Merry Merry Berry
「ソフィー、雨戸を閉じて。もうじき暗くなるわ」
彼女はお母さんに促されるように急いで雨戸を閉じた。
窓の外は月明かりが辺りを照らしとても気持ちのいい夜だったが、物音ひとつない静まり返った村の中にソフィーの家はあった。
もう2年になる。
ことの始まりは村の男たちが見つけた山の頂にある立派なコーヒーノキだった。
元々200世帯ほどが暮らす小さな村だったこともあり、それぞれが得意なことを活かし助け合いながらのんびり暮らしていた。
火山灰を土壌にもつ豊かな土地柄、村の大きな収入源はコーヒーが中心となっていた。ミネラル豊富なシラス大地は水捌けもよく、コーヒーノキにとって最適な環境が整っていた。
その日は朝から慌しかった。
女性たちは男たちの腹ごしらえにとたくさんの食料を準備し、男たちはまだ足を伸ばしたことのない森の奥を目指す計画を立てていた。
近隣の森ではコーヒーノキを取り尽くしてしまい、新たな土地を求めていた。
やがて男たちは少年のような眼差しで帰ってきた。それは今まで見たことのないほど大粒でツヤツヤした、まるで果物のようなコーヒー豆だった。
焙煎してみると、まさしく葡萄の芳醇な味わいの中に野いちごの優しい酸味が広がり、今まで誰も飲んだことのない全く新しいコーヒーだった。
女性たちはこれで冬を越せて村が豊かになると安堵した。
が、男たちは違った。
もともと伝統的な生活を重んじる者たちと、交易をさらに広げたいと考えていた者たちで意見が割れた。
両者の言い分はそれぞれにある。
伝統的な生活を重んじる者たちは、必要な分だけを収穫して、同時にそのコーヒーノキを植えながら長期的に安定した運用を提案した。
一方、交易を広げたいと考えるものは、他の村に見つかる前に収穫し尽くして現金に換え、村の発展を優先すべきだと主張した。
話し合いを重ねたが意見はまとまらず、男たちはそのコーヒーノキがある山頂で、お互いが勝手なことをしないか牽制し睨み合いが続いた。
村に残された女性や子供たちは、男たちが食料を求めて山を降りてくる度に食料を手渡した。
やがて畑を耕す男手がいなくなると土地は荒れ、日々の食糧もままならない状況に陥った。
そんな中、夜になると村を歩き回る不審な影が目撃され、陽が落ちると雨戸を閉めてひっそりと夜をしのぐ生活が始まった。
その夜は新月だった。
こっそりと部屋を抜け出して、ソフィーだけが知っている緑のトンネルを抜けて秘密の丘を目指した。
「ヨールンは来るかしら」
毎月最初の金曜日に、2人で見つけたほうき星を観測するのがお決まりになっていた。
ちょうど2年前-
夜風に吹かれながら、寝転がって見上げた空に見つけた小さな小さなほうき星。
ヨールンと私だけの秘密。
緑のトンネルを抜けて開けたところに出ると、ヨールンが手をふった。
「ソフィー!夜にお忍びで天体観測なんてステキよね!」
ヨールンはポケットからまんまるドロップを2つ、ソフィーに手渡した。ふたりで肩を並べて見上げた星空に、ふたりが見つけたほうき星。
「ヨールン、今日はなんだかほうき星が大きく見えるわ」
ドロップをひと粒口に入れながらソフィーがつぶやいた。ヨールンは絵が得意で観察日記を描いていた。
「あれ?ほうき星の尾っぽが見えない。先月の絵日記と比べると、、」
と言いながら観察日記を確認すると、1ヶ月で3倍の大きさになっていることがわかった。
「近づいている!こっちに向かってきているわ!」
明らかに大きく見えるほうき星は、かすかに尾を見せながら一直線に向かってくるように見えた。
「村のみんなに知らせなきゃ!私は山頂のみんなに知らせに行くわ!ヨールンは村のみんなにこのことを伝えて!」
ソフィーは駆け出しながらヨールンに叫んだ。
ヨールンが大きく手を振るのを確認して、ソフィーは急いで山頂へと駆け上がった。
ー夜は家の中で静かにしていたから気が付かなかったんだわ-
そんなことを考えながらソフィーはとにかく走った。
やがて山頂を見下ろせる高台に辿り着いた。
男たちはコーヒーノキを挟んで沈黙を守っていた。
ソフィーは指笛を思いっきり吹いた。
それは、ヨールンと秘密の丘で待ち合わせする時の合図でもあった。
高く澄んだ伸びやかな高音が山一帯に響いた。
睨み合っていた男たちはソフィーの指笛が聞こえる方へ視線を上げる。
「星が、星が落ちてくる!!」
男たちは自分たちのことばかり考えていて、ほうき星が今にも落ちてきそうなことに気付いていなかった。
慌てた男たちは一目散に山を駆け降りた。
その頃、ソフィーの指笛を聞いたヨールンは村人たちに山頂から男たちが帰ってくることを告げた。
-きっとお腹を空かせて帰ってくるに違いない-
村人たちは総出で炊き出しを作った。
とにかく食べなくては始まらない。
山を駆け降りてきた男たちは、タイミングよく出来上がった暖かいご飯を肩を並べて食べた。
村人がそれぞれの価値観や対立を忘れて、みんなで食事をするのは2年振りだった。
少し遅れて村へ戻ったソフィーは、ヨールンの側に駆け寄るとハイタッチした。
ポケットのドロップを口に放り込むと、昔はみんなで仲良く暮らせていたのになぁって抑え込んでいた感情が込み上げてきた。
食事を終えた頃、夜空がパッと明るくなった!
腹ごしらえの済んだ村人たちは一斉に夜空を見上げた。
そこにはまるで線香花火のような無数のほうき星が、たくさんの放物線を描いていた。
ソフィーとヨールンが見つけた秘密のほうき星は、村人たちのわだかまりも一緒に流していった。
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12月 『なんのはなしです珈』は、グアテマラとエルサルバドルのお豆【 Merry Merry Berry 〜甘いブレンド〜 】です。村人たちが山頂で見つけた果物のようなコーヒーに仕上がっています🍓🍫
ケーキや焼き菓子などスイーツとのペアリング抜群です🍰創作のお供にもぜひどうぞ✨
11月末までに頂いたご注文の発送を12月上旬に予定しています。12月以降のご注文は飲み頃発送になります。
期間限定のスペシャルブレンドをぜひお楽しみください🪴
