ほろ苦い甘皮に、守られてるんだよ
すこーし控えめな匂いがするのですね、今週は。ちょっとしっとりした感じの柑橘の香りがでています。黄みの橙に染まってきた、6月なかばの感情予報。それはまさに、イエローウィッシュ・オレンジ。
いまね、濃い茶色がちょっと剥げてきたテーブルの上に、小ぶりの日向夏があります。この季節の柑橘類です。
とてもよく冷えてる。ナイフで黄色い外皮だけを、薄くはぎとっていく。するとスポンジ状の白い甘皮がでてきます。
それをスパッと、ナイフで切るとジューシーな実。
このオレンジ色の実と、すこしほろ苦い甘皮を、いっしょに食べることで完成する味があります。
あの果皮の内側にある、ふかふかとした、どこか湿り気を含んだような白い皮の質感。それはまさに、梅雨時のしっとりとした空気や、山を包む白い霧、そして雨をたっぷりと含んだ雲そのものを連想させます。
その向こうには、夏の太陽があるんですよね。でもまだちゃんと姿をあらわさない。
いまはまだ雨の季節。
ジメジメしていて、お出かけするのもなんだか億劫。
それなのに、心のどこかでは
「だれかの声が聞きたいな」
「なんだか寂しいな」
なんて、ちょっと矛盾した気持ちが湧いてきたりしませんか。
からだが発する「お家にいたいサイン」と、心が求める「繋がりへの欲求」。
このちぐはぐな心の揺れ動きは、今週のちょっと面白い〝心のバグ”のようなものです。
今週のイエローウィッシュ・オレンジが教えてくれるのは、静かで、押しつけがましくないつながり方。
たとえば、雨の音につつまれた静かな部屋で、ふと思い浮かんだ人に、他愛のないメッセージをひとこと送ってみる。あるいは、いつもは聞き流してしまう音楽に心ひかれる。賑やかな場所へいかなくても、なにかクリアに伝わってくるものもあります。
孤独を楽しむことのできる強さ。
なにかを求めてしまう素直さ。
これって、けっして矛盾するものではありません。
雨粒が景色を優しくぼかしていくように、今週は自分の心と人の心の距離が、一番心地よい場所にそっと収まっていく一週間になります。
今週の週末には、夏至がやってきます。
一年でいちばん、日の長い日。
光が強いぶんだけ、自分のなかの影もすこし濃くなる季節です。
それとね、天文学的にはこの日から「日が短くなっていく」起点でもあること。ピークとはいつも、すでに折り返しの始まりなのです。
昔の人たちは、この日をとても大切にしていました。
私たちの暮らしている世界と、もうひとつの別の世界の扉が、開くと考えたのですね。向こうからは、いろんなものがこの世界に流れこんでくる。ちょっと怪しいものもね。
それって、ある意味カオスなんだけど、でも、おかげではっきりと見えるものもあるのです。
なので、この日を境に、ほんとうに大切なことが、急にくっきり見えてきたりする。逆に、どうでもよかったことが、理解できたりするかもしれません。そういうチャンスなんですね。
もうすこし言い方を換えてみると、こんな感じ。
自分らしくいることと、
まわりの期待にこたえること。
そのふたつが、「エイッ、オー!」って綱引きをしてる。
ですから、けっこう疲れるんですよ。
外の世界が揺れているとき、自分の内側だって静かではいられない。お家のなかにいても、カオスがあって、綱引きがあるわけです。
それって、これからの本格的な夏を迎えるための、儀式みたいなところもあります。
ですから、恐れる必要はないけど、なめちゃいけない。
大切なおまじないがあります。
休憩すること―――。
簡単だけど、案外と難しいんですよね。
この時季の柑橘がもつ、独特の奥ゆかしさや控えめな美しさ。
果肉のみずみずしさを守るために、水分をたっぷり蓄えて包みこむ姿。
それが、今週の空気なのです。
植物学的にいえば、あの白い部分はアルベドっていいます。ラテン語で「白さ」を意味する言葉。
ジューシーでみずみずしい果肉を守るための、あのほろ苦い白い皮。その曖昧で繊細な味わいは、晴れとも雨ともつかない感情の空模様。
それがあるからこその、イエローウィッシュ・オレンジなのです。
-2026.5.14 -
by 海辺の散歩者
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