる
ことができます。
Research Note|補助具の効果を何で評価するのか
補助具の効果を評価するとき、身体機能や移動速度が用いられます。
これらは重要な指標です。
しかし、それだけでは補助具が本人の生活へ与えた価値を十分に捉えられません。
たとえば、車いすを導入した後に歩行距離が減ったとしても、
学校への出席が安定した
友達と休み時間を過ごせた
疲労や痛みが減った
地域のスポーツへ参加した
自分で行き先を選べた
のであれば、生活機能は広がっている可能性があります。
一方、移動速度は上がっても、
姿勢が苦しい
自分で操作できない
家庭の玄関を通れない
学校で保管できない
介助者しか使い方を理解していない
のであれば、生活上の効果は限定されます。
RESNAの車いすサービス提供に関する資料は、車いすを単なる製品としてではなく、本人の目標と環境の評価、機器の選択・適合、訓練、保守、再評価を含む継続的なサービスとして扱っています。
また、NICEは脳性麻痺のある子どもへの情報提供について、機能障がいだけでなく、本人の機能的能力を同程度に重視し、車いすや歩行支援を含む機器へのアクセス方法を説明することを推奨しています。
補助具の成果として確認したいのは、
移動能力
姿勢
疲労
痛み
安全性
本人の操作
自己決定
家庭・学校・地域での参加
本人と家族の満足度
です。
BEABLE Memo|補助具は、身体と世界をつなぐ道具
車いすを使う。
歩行器を使う。
装具を着ける。
それを、できないことの証明として捉えると、補助具は本人の身体を隠したり、補ったりするだけの物になります。
しかし、補助具を使って、
自分で友達へ近づく。
行きたい場所へ移動する。
疲労を抑えて授業へ参加する。
家族と外出する。
スポーツへ挑戦する。
そのような経験が生まれるのであれば、補助具は本人の世界を広げる道具です。
大切なのは、
補助具なしでどこまでできるか
を競うことではありません。
どの方法を使えば、本人が望む生活へ最も関われるか
を考えることです。
補助具を使わないことが自立なのではなく、本人が自分に必要な方法を選べること。
その選択を周囲が支えられること。
そこに、活動と参加を支える補助具の意味があります。
Today’s Perspective
子どもの補助具について考えるとき、次の問いを一つ加えてみてください。
「この道具がなくてもできるかな?」だけでなく、
「この道具があることで、この子は何を選べるようになるかな?」
歩く。
乗る。
立つ。
休む。
近づく。
離れる。
友達と一緒に行く。
本人が選べる方法が増えることも、発達と自立の一部です。
まとめ
車いす、歩行器、装具などの補助具は、できないことを代わりに行うためだけの道具ではありません。
本人の身体と環境の間を調整し、
移動する
姿勢を保つ
手や視線を使う
疲労を調整する
痛みを減らす
自分で選ぶ
学校や地域へ参加する
スポーツを行う
ための道具です。
歩ける子どもが車いすを使うこともあります。
歩行器、杖、車いすを場面によって使い分けることもできます。
補助具の使用と、歩行や身体機能への練習は対立するものではありません。
移動に使う体力を調整することで、その後の活動へ参加しやすくなる場合があります。
また、補助具を使うことが自立を妨げるとは限りません。
本人が、
補助具を選ぶ
操作する
行き先を決める
介助方法を伝える
使用と休憩を選ぶ
ことも、自立と自己決定です。
補助具を選ぶ際には、
本人が実現したいこと
使用する環境
使用時間
身体への負担
本人の操作や意思決定
家族や支援者の扱いやすさ
成長後の変化
を総合的に確認します。
製品を選んで渡すだけでは十分ではありません。
評価、試用、調整、使用方法の練習、実生活での確認、定期的な見直しが必要です。
また、補助具による痛み、皮膚トラブル、姿勢の崩れ、操作性の低下がある場合には、我慢して使用を続けず、医療職、義肢装具士、車いす事業者などへ相談します。
補助具の成果を、
使わずにできるようになったか
だけで評価しないことが大切です。
本人の活動が広がったか。
疲れにくくなったか。
自分で選べることが増えたか。
家庭、学校、地域での参加が増えたか。
その変化から、補助具の価値を考えます。
次回、第11回では、肢体不自由のある子どもの疲労と活動量を取り上げます。
「できるのにやらない」と見える背景に、どのような疲労があるのか。
歩行、車いす、学校生活、スポーツをどのように組み合わせるのか。
活動を増やすことと休むことを、対立させずに考えます。
参考文献・参考資料
World Health Organization. Guidelines on the provision of manual wheelchairs in less-resourced settings. 2008. 現在は新しいWHO車いす提供ガイドラインに引き継がれていますが、評価、適合、訓練、フォローアップを含む車いすサービスの基本的な考え方を示した資料です。
Rehabilitation Engineering and Assistive Technology Society of North America. Position Papers and Service Provision Guidelines. 車いす、座位保持、電動移動などの適用とサービス提供に関する専門的見解。
Rehabilitation Engineering and Assistive Technology Society of North America. Wheelchair Service Provision Guide. 本人の目標と環境の評価から、機器選定、適合、訓練、フォローアップまでの基本的な過程を示すガイド。
Rosen L, et al. RESNA position on the application of power mobility devices for pediatric users. Assistive Technology. 2018;30(1):1–9. 小児の電動移動機器について、年齢や一部の認知・身体的課題だけを理由に適用から除外しないことを示した見解。
National Institute for Health and Care Excellence. Cerebral palsy in under 25s: assessment and management(NG62). 2017, reviewed 2024. 補助具、移動、環境アクセス、本人・家族を中心とした意思決定に関する推奨。
