頭が破裂などしない!!!!
首をかしげるフィンに、烈火は早口でじゃんけんについて説明する。
「……いや、それはおかしいでありますよ」
「はぁ!? なにが!」
「紙がハサミに負けるのはいいでありますけど、ハサミが石に負けるのはおかしいであります。ハサミ側は何の損害も受けていない。これは引き分けにすべきであります」
「あぁ……うん……まぁ……」
「それに、石が紙に負けるのも意味が分からないであります。ただ包み込まれただけであります。むしろそこから突き破れるのでは? これは石の勝ちなのでは?」
「めんどくせーよコイツ!!!! クラスにひとりはいたわこういう奴!!!!」
「小官が言いたいのは、それぞれの組み合わせで勝利条件が違っているために統一性がなく、勝敗に説得力がないということであります。相手を撃破すること。相手の機能を果たさせないこと。相手を拘束すること。すべて全く別の事柄であります。それをひとつのゲームの中で等価のものとして扱おうというのは、」
「うるせーよ!!!! 黙れよ!!!! わーったよ!!!! 俺が悪かったよ!!!! 腕相撲で決めよう!!!!」
「あっ、ずるいであります! レッカどのが絶対勝てる勝負であります!」
「うっせえ!! だったらつべこべ言ってねえでじゃんけんだ!!!!」
「うー、仕方ないであります……」
フィンは指を動かしてそれぞれの手を確認すると、烈火を睨みつけた。
「では尋常に勝負であります!」
「はい最初はグー!!!!」
「「じゃん・けん・ぽん!!」」
フィンがグー。烈火がパーであった。
「カーカカカカカカカカカ!!!! ブァカめぇ!! 凡人が俺に勝てるかァーッ!!!!」
「あぁー……」
しょぼーん、と肩を落とすフィン。
「あいや待たれい。小生を忘れてはおらんか。」
「へ?」
見ると、少し離れた位置に総十郎のチョキが出されていた。
これで場に出ている手はグー、チョキ、パーの三つとなる。
「あ゛あ゛ん!? テメーなにいきなり横から割り込んでるわけ?」
「使う寝室を決めるなら小生も無関係ではあるまい。お主こそ小生抜きでやるとはどういう了見か。」
「ぐっ……」
「さておき、この場合の処理は引き分けになるのかな? 動体視力と反射神経を競うゲヱムか。なか/\興味深い。」
「て、テメェ……ッ!!」
口の端を釣り上げて微笑む総十郎に、烈火は目を剥いた。
●
フィンはあずかり知らぬことであったが、この時烈火と総十郎の間には水面下での攻防が繰り広げられていた。
烈火がフィンに勝てたのは、別に強運だったからではない。世紀末動体視力と世紀末反射神経による力技の世紀末勝利である。
手が出る一瞬のフィンの指の動きを視認し、それに勝てる手を出しただけだ。
これに対して総十郎は、神籟孤影流斬魔剣、雀式初伝〈井〉によって烈火の意を察知。その勝利を無効化する手を瞬時に出したのであった。
雀式は相手の意志や自らの心構えを律する奥義大系であり、無拍子の境地に至らぬ相手ならば初伝であっても絶大な読心能力を発揮できる。
――この野郎、俺の足を引っ張る気かァーッ!!
――まったく大人げない男だ。寝室ぐらい譲ってやりたまえ。
熾烈なアイコンタクトを交わす両者の間で、フィンは無邪気に音頭を取る。
「ではソーチャンどのも交えて改めて! じゃーん・けーん……」
――テメーの魂胆は読めてんだよロリコン!!!!
世紀末動体視力によってフィンの次の手はチョキであることが見て取れた。
普通ならばここにグーを叩き込むところだったが、必ず総十郎がパーを出して阻止しにかかるはずだ。これではフィンがどの手を出そうが必ずあいこになってしまい、勝負が終わらない。烈火が根負けして勝負を諦めるまで、総十郎はこれを繰り返し続けるだろう。
――この超天才に秘策あり!!!!
どうせロリコン野郎はこちらのことを身体スペックがバカ高いだけのアホだと思っていることだろうが、実は違う。
黒神烈火は無拍子の境地に至っている。頭で考える前に行動を起こすという、武の極地に至っているのだ。めんどくせえし身体能力のゴリ押しでどうにかなる相手ばかりなので普段は使わないだけである。
これによって総十郎は事前に烈火の手を予測することができなくなる。
だが、奴にはまだ手が残されていた。フィンの手を予測すれば、逆算して烈火の手も自ずと詳らかになるからだ。
フィンがチョキである以上、あいこを維持するために総十郎はパーを出すしかない。
――関係ねえなぁ!!!!
「「「ぽん!」」」
フィンがチョキ。そして烈火が――チョキ。
これこそが烈火の秘策であった。フィンを負かす前に、まず総十郎をゲームから排除するのだ。
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