「向いている競技」より「続けたい活動」を見つける──肢体不自由のある子どものスポーツ選び
「この子には、どんなスポーツが向いているのでしょうか」
「車いすを使っている子どもでもできる競技はありますか」
「水泳とボッチャなら、どちらが身体に合っていますか」
「チームスポーツより個人競技の方が参加しやすいのでしょうか」
「せっかく始めるなら、長く続けられるスポーツを選びたい」
肢体不自由のある子どものスポーツを考えるとき、保護者や支援者からよく聞かれるのが、
「何の競技が向いているか」
という問いです。
身体の動かし方。
筋緊張。
歩行能力。
車いす。
上肢機能。
疲労。
こうした特徴から、適した競技を考えることには意味があります。
しかし、身体機能だけからスポーツを選んでも、必ずしも本人が続けたい活動になるとは限りません。
身体的には水泳が適している。
けれど、水が好きではない。
ボールを正確に操作することは得意。
けれど、一人で黙々と取り組むよりチームで活動したい。
車いすスポーツに参加できる。
けれど、本人は音楽に合わせて踊ることに一番興味を示す。
こうしたことがあります。
スポーツ参加に影響するのは、身体機能だけではありません。
脳性麻痺のある子ども・若者の身体活動参加を調べたレビューでは、運動機能、痛みなどの個人要因だけでなく、家族の支援、周囲の態度、環境、活動機会など複数の要因が相互に関係することが整理されています。PubMed
つまり、
できるスポーツと、続けたいスポーツは同じとは限らない
ということです。
Season 1「肢体不自由編」の第18回では、地域スポーツへ参加し続けるために、競技だけでなく、施設、指導者、送迎、費用、家族生活などを考える必要性を取り上げました。
第19回となる今回は、もう一度「スポーツを選ぶ」というところへ戻り、
身体機能から何を確認するか
本人の「好き」をどう見るか
個人競技とチーム競技
レクリエーションと競技スポーツ
疲労や痛み
車いすや装具などの補助具
水泳、卓球、陸上、ダンス、車いすスポーツ、乗馬、ボウリング、ボッチャなどの特徴
複数のスポーツをどう比較するか
を具体的に整理します。
スポーツ選びに「正解の競技」はない
「脳性麻痺ならこのスポーツ」
「車いすならこの競技」
というように、診断名や移動方法だけから競技を決めることはできません。
同じ脳性麻痺でも、
上肢を自由に動かせる
下肢でボールを操作する
車いすを自走できる
電動車いすを使う
不随意運動が大きい
疲労しやすい
など、身体の状態は大きく異なります。
さらに、
競争が好き
人と一緒に活動したい
自分の記録に挑戦したい
音楽が好き
水が好き
スピードが好き
戦術を考えるのが好き
という本人の好みも異なります。
したがって、スポーツ選びでは、
「この身体に最適な競技は何か」
ではなく、
「この子が楽しみながら続けられる可能性がある活動は何か」
と考える方が現実的です。
スポーツを選ぶときの6つの視点
スポーツを比較するときには、少なくとも次の6つを確認します。
1.興味
本人がやってみたいと思っているか
2.身体
安全に参加できる方法があるか
3.活動の特徴
スピード、正確性、持久力、表現、戦術など、どの要素が中心か
4.人との関わり
一人で取り組むか、仲間と活動するか
5.生活との両立
疲労、移動、学校、家族生活と両立できるか
6.環境
通える場所、指導者、用具、費用が確保できるか
この6つすべてが完璧にそろう競技を探す必要はありません。
大切なのは、
どこが本人に合っていて、どこに調整が必要か
を整理することです。
最初に見るのは「身体」ではなく「興味」
スポーツ選びで、最も先に確認したいのは本人の興味です。
たとえば
水を見ると笑顔になる。
ボールを転がすと何度もやりたがる。
音楽が鳴ると身体を動かす。
車いすを速く動かすのが好き。
勝負になると集中する。
人の動きを見るのが好き。
こうした反応はスポーツ選びの重要な情報です。
「何をやりたい?」だけでは分からないこともある
経験したことのないスポーツを、
何をやりたい?
と聞かれても、子どもは選べないことがあります。
そのため、
写真
動画
実際の用具
体験会
学校体育
地域イベント
などを使って、まず経験を増やすことが重要です。
「水泳」「卓球」「車いすバスケットボール」と競技名を提示するだけでなく、
水の中で動くのと、ボールを打つのと、みんなでゲームするのならどれが楽しそう?
というように、活動の特徴から尋ねる方法もあります。
子どもの「好き」は行動からも分かる
言葉で希望を説明しにくい子どもの場合、
視線
表情
発声
身体の動き
「もう一回」の反応
活動終了時の反応
を観察します。
一度だけ笑ったから好き、と決めるのではなく、複数回経験した中での反応を見ます。
本人の活動目標を起点に、参加障壁へ直接働きかけるParticipate-CPの2026年RCTでは、脳性麻痺児が自ら設定した身体活動を伴う余暇目標に対する参加、地域参加頻度、平均活動強度などが改善し、参加障壁も減少しました。AAP Publications
この結果からも、
「何をできるようにするか」だけでなく、本人が何に参加したいかを起点にすること
の重要性が分かります。
身体機能は「競技を除外するため」ではなく「参加方法を考えるため」に見る
次に身体の状態を確認します。
ただし、
この身体機能ではこの競技は無理
と除外するためだけに見るのではありません。
どの方法なら参加できるか
を考える材料にします。
移動方法
独歩
クラッチ
歩行器
手動車いす
電動車いす
介助移動
などを確認します。
たとえば車いすを使用していても、
車いすバスケットボール
車いすテニス
卓球
ボウリング
ダンス
水泳
アーチェリー
ボッチャ
など、さまざまなスポーツへ参加できます。
日常の移動方法と、競技中の移動方法が同じとも限りません。
上肢機能
物を握れるか
押せるか
引けるか
腕をどの方向へ動かせるか
左右差
反復できるか
を確認します。
しかし、「握れないからラケット競技は無理」とは限りません。
グリップの調整、ストラップ、ラケット形状などで参加方法を変えられる場合があります。
安全な固定方法については、専門職や競技指導者と確認します。
下肢機能
立てる
歩ける
蹴る
ペダルを回す
荷重できる
などを確認します。
下肢を使えるから必ず立位競技を選ぶ必要はありません。
反対に、車いすを使用していても、補助や環境調整によって立位や歩行を取り入れた活動が可能な場合があります。
体幹と姿勢
競技中に、
頭部
体幹
骨盤
をどの程度支えられるかを確認します。
特に、
ラケットを振る
ボールを投げる
車いすを漕ぐ
水中で身体を動かす
ときに、姿勢を保つ努力が大きいと、競技動作そのものへ使える力が減る場合があります。
競技用の座位や支持方法を工夫することで、活動しやすくなることがあります。
筋緊張や不随意運動
緊張すると身体が硬くなる。
速く動こうとすると不随意運動が増える。
時間が経つと姿勢が変化する。
こうした特徴も競技選びに関係します。
ただし、筋緊張があるから特定競技を避けるのではなく、
競技時間
姿勢
ウォームアップ
休憩
用具
によって調整できるかを考えます。
痛み
第12回で取り上げたように、痛みはスポーツ参加を大きく左右します。
身体活動参加に関するレビューでも、脳性麻痺児・若者における参加障壁の一つとして痛みが報告されています。PubMed
たとえば、
肩に痛みがある状態で車いすスポーツを繰り返す
股関節痛がある状態で乗馬を続ける
装具が合っていないまま歩行活動をする
ことは適切ではありません。
一方、痛みがあるからすべてのスポーツを諦める必要もありません。
原因を評価し、活動方法を調整します。
疲労を必ず考える
「その競技ができるか」だけでなく、
競技後に生活を続けられるか
を確認します。
たとえば、30分の水泳には参加できても、
着替えができない
帰宅後に食事が取れない
翌日まで疲労が残る
のであれば、現在の活動量は大きすぎる可能性があります。
スポーツを選ぶ際には、
競技時間
移動
準備
着替え
待機
回復
まで含めて考えます。
呼吸や体温調節
呼吸状態や体温調節に課題がある場合も、競技環境を確認します。
屋外競技
暑熱、寒冷、直射日光。
水泳
水温、呼吸、誤嚥。
長時間競技
水分補給、休憩。
装具や車いすを使う競技
熱がこもらないか。
安全に参加できる条件を医療職や指導者と共有します。
個人競技とチーム競技、どちらがよい?
これも一概には言えません。
個人競技の特徴
たとえば、
水泳
陸上
卓球の個人戦
ボウリング
アーチェリー
乗馬
ボッチャ個人戦
などです。
メリット
自分のペースで取り組みやすい
個人目標を設定しやすい
自分の記録や技能の変化が分かりやすい
活動量を個別調整しやすい
向いている可能性がある子
自分の課題へ集中するのが好き
記録へ挑戦するのが好き
人数の多い環境で疲れやすい
自分のペースで活動したい
チーム競技の特徴
たとえば、
車いすバスケットボール
車いすラグビー
チーム形式のボールゲーム
リレー
ダンスチーム
ボッチャチーム戦
などです。
メリット
仲間とのやり取りが多い
役割を持てる
作戦を考えられる
所属感を得られる
向いている可能性がある子
仲間と活動するのが好き
作戦を考えるのが好き
人との関係が活動のモチベーションになる
勝敗をチームで共有したい
ただし、性格だけで固定する必要はありません。
普段は一人遊びが好きでも、スポーツではチームを楽しむ子どももいます。
「競争が好きか」も重要
スポーツの魅力の一つに競争があります。
しかし、すべての子どもが競争を好むわけではありません。
競争を楽しむ子
勝敗があると集中する
タイムや得点がモチベーションになる
大会へ出たい
競争が負担になる子
負けることへの不安が強い
人と比較されると活動を避ける
自分のペースを好む
どちらが良い・悪いではありません。
スポーツには、競争だけでなく、
遊ぶ
交流する
身体を動かす
技術を覚える
自己記録へ挑戦する
という参加方法があります。
レクリエーションか、競技スポーツか
スポーツ選びでは、
パラリンピックを目指すかどうか
を最初から決める必要はありません。
レクリエーション
目的は、
楽しむ
健康
交流
余暇
新しい経験
です。
週1回でも、月2回でも構いません。
競技スポーツ
技術向上
記録
大会出場
勝敗
などを目標にします。
練習量や用具、遠征が増える可能性があります。
ハイパフォーマンススポーツ
さらに、
全国大会
国際大会
パラリンピック等
を目標にする場合です。
医科学支援、競技計画、栄養、睡眠、コンディショニングなどがより重要になります。
最初はレクリエーションでも、本人が、
もっと上手くなりたい
と思えば競技へ進むことができます。
反対に競技を経験した後、楽しむスポーツへ戻ることもできます。
ここからは、具体的なスポーツを比較してみる
競技の特徴はクラブやルール、本人の参加方法によって変わります。
以下は、あくまでスポーツ選びの入口としての特徴です。
水泳・水中活動
特徴
水の浮力を利用し、陸上とは異なる身体の動かし方を経験できます。
楽しみにつながりやすいこと
水そのものが好き
浮く感覚
自分で進む
水をかける
他者と水中で遊ぶ
身体面で確認したいこと
呼吸
嚥下
てんかん
股関節
体温
疲労
生活面で確認したいこと
更衣
入退水
移乗
プールまでの移動
活動後の疲労
向いている可能性がある子
水そのものを楽しみ、陸上とは異なる身体活動を経験したい子ども。
「泳げるか」だけで判断しません。
卓球
特徴
比較的狭い空間で行え、椅子や車いすからでも参加できます。
楽しみにつながりやすいこと
ボールを打つ感覚
相手とのラリー
素早い反応
得点
一対一の勝負
調整例
大きいラケット
グリップの調整
大きなボール
バウンド回数の変更
台の高さや位置
身体面
上肢
視線
体幹
反応速度
疲労
を確認します。
バドミントン・ラケット遊び
競技としてのバドミントンだけでなく、
風船
ビーチボール
軽量シャトル
を使って入口をつくれます。
特徴
ボールの位置へ手を伸ばす。
相手へ返す。
方向を狙う。
という活動があります。
車いすから参加することもできます。
ボウリング
特徴
競技方法を調整しやすく、家族や友達とも一緒に楽しみやすいスポーツです。
方法
手で投げる
両手で押す
補助台から転がす
介助者と一緒に行う
魅力
倒れる結果が分かりやすい
点数がある
一投ずつ休める
家族と同じ活動を共有しやすい
身体活動量自体は競技によって大きくない場合がありますが、地域参加やレクリエーションとしての価値があります。
陸上
「陸上=走れる子どものスポーツ」ではありません。
歩行
車いす
投てき
など複数の種目があります。
スピードが好きな子
短距離や車いす走。
記録が好きな子
タイムや距離への挑戦。
投げるのが好きな子
投てき種目。
注意点
競技用車いすなど、競技レベルが上がると専用用具や施設が必要になる場合があります。
車いすバスケットボール
特徴
車いす操作
ボール操作
スピード
作戦
仲間との連携
が組み合わさります。
魅力
チームスポーツが好きな子どもにとって、仲間との関係性が大きなモチベーションになります。
確認したいこと
手動車いす操作
上肢負担
体幹
疲労
接触への対応
競技用車いす
などです。
最初から競技用車いすを購入せず、体験用車いすを利用できるクラブもあります。
車いすテニス
特徴
車いす操作とラケット操作を同時に行います。
移動
方向転換
ボールを追う
打つ位置を調整する
など複数の技能が必要です。
魅力
一対一の勝負、自分の技術向上、ラリーを楽しみたい子どもに適する可能性があります。
車いすラグビー
車いす操作、接触、戦術、チームプレーが特徴です。
接触がある競技であり、安全な車いす操作や競技環境が必要です。
身体機能によって競技クラス等の参加条件があるため、実際の参加については競技団体や専門クラブへ確認します。
ダンス・インクルーシブダンス
特徴
身体技能の完成度だけではなく、
音楽
表現
仲間との動き
自己表現
を楽しめます。
参加方法
車いす
歩行器
座位
上肢だけの動き
視線
スカーフ
パートナーとの共同動作
など、多様です。
向いている可能性がある子
音楽や表現、人と一緒に何かをつくることが好きな子ども。
乗馬・パラ馬術につながる活動
特徴
馬という動物との関係と、馬上での姿勢や動きを経験できます。
競技だけでなく、レクリエーションとして乗馬を楽しむ選択肢もあります。
魅力
動物が好き
屋外活動が好き
馬の動きを楽しむ
子どもには大きな動機になることがあります。
確認したいこと
股関節
脊柱
骨密度
発作
姿勢保持
乗降方法
身体状態によって適否が大きく異なるため、医療職と施設双方へ確認します。
サイクリング
自転車だけでなく、
三輪車
ハンドサイクル
タンデム
アダプテッドサイクル
などがあります。
魅力
移動そのものを楽しめる。
スピード感。
屋外へ出られる。
家族と一緒に活動しやすい。
注意
安全な道路環境や専用機器が必要になる場合があります。
アーチェリー・的を狙うスポーツ
特徴
正確性
集中
呼吸
姿勢
戦略
を楽しむ活動です。
速い動きを繰り返すことが苦手でも、集中して狙う活動を好む子どもには魅力があります。
安全管理と専門的な指導が必要です。
ボッチャ
ボッチャも選択肢の一つです。
特徴
距離感
正確性
戦術
相手との駆け引き
があります。
上肢や下肢で投球するだけでなく、競技規則の範囲でランプを使用するカテゴリーもあります。
魅力
身体活動量の大きさだけではなく、
一球ごとの戦術
正確性
相手の配置を読む
個人戦・ペア・チーム
を楽しめます。
ただし、
重度の肢体不自由だからボッチャ
と自動的に結びつけないことが重要です。
水泳やダンス、電動車いすを使った活動など、他の選択肢も本人の希望に応じて検討します。
スポーツ以外の身体活動も選択肢
スポーツ選びというと競技名を探しがちですが、本人が求めているのが競技ではない場合もあります。
公園
水遊び
散歩
ハイキング
ダンス
サイクリング
家族とのボウリング
アウトドア活動
などでも構いません。
WHOは、障がいのある人を含めて身体活動による健康利益を示しており、身体活動は組織化されたスポーツだけに限定されません。世界保健機関
「スポーツをしていない=身体活動がない」と考えないことが大切です。
スポーツ選びで「運動量」だけを比べない
健康のためには身体活動量も重要です。
一方、
たくさん動く競技ほど良い
わけではありません。
水泳とボウリングでは身体的な負荷が違います。
車いすバスケットボールとアーチェリーも異なります。
しかし、スポーツ参加には、
運動量
楽しさ
自己決定
仲間
地域参加
目標
自信
など複数の価値があります。
活動量が少ないスポーツを楽しんでいるなら、健康のための身体活動を別の時間に組み合わせる方法もあります。
本人に必要な運動すべてを、一つの競技へ求めない
たとえばボッチャが大好きな子どもがいるとします。
しかし、ボッチャだけでは本人に必要な有酸素運動量を十分確保できないかもしれません。
その場合、
もっと運動量の高いスポーツへ変える
必要はありません。
ボッチャを楽しみながら、
水泳
車いす移動
サイクリング
運動遊び
医療職から勧められた運動
を別に組み合わせることができます。
一つの競技に、
健康
筋力
持久力
社会参加
楽しさ
競技力
のすべてを求めなくてよいのです。
補助具を使うスポーツをどう考える?
車いす、装具、ラケット固定具、ランプなどを使用する競技があります。
補助具を使うことは、本人の身体能力を隠すことではありません。
第10回で取り上げたように、
本人が活動へアクセスする方法
です。
ただし、日常用の補助具と競技用具は目的が異なることがあります。
日常用車いすと競技用車いす
日常用車いすは、
姿勢
移動
快適性
生活活動
を重視します。
一方、競技用車いすでは、
操作性
加速
方向転換
安定性
競技規則
が重視される場合があります。
最初から購入せず、まずクラブの貸出用具などで体験する方がよいでしょう。
装具を使うか外すか
歩行や立位を伴う競技では、
装具あり
装具なし
で動きが変わることがあります。
どちらが正解かは、
装具の目的
競技動作
痛み
安全性
医療職の指示
によって異なります。
スポーツのためだけに自己判断で装具設定を変えないようにします。
競技分類・クラス分けがあるスポーツ
パラスポーツには、障がいの程度や競技への影響に応じたクラス分けを行う競技があります。
ただし、
障害者手帳がある=その競技の公式大会へ出場できる
とは限りません。
競技ごとに対象となる障がい、クラス分け、参加資格があります。
本格的な競技参加を考える段階では、各競技団体の最新ルールを確認してください。
子どもの性格から競技を決めすぎない
「おとなしいから個人競技」
「社交的だからチーム競技」
という決め方にも注意が必要です。
普段はおとなしい子どもが、試合になると強く自己主張する。
集団が苦手な子どもが、少人数チームでは安心して活動する。
ということがあります。
スポーツという状況で、普段とは異なる一面が出ることもあります。
そのため、予測だけで決めずに体験することが重要です。
一つに絞らなくてよい
子どものスポーツ選びでは、
早く専門競技を決めた方がよい
と考えることがあります。
しかし、最初から一つに絞る必要はありません。
水泳。
卓球。
ダンス。
車いすスポーツ。
ボウリング。
さまざまな活動を経験してみます。
その中で、
水泳は好きだけど大会には出たくない
卓球はもっと上手くなりたい
ダンスは友達とやりたい
という本人の好みが見えてきます。
複数の活動を同時に行ってもよい
たとえば、
週1回は水泳
月2回はボウリング
学校では卓球
家族とサイクリング
という生活もあります。
一つの競技だけを続けることがスポーツ参加ではありません。
ただし、疲労や学校生活とのバランスを確認します。
「向いていない」と判断する前に環境を変える
スポーツを体験したときにうまくできなかった。
それだけで、
この競技には向いていない
と判断しないことが重要です。
確認します。
ボールが重すぎなかったか
距離が遠すぎなかったか
姿勢が合っていたか
用具が本人に合っていたか
説明が分かりやすかったか
疲れていなかったか
初めてで緊張していなかったか
競技が合わないのではなく、最初の設定が合っていなかった可能性があります。
身体活動参加に関するレビューでも、適応された物理環境や周囲の肯定的な態度、家族支援は参加を促進する要因として報告されています。PubMed
一方、「合わない」を認めることも大切
環境を工夫しても、
やりたくない
と本人が感じることがあります。
そのとき、
せっかく用具を用意したから
身体に良いから
と続けさせる必要はありません。
合わない活動を知ることも、スポーツ選びの一部です。
体験後に本人へ聞きたいこと
「楽しかった?」だけだと、答えが「はい・いいえ」で終わります。
少し具体的に聞きます。
何が一番楽しかった?
難しかったのは?
もう一回やりたい?
次は何を変えたい?
試合をしてみたい?
誰と一緒にやりたい?
言葉で答えにくい場合は、写真やカードを使います。
保護者にも聞きたいこと
子どもが楽しんでいたとしても、継続には家庭生活との関係があります。
送迎は可能か
活動後の疲労はどうか
翌日の学校に影響しないか
介助負担は大きすぎないか
費用を継続できるか
兄弟姉妹を含めた生活と両立するか
本人の希望を尊重しつつ、家族の負担を見えないものにしないことが大切です。
スポーツ比較シートをつくる
複数の競技で迷っている場合、感覚だけでなく一度整理すると分かりやすくなります。
スポーツ選び比較シート
項目
水泳
卓球
ダンス
本人の興味
◎
○
◎
身体の動かしやすさ
◎
○
○
疲労
△
○
○
痛み
○
○
○
仲間との関わり
○
○
◎
競争
○
◎
△
移動・送迎
△
◎
○
更衣・介助
△
◎
○
用具
○
◎
◎
費用
△
○
○
本人の「またやりたい」
◎
○
◎
これは点数の高い競技を機械的に選ぶための表ではありません。
本人にとって何を優先したいか
を話し合う材料です。
優先順位は家庭ごと・本人ごとに違う
たとえば、
Aさん
競争が大好き。
送迎は多少遠くても可能。
→ 大会参加できる競技を優先。
Bさん
疲労しやすい。
友達との交流が一番好き。
→ 家の近くで短時間参加できる活動を優先。
Cさん
水が大好き。
更衣介助は必要。
→ 家族と施設が介助方法を調整して水泳へ参加。
同じ「肢体不自由のある子ども」でも、答えは異なります。
「続けたい」を定期的に確認する
スポーツを始めた後も、
続けているから好きなのだろう
とは限りません。
3か月、半年、1年と経つ中で、
楽しい?
もっと上手くなりたい?
試合に出たい?
他のことをやってみたい?
と確認します。
年齢が上がれば、興味も生活も変化します。
小学生と中高生ではスポーツ選びも変わる
小学生では、
楽しさ
多様な経験
家族と参加
基本的な運動経験
が中心になる場合があります。
中高生になると、
同年代の仲間
競技性
自分のアイデンティティ
学校外の居場所
将来も続けられる活動
がより重要になることがあります。
「小さい頃から続けてきたから」だけを理由に、その活動を続けなくても構いません。
スポーツを「将来の余暇」という視点で見る
子どものスポーツ選びでは、
今の身体機能に効果があるか
へ目が向きます。
しかし、
20歳、30歳になったときにも楽しめるか
という視点もあります。
水泳。
卓球。
ボウリング。
ダンス。
サイクリング。
地域のフィットネス。
競技レベルが変わっても続けられる活動があります。
一方、子どもの頃に競技スポーツへ全力で取り組むことにも価値があります。
将来まで同じ活動を続ける必要はありません。
重要なのは、
自分に合った身体活動を探し、選ぶ経験そのもの
を身につけることです。
スポーツに「治療効果」だけを求めない
保護者がスポーツを探すとき、
この競技なら体幹が強くなりますか?
水泳なら筋緊張が下がりますか?
乗馬なら姿勢が良くなりますか?
と聞きたくなることがあります。
身体機能への効果を研究したスポーツ・運動介入はあります。
しかし、スポーツを処方のように、
この症状にはこの競技
と結びつけることはできません。
スポーツには、
楽しさ
仲間
挑戦
自己決定
地域とのつながり
という価値があります。
研究上も、参加そのものを標的として複数の障壁へ働きかける介入は参加改善につながる一方、身体機能や特定技能の改善だけでは参加向上に直結しないことが示されています。PubMed
スポーツを、
楽しくできるリハビリ
だけにしないことが重要です。
本人にとっての「上手くなる」を確認する
大人が考える上達と、本人が考える上達も違うことがあります。
水泳
25mを速く泳ぐ。
ではなく、
一人で浮けるようになりたい
かもしれません。
卓球
大会で勝つ。
ではなく、
お父さんと10回ラリーしたい
かもしれません。
ダンス
振り付けを正確にする。
ではなく、
発表会に友達と出たい
かもしれません。
本人がどこを目標にしているかを確認します。
競技レベルが上がったら、目的をもう一度確認する
上達すると、
大会
強化練習
遠征
選抜
などの機会が増える場合があります。
これは魅力的な経験です。
一方、
本人が競技を楽しんでいたはずなのに、大会成績だけが目標になっていないか
を時々確認します。
競技力を高めることと、本人の意思を尊重することは両立できます。
大会に出ないという選択もある
クラブへ入ると大会出場が当然になることがあります。
しかし、
練習だけしたい
仲間と活動したい
大会の緊張が苦手
遠征は負担が大きい
という子どももいます。
大会出場だけをスポーツ参加のゴールにする必要はありません。
スポーツ選びの10の質問
迷ったときには、次の質問を使えます。
1.本人は何をやりたい?
2.何をしているときに一番楽しそう?
3.一人と仲間、どちらで活動したい?
4.競争したい?それとも自分のペース?
5.身体のどの動きを使いやすい?
6.疲労や痛みはどのくらい?
7.必要な補助具・介助は?
8.通える場所はある?
9.家庭生活と両立できる?
10.体験後に「またやりたい」と思っている?
この最後の問いは特に重要です。
Research Note|「参加したい活動」から始める支援
2026年に発表されたParticipate-CPのRCTは、このシリーズの考え方にとって非常に示唆的です。
対象は8〜14歳の脳性麻痺児110人で、GMFCS I〜IVの子どもが参加しました。
介入では、
セラピストが身体機能の改善目標を決める
のではなく、子どもが身体活動を伴う余暇活動について、自分自身の参加目標を設定しました。
そのうえで、
本人
家族
環境
にある、変えることのできる参加障壁へ12週間働きかけました。
結果として、通常ケア群よりも、
本人が設定した参加目標の遂行
平均活動強度
地域参加頻度
目標達成
が改善し、参加障壁も減少しました。AAP Publications
これは、
子どもが好きなことだけさせればよい
という意味ではありません。
重要なのは、
先に身体を改善してから参加させるのではなく、参加したい活動を決め、その実現を妨げているものを一つずつ変える
という考え方です。
2024年のメタ分析でも、参加そのものを主目標としてICFの複数領域にまたがる障壁へ働きかける介入は、脳性麻痺児の参加を改善しました。一方、粗大運動・微細運動・筋力など特定の運動技能や身体機能を中心とする介入は、必ずしも参加改善にはつながりませんでした。PubMed
また、身体活動参加を左右する要因は複雑です。
脳性麻痺児・若者を対象としたスコーピングレビューでは、運動障がい、年齢、痛み、コミュニケーションなどが障壁として報告される一方、適応された環境、肯定的な態度、家族支援などが促進要因として整理されています。PubMed
下肢欠損のある子どものスポーツ参加を検討した別のレビューでも、参加には本人の身体だけでなく、社会的・環境的条件が影響することが報告されています。PubMed
ここから考えると、スポーツ選びとは、
最も適性の高い競技を医学的に判定する作業
ではありません。
本人が興味を持つ活動を見つけ、
どうすれば参加できるか
を本人、家族、指導者、必要に応じて医療・教育職が一緒に考えていく過程そのものだと考えられます。
BEABLE Memo|「できる競技」ではなく、「その子らしくいられる場所」を探す
スポーツを選ぶとき、
「この子に何ができますか?」
という問いから始めると、
できないことも同時にたくさん見えてきます。
走れない。
ラケットを握れない。
長時間動けない。
一人では移乗できない。
そうすると、選択肢は少しずつ狭くなっていきます。
けれど、問いを変えると見え方が変わります。
水が好き。
人と勝負すると笑う。
音楽が鳴ると身体を動かす。
速く移動すると嬉しそう。
ボールを狙うと集中する。
友達と同じチームになると頑張る。
そこから、
「この子が、もう一度やりたいと思える活動は何だろう?」
と考えます。
水泳かもしれません。
卓球かもしれません。
車いすバスケットボールかもしれません。
ダンスかもしれません。
乗馬かもしれません。
ボッチャかもしれません。
あるいは、競技ではなく、家族とのサイクリングかもしれません。
その活動に参加するために、
車いすを使う。
用具を変える。
距離を短くする。
休憩を入れる。
誰かに手伝ってもらう。
そうした方法を使ってもよい。
スポーツは、
自分の身体だけでどこまでできるか
を証明する場所ではありません。
身体、道具、人、環境を使いながら、
自分がやりたいことへ関わる場所でもあります。
だからスポーツ選びでは、
「向いているか」だけでなく、
「ここにいるとき、この子はその子らしくいられるか」
という視点も持ちたいと思います。
Today’s Perspective
子どものスポーツを探すとき、次の問いを一つ加えてみてください。
「この子に向いている競技は何だろう?」だけでなく、
「この子が『また行きたい』と言える活動は何だろう?」
上手にできたから。
身体によいから。
大会があるから。
それだけで続くとは限りません。
好きな人がいる。
好きな感覚がある。
挑戦したいことがある。
自分の役割がある。
その場所へ行く理由が本人の中にあること。
それが、スポーツを続ける大きな力になるかもしれません。
まとめ
肢体不自由のある子どものスポーツ選びでは、
身体機能から「できる競技」を探す
だけでは十分ではありません。
スポーツ参加には、
本人の興味
身体機能
痛み
疲労
補助具
仲間
指導者
環境
送迎
費用
家族生活
など複数の要因が関係します。脳性麻痺児・若者の身体活動参加に関する研究でも、個人要因と環境要因が相互に関係していることが示されています。PubMed
そのため、最初に確認したいのは、
本人は何をやってみたいか
です。
経験がなければ、さまざまな活動を体験してみます。
水泳
卓球
バドミントン
ボウリング
陸上
車いすバスケットボール
車いすテニス
ダンス
乗馬
サイクリング
アーチェリー
ボッチャ
など、それぞれ異なる魅力があります。
一つの競技へ絞る必要もありません。
複数の活動を経験し、
何が好きか
どのくらい疲れるか
誰とやりたいか
競争したいか
続けたいか
を確認します。
また、最初にうまくできなかったからといって、「向いていない」と判断しないことも重要です。
用具
距離
姿勢
介助
ルール
環境
を変えれば、参加できる可能性があります。
一方、本人が「もうやりたくない」と感じた場合、その意思も尊重します。
スポーツを辞めることや、別の活動へ変えることも失敗ではありません。
WHOの身体活動ガイドラインは、障がいのある人を含めて身体活動による健康上の利益を示していますが、身体活動は競技スポーツだけに限定されません。世界保健機関
そのため、
一つの競技で身体に必要な運動のすべてを確保する
必要もありません。
好きな競技を楽しみながら、別の運動や日常活動を組み合わせることができます。
そして研究上も、身体機能を高めるだけで参加が自動的に広がるとは限りません。本人が望む参加目標を定め、その実現を妨げる障壁へ直接働きかけることが重要です。AAP Publications
スポーツ選びの目的は、
「この子に最も適した競技名」を決めることではありません。
いろいろな活動に出会う。
やってみる。
好きになる。
合わないと気づく。
別の活動へ変える。
上手くなりたいと思う。
仲間を見つける。
そして、自分に合った身体の動かし方やスポーツとの付き合い方を、自分自身で選べるようになる。
その経験そのものが、子どもの将来のスポーツ参加につながっていきます。
次回、第20回では、Season 1「肢体不自由編」のまとめとして、架空の複合事例を用いたスポーツ参加支援を取り上げます。
たとえば、
「水泳に参加したいけれど、疲労しやすく、車いすを使用し、食事にも時間がかかる子ども」
といった事例について、
姿勢
筋緊張
関節可動域
補助具
疲労
痛み
呼吸
栄養
睡眠
学校体育
地域スポーツ
という第6〜19回までの視点を実際にどう組み合わせるのかを具体的に整理します。
Season 1全体を、「知識」から「その子の参加をどう考えるか」へつなげる回にします。
参考文献・参考資料
Abid M, Cherni Y, Batcho CS, et al. Facilitators and barriers to participation in physical activities in children and adolescents living with cerebral palsy: a scoping review. Disabil Rehabil. 2023;45(25):4322-4337. 脳性麻痺児・若者の身体活動参加に関わる個人・環境要因を整理したレビュー。PubMed
Sakzewski L, Reedman S, Boyd RN, et al. Enhancing Physically Active Leisure Participation for Children With Cerebral Palsy: A Randomized Controlled Trial. Pediatrics. 2026. 本人が設定した身体活動を伴う余暇参加目標と、変容可能な参加障壁を標的としたParticipate-CPのRCT。AAP Publications
Dimakopoulos R, Vakalaki T, Spinou A, et al. Effectiveness of therapeutic interventions on participation in children with cerebral palsy: a systematic review and meta-analysis. Child Care Health Dev. 2024;50(4):e13301. 参加そのものを標的にする介入の有効性を検討したレビュー。PubMed
Batley A, Sewell P, Dyer B. Facilitators and barriers for participation in sports and physical activity for children with lower-limb absence: A systematic review. Prosthet Orthot Int. 2023;47(4):368-378. 下肢欠損のある子どものスポーツ・身体活動参加に関する促進要因・障壁を整理。PubMed
World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. 2020. 障がいのある人を含む身体活動と座位行動に関する国際的ガイドライン。世界保健機関
